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合計特殊出生率の実態は公表値よりも低いという不都合な真実

島澤諭関東学院大学経済学部教授
図はイメージです(写真:イメージマート)

2014年5月に日本創成会議により公表されたいわゆる「増田レポート」は、「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」と指摘し、当時の安倍晋三政権が地方創生に取り組むきっかけにもなった。

あれから10年が経ち、増田寛也元総務相(現日本郵政社長)らは、先日、

2060年に人口を長期的に維持するのに必要な2.07に改善させ、2100年に人口を8000万人の規模で安定させて成長力のある社会を構築することを目指すべきだ

(出典 NHK 日本の人口問題 有識者が提言「2100年に8000万人目指すべき」2024年1月9日)との提言を打ち出した。

そもそも、安倍内閣以降の地方創生によっても出生率は一向に好転しなかったにもかかわらず、まったくその反省もなく、またぞろ同じような提言を出す心の強さには、筆者なんかは逆に感心してしまう。

役人の考えた地方創生に役人が予算をつける、上からのお仕着せの地方創生が成功する訳がないのは、火を見るよりも明らかだし、「内閣に「人口戦略推進本部」なる司令塔を設置したり、有識者や経済界、地方自治体などが自主的に参加する「国民会議」を立ち上げ」(先のNHK記事)たところで、少子化の流れを反転させるのは困難だ。

実際、先進国で政策によって安定的に合計特殊出生率を人口置換水準である2.07を回復した国は存在しない。

そうした事実が存在するにもかかわらず、なぜ、日本だけが今少子化対策を実施すれば、人口置換水準を回復することが可能となるのか、筆者には全く理解できない。

ただし、日本で(もしかしたら世界で)一番少子化が進んでいる秋田県を本拠とする秋田魁新報さんの力作である「連載:地方創生 失われた10年とこれから」の一連の記事から、いわゆる「増田レポート」の立役者が誰なのかを知り、そのインタビューを読めば、おぼろげながらにその背景が浮かび上がってくる(ちなみに、この連載記事は秋田県以外の方も課金してでも読む価値ありです!)。

役人っていうのはね、言わないもんなの」 “増田レポートの立役者”を訪ねて

連載:地方創生 失われた10年とこれから:第1部 看板政策ねじれた発進(秋田魁新報社 2024年1月6日)

要は、根拠も実績もなく政策で少子化を反転できると国民に夢をばら撒くことで、本来必要な社会保障制度改革から国民の目を逸らせ、本当は、ネズミ講型の社会保障制度を改革することで少子化や人口減少にも耐えられる国づくりが必要なのに、痛みや反発を伴う必要な改革を回避するために他ならない。これでは、日本という国が本当に滅んでしまう。少子化対策はネズミ講型社会保障制度の大改革が不可欠という不都合な真実から目を逸らせる目くらましでしかない。

前置きが少々長くなったが、少子化対策の重要な指標の一つに「合計特殊出生率」があるが、実はこの合計特殊出生率は実態より過大に推計されていることはご存知だろうか?

詳しくは、

合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは(東京新聞 2023年7月2日)

をご覧いただければと思うが、要は、分母の女性人口には外国籍の女性を計上しないのに、分子の出生数には外国籍の女性が生んだ日本人の子どもが計上されているからだ。

そこで、分母に外国籍女性を含めて試算した合計特殊出生率(修正TFR)と政府が公表している合計特殊出生率(TFR)を比較したのが下図である。

図 合計特殊出生率(政府公表値)と修正済み合計特殊出生率の比較
図 合計特殊出生率(政府公表値)と修正済み合計特殊出生率の比較

やはり、政府が公表している合計特殊出生率は過大であり、より実態に近い2022年の合計特殊出生率は1.18しかなく(公表値は1.26)、戦後最低を記録したこと、外国籍女性の増加とともに公表値と推計値の乖離幅が拡大傾向にあることが分かる。

そもそも、正確な実態把握も行わず、これまでの政策効果の検証も一切行わず、異次元の少子化対策を実施しても、司令塔を乱立しても、少子化は止まらないと筆者は考える。

さらに進んで、少子化対策を政府の任務から外し、その代わりに、少子化にも強い制度・仕組みづくりを任務とするのはどうだろうか?(そもそも少子化対策(出生増)が政府の正式な任務であるかは疑わしい)

読者の皆さんはいかがお考えだろうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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