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リオ五輪敗退が意味するもの。中島翔哉に見られる“サッカー小僧からの卒業”

清水英斗サッカーライター
リオ五輪合宿中の中島翔哉(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

サッカーにおける五輪は、奇天烈な存在だ。

世界的にU-23世代といえば、すでにA代表の主力がごろごろいる。わざわざ23歳で区切る意味はなく、より歴史の古いU-20ワールドカップの上に取って付けたような年齢制限だ。まして、オーバーエイジ3名という例外制度。正直に言って、何の頂上を目指す大会なのか、よくわからない。FIFAとIOCによる妥協の産物、それ以上の定義は難しい。

とはいえ、日本のサッカーにとっては、ありがたい機会だ。

手倉森ジャパンのリオ五輪は、1勝1敗1分けの勝ち点4でグループリーグ敗退に終わった。

どんなに奇天烈な大会であっても、「勝たなければいけない」という目線を日本中から浴びせられる以上、五輪はワールドカップ級の真剣勝負となる。そして、真剣勝負の場は、選手にたくましさを身に付けさせ、「自分は変わらなきゃいけない」という覚悟をそれぞれに要求する。

特に私が変化を感じたのは、10番のMF中島翔哉だ。

ドリブル大好き、荒削り、感覚的、そして、戦術的に未熟。これが以前からの中島のイメージであり、半年前の五輪最終予選時でさえ、その印象は抜けなかった。

典型的なシーンは、決勝の韓国戦。前半20分、日本の失点は、中島が軽率なスライディングタックルをかわされた瞬間から始まった。スライディングは博打守備で、リスクが大きい。中島がズバッとかわされ、完全にフリーになった韓国に、サイドチェンジからのクロスで先制点を許した。

スライディングは、ゴール前のピンチに対する最後の手段、あるいは絶対にボールに触れると確信できるときのみ、使える守備だ。中島には戦術的なセオリーの不足、未熟さを感じた。

ところが、今回の五輪本大会では同じ様子は見られない。

ナイジェリア戦の前半37分には、韓国戦と似たシーンで、後追いで斜めから寄せる場面があったが、中島は滑り込まず、立ったままで寄せた。うまくクロスを身体でブロックできたが、仮に身体に当たらなくても、守備陣としては中島が寄せたことで制限されたタイミングでクロスに準備できる。3試合を通して、中島には予選のような軽々しいタックルは見られなかった。小さなことだが、重要な変化だ。

唯一、気になったのは、ナイジェリア戦の序盤。藤春廣輝と2人で相手を挟み込みに行った失点シーンだ。

献身的に走っているのはいいが、挟み方が、まるでハンバーガーのバンズのように平行で、これでは空いたすき間から相手に抜けられてしまう。実際、抜けられた。中島は藤春との間を抜かれないように、中を絞りつつ、追い詰めなければならない。このシーンだけは気になった。とはいえ、それ以外のシーンで中島はよく対応できていた。

元々の中島は“10番タイプ”のトップ下だったが、手倉森ジャパンでは途中からポジションを左サイドハーフへ移している。

中島の長所の一つに、運動量とスタミナがある。たとえばコロンビア戦の後半29分、2-2に追いつくミドルシュートを決めた。シンプルに味方を生かす判断の早いプレーを心がけていた中島だが、この時間帯はコロンビアのプレスが緩くなり、ボールを持って仕掛ける回数が増えていた。みんなが疲れてくる時間帯に、スタメン出場にもかかわらず、フルパワーで行けるのが中島の強みだ。

このタフネスを生かすなら、トップ下よりも負荷の高い守備が求められるサイドハーフは適任だった。ただし、フィジカル的に合っていても、守備戦術が未熟では、走り損だ。小さなことでも、一歩一歩、守備戦術を身に着けているのは重要なステップだろう。

手倉森ジャパンは、各選手に成長を促す場だった。中島においては、ボールに触りたい選手から、勝利を導く効果的な選手になるために。このチームからの卒業は、中島にとって、サッカー小僧からの卒業を意味するはず。

Jリーグでの出場機会も自然と増えるだろう。チーム立ち上げの2年前とは異なり、今はチームメートの多くがJ1で出場している。中島としては忸怩たる思いがあったはず。

10番を捨てて新境地を見つけたか、あるいは新たな10番像を見つけたと言うべきか。今後の中島に注目してみよう。もちろん、90分を通して。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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