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日本は緊縮財政ではない。メタボ財政から脱却するには消費税換算で12%強のダイエットが必要という現実

島澤諭関東学院大学経済学部教授
写真はイメージです(写真:アフロ)

巷では、日本はバブル崩壊以降ずっと緊縮財政であると指摘されているようです。

しかし、筆者は「日本は緊縮財政なのか?政治家たちの勘違い」(Wedge Online 2023年9月24日)という記事で、日本はバブル崩壊以降一貫して放漫財政であることを指摘しました。

その時、使用した経済学的な概念は完全雇用財政余剰(赤字の場合は完全雇用財政赤字)というものでした(詳しくは先の「日本は緊縮財政なのか?政治家たちの勘違い」をご覧ください)。

完全雇用財政余剰は、1960年代前半のアメリカでいわゆるオールドケインジアンが全盛の頃、現実の政策立案の場において利用されていました。ちなみに、日本では1972年の経済白書でも推計されています(白書では完全雇用財政余剰ではなく完全雇用バランスとされています)。

完全雇用財政余剰については、現在は、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)でGeneral government structural balance(構造的財政収支)として推計されています。

図 財政収支、循環的財政収支、構造的財政収支の動き((出典)IMF WEO databaseにより筆者作成)
図 財政収支、循環的財政収支、構造的財政収支の動き((出典)IMF WEO databaseにより筆者作成)

IMFによると、上図から、需要不足から生じる循環的財政赤字は解消していること、完全雇用が達成された(潜在成長力がフルに発揮された)としても財政赤字が残る、つまり完全雇用財政赤字が発生していることが分かります。

要するに、完全雇用財政赤字が発生しているということは、日本のマクロ経済が持つ実力に見合った税収が得られたとしてもなお歳出が税収を超過しているということですから、すなわち、経済の真の実力以上の財政赤字を垂れ流し続けている放漫財政と言えるわけです。

一定の仮定のもとに、IMFの完全雇用財政赤字の推計などを用いて、2023年度の完全雇用財政赤字額を機械的に試算したところ37兆円となりました。

つまり、日本の完全雇用財政赤字を解消しようと思えば、消費税率12%強相当の歳出削減(もしくは増税)を行う必要があるということです。逆に言えば、37兆円の無駄遣いが行われていることにもなります。ちなみに、この37兆円という額は2023年度一般会計当初予算で言えば社会保障関係費36.9兆円を丸々削減するのに等しいぐらいの巨額な金額です。

もちろん、実際には地方財政や特別会計も含めて考える必要があるものの、それでもやはり巨額な歳出削減が必要であることが分かるでしょう。

あるいは、歳出削減によってではなく、歳入増、つまり増税によって37兆円の収支尻をあわせる方法もあります。

このとき、国・地方合わせた消費税収は2023年度予算では30兆円と見込まれていますので、消費税率1%あたりではだいたい3兆円の消費税収があることになります。

つまり、2023年度の完全雇用財政赤字額37兆円を消費税率の引き上げで解消するならば、12%強の消費税率引き上げが必要になるわけです。

なお、この結果、国民負担率は55.6%にまで上昇することになります。

37兆円ものメタボ財政をダイエットするために、歳出削減を選ぶのか増税を選ぶのかは国民の選択ですから、確たることは何も申し上げられませんが、需要を増やすために財政資金を湯水の如く投じても完全雇用GDP(あるいは潜在GDP)を大きく超えてGDPを増やすことはできませんので、経済成長に伴う税の自然増収に頼って財政ダイエットの苦しみを軽減するにしても、需要ではなく潜在GDPを増やす努力が必要だということになるでしょう。

報道によれば、岸田文雄首相は10月に取りまとめる経済対策の柱を本日25日に表明する方向で、経済対策策定の指示は明日26日に出す見通しとのことですが、潜在GDPの底上げに寄与しない経済対策は、完全雇用財政赤字(構造的財政赤字)をいっそう悪化させ、そこから脱却するために必要となる財政再建努力も増すことになるでしょう。

経済対策の柱、25日表明へ 首相、賃上げや投資促進軸(共同通信社 2023年9月22日)

いずれにしても、メタボな財政から脱却し、私たちの子や孫に筋肉質の財政をバトンタッチするため、強い意志と覚悟をもって継続して財政のダイエットとマクロ経済の強靭化に励まなければならないことは明らかです。

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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