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『不安定な若さ』に期待しよう 2011年の吉田麻也に続くのは誰か?

清水英斗サッカーライター

2011年にカタールで行われた前回のアジアカップでは、『吉田麻也』という当時22歳の若手センターバックがザッケローニ監督によって抜擢され、日本代表のスタメンに名乗りを挙げた。

この大会で実質的なA代表デビューを果たした吉田は、現在に至るまでの4年間、日本の最後尾を支える砦として君臨してきた。タイトルはもちろんのこと、未来へのバトンという視点でも、アジアカップは大きな意味を持つ大会である。

当時のチャレンジについて、4年の月日を重ねた吉田は、次のように回顧する。

「あのときは入ったばかりで、本当に手探りでした。とにかく上の人について行って、勝たせてもらった試合でしたし、とにかく自分は、自分のできることをして、爪あとを残したいと思っていた。まあ、“良くも悪くも”、監督にインパクトを残して、ここまで来ている。代表に定着するために、いいきっかけになった大会だと思います」

2011年、初戦のヨルダン戦は、アディショナルタイムに吉田が決めたヘディングのゴールで辛うじて引き分けに持ち込み、吉田がチームを救った。その一方、決勝トーナメントのカタール戦では、吉田が2枚目のイエローカードを受けて退場し、直後のフリーキックを決められて1-2と勝ち越されてしまう。最終的には逆転を果たしたが、ここでは逆に、吉田がチームを窮地に陥れた。若さと不安定さは、ときに同居せざるを得ない。

しかも、この苦い体験を経て、吉田がガラリと変わった……という美談も、実際には成立しない。なぜなら、この大会後も、吉田の不安定なプレーは続いたからだ。

典型的なシーンを抜き出すなら、2013年3月のワールドカップ最終予選、ヨルダン戦で吉田が相手のカウンターによるドリブル突破を許し、失点を喫したこと。同6月のコンフェデレーションズカップ、イタリア戦で、無理にボールを生かそうとしてクリアをためらい、同点ゴールを許したこと。同8月の親善試合、ウルグアイ戦で、クロスボールのクリアを失敗したこと。多くの例が積み重なり、吉田には「肝心なところで集中を欠く」というイメージがついた。

長くサッカーをして、体に染み付いたプレー習慣が、たったひとつの苦い経験で消えるのか? そんなことはあり得ない。そんなに簡単なものではない。

当時、筆者が気になっていたのは、吉田が「パフォーマンス」という平たい言葉で、試合を振り返る傾向が強いことだった。センターバックは一滴の水漏れすらも許してはならない、厳しいポジションである。89分間すばらしいプレーをしても、わずかひとつの場面で致命的なミスを犯せば、評価はひっくり返る。ユース時代までボランチを務めていた吉田の発言からは、試合の状況がよく見えているという視野の広さが伺える一方、まるで中盤の選手のように、あるいは監督のように、試合を平たく考えすぎている印象も受けた。筆者はその点にセンターバックの選手としての物足りなさを感じ、著書『居酒屋サッカー論』の中に記している。

ところが、ここ1年ほどの吉田は、過去のネガティブイメージを覆しつつある。やはりプレミアリーグ、所属するサウサンプトンでの日々が大きな影響を与えているようだ。世界のトップリーグで上位を走るチーム。そこで試合に出るのは簡単なことではない。

サウサンプトンでは「ボランチが止めてくれることが大きい」と前置きしながらも、次のように語ってくれた。

「より堅実に、手堅くプレーすることは意識しています。向こうでは、相手はワンチャンスをものにしてくるので、細かいところにこだわって、突き詰めなければいけない。ワールドカップの後だから、というわけではないですけど、それはずっと自分の課題でもあるし、そこを乗り越えないと、次のレベルには行けないのかなと感じている」

“堅実さ”。それはここ1年ほどの吉田のプレーから、特に強く感じられる要素だ。以前の吉田は、もっとリスクチャレンジを積極的に行うイメージがあった。しかし、最近はセンターバックらしさというか、たとえボールを捨ててでも、勇気がないとそしられてでも、一滴の水漏れすら許さない。そのような最後尾の覚悟が感じられる。

「普段、チェルシーのアザールのような選手と対戦していると、アジアカップではもう少しリスクを負ったタックルに行けるとか、そういうディフェンスの気持ちが変わるところはある?」と聞くと、吉田はひと呼吸置いて、答えた。

「まあ、そういう気持ちになりがちですよね。だから、そこは自分を律して、常に高いものを求めてやらなきゃいけない。その油断を、特に中東のチームは突いてくると思うので。中東は特に、スプリント力があって、バネがあって、スピードに乗ったら厄介な選手が多いので、油断せずにやっていきたいと思っています」

この4年で、吉田は頼もしいセンターバックに成長した。今季は試合を重ねるごとに少しずつ出場機会が増え、サウサンプトンとの契約も2018年まで延長している。プレミアリーグの上位を走るクラブから、日本人センターバックがこのような評価を受けたのは、歴史的な出来事。決して言い過ぎではない。

ふたたび、“原点”のアジアカップに戻ってきた吉田。振り返れば、ここはスタートラインだった。

「前回の僕みたいな選手が出てこなければいけないと思うし、それがチームの良いスパイスになる。その中で、自分も競争に勝っていかなければと思います」

今大会でも、その後の4年間を見るのが楽しみになるような、“不安定な若手”は現れるのだろうか。楽しみでならない。「良くも悪くも」で構わない。爪あとを残してもらいたい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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