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弁護士への大量懲戒請求は何が問題か?

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
裁判所のイメージ(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 弁護士への大量不当懲戒請求が報道されていますが、私自身もこの被害者の一人です。

 2017年11月以降、同一理由で958件もの大量の懲戒請求を受けています。

 これに対しては、私が原告となり、2018年11月以降、懲戒請求者に対して民事訴訟提起という法的措置を講じており(事前の和解に応じない懲戒請求者は、順次全員を提訴予定)、この件も各種メディアで報道していただきました。現在、私を原告として1~4次の訴訟で合計28名の懲戒請求者に民事訴訟を提起しています。

 この問題については、既にYahoo!個人ニュースのオーサー仲間でもある佐々木亮弁護士が、既に当事者として記事を書いていらっしゃいますが、私も当事者であるうえ、懲戒請求された背景などが異なりますので、少し解説したいと思います。

弁護士懲戒制度の意味

 そもそも、弁護士の不祥事などを対象にした懲戒制度は誰もが無料で申立できますが、弁護士法56条により、懲戒権限は弁護士会(私の場合、神奈川県弁護士会)がもっています。

(懲戒事由及び懲戒権者)

第五十六条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。

 というのは、弁護士は,弁護士法第1条に基づいて基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命としており,訴訟や提言等を行うことで,ときには国家権力と対峙します。もし国家権力が弁護士に対する懲戒権限をもっていると,懲戒権を背景に弁護士の活動を封じ込めることが可能になってしまい、弁護士の活動が萎縮して,基本的人権の擁護がままならなくなるおそれがあるのです。そのため,弁護士会には自治権が認められており,弁護士に対する懲戒権限は,弁護士会が有しているし、誰もが申立できるように無料とし門戸を拡げているのです。

 その制度を悪用し、特定のブログを通じて、弁護士への懲戒請求が呼びかけられ、懲戒請求が行われているのです。

 そのブログでは、在日朝鮮人などに対して差別的な言論を繰り返し(ここでは引用を憚られるほどのもの)、在日朝鮮人の差別に対して抗議する方などが数多く攻撃に晒されています。

不当懲戒請求の態様など

 弁護士を対象とする懲戒請求による攻撃は、佐々木弁護士や私に限らず多数の弁護士に対して行われています。

 中には、弁護士会に所属する会員全ての弁護士を対象に行われた懲戒請求もあり、これに対しては私の所属する神奈川県弁護士会では、懲戒請求としては受理しないことも明らかにしています

 とはいえ、私の様に、個人を特定し行われた懲戒請求については正式に受理され(1件1件、懲戒請求に番号が附され処理されています)、弁護士会としても多大な事務負担を被っています。

 これは、典型的な業務妨害行為といえるでしょう。

 誤解されている方も多いですが、弁護士会の活動費用については、国からの援助では無く会員弁護士が拠出する会費が原資です。弁護士会への業務妨害は、間接的には会費を支払っている全ての弁護士への経済的な負担を強いる行為でもあります。

私への大量懲戒請求の発端

 発端は、私と同じくYahoo!ニュース個人のオーサーであり、労働者側の立場の弁護士として活動する佐々木亮弁護士に対して行われた1000件超の懲戒請求です。

 その懲戒理由は、佐々木弁護士が弁護士会の出した「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は…二重の確信的犯罪行為である」というものでした。

 ですが、佐々木弁護士は、そもそもこの声明作成にも朝鮮学校の問題にも一切関与していません。

 にもかかわらず、佐々木弁護士が狙われたのは、労働弁護士として関わる争議が原因と推測されます。佐々木弁護士は、懲戒請求を呼びかけるサイト関連本などを出版している青林堂を相手にする労使紛争で、会社と対峙する労働組合の代理人になっています。これしか、佐々木弁護士へ大量に懲戒請求が行われた原因は考えられません。

 佐々木弁護士がTwitter上で、この大量の懲戒請求へ抗議するTweetを書いていました。

 これに呼応する形で私もTwitterでたった一度だけ「何で懲戒請求されてるのか、ほんと謎です。酷い話だ」とツイートしました。この唯一のTweetが、今度は私への懲戒請求の原因となり、「この件は共謀による脅迫罪として別途告発されている事案である。」とされ、958件の懲戒請求がなされました。

 私への懲戒請求が不当なのはもちろん、法的にも違法で損害賠償請求の対象となり得ることは、既に佐々木弁護士の記事にあるので、詳しくはコメントしません。

 Twitterなどでは、私に対し東京弁護士会が出した声明を上げて、私にも懲戒理由があると絡んでくる方が未だにいますが、全くもって意味不明です。私は神奈川県弁護士会所属で、東京弁護士会の会員ですらなく、声明に関与する機会などないのです。

 しかも、私自身、弁護士として、在日朝鮮人の皆さんの差別に対して主だった活動をしたことはありません。

 また、重要なのは、仮に私がそういった活動をしていたからといって、懲戒請求が許されるはずがないのは当然です。

 相手の思想や言論など表現行為が気に喰わねば、きちんと反論すれば良いのです(対抗言論)。思想や言論などの表現行為を、懲戒請求という攻撃によって封じ込めようとすることは、断じて許されません。

 なお、私と同様に北周士弁護士が反応し「保守派といいますかささき先生とは政治的意見を全く異にする弁護士ですが、今回のささき先生に対する根拠のない懲戒請求は本当にひどいというか頭おかしいと思いますし、ささき先生に生じている損害の賠償は当然に認められるべきだと考えています。」と発信しました。これに対しても、北弁護士に対して、960件(なお、懲戒請求者はほぼ、私と重複)の理不尽な懲戒請求がなされています。

画像

懲戒請求へ毅然と法的措置をとることの意味

 私への懲戒請求を呼びかけるブログ上で、私は「テロリスト」であるとか「反日勢力」であるとされ、さらには懲戒請求のみならず「共謀による脅迫罪」だとして刑事告訴もされているようです。

 懲戒請求されることは、最終的には、私の活動の基礎となる弁護士資格自体を奪われる可能性もあり、弁護士にとっては大変不名誉なことです。

 弁護士など法曹界はとても狭い世界で業界内での評判もとても重要ですが、大量に懲戒請求をされていることで、「まぁ、大量に懲戒請求されるなんて、Twitterで乱暴なこと書いたんだろうね。よく知らんけど。」といった感想を持たれている(であろう)こと自体、私にとっては大変な不名誉です。何よりも現実に業務にも悪影響が及びます。

 実際にTwitterをやっていない方は、Twitter=乱暴な情報発信の場というイメージがあるのか(まぁ、それ自体私も否定しません)、私がTwitterでのやりとりを契機に懲戒請求されていること自体から、自己責任だねという感想を抱かれることは多いように感じます(さすがに口にする方はごく稀ですが、態度で分かる)。実際には、私は懲戒請求に対して法的措置を講じると対外的に発信した2018年5月以前、佐々木弁護士への大量懲戒請求に対して、1回しか発信していませんし、その中身も、攻撃的なものではありません(佐々木弁護士へ同情のメッセージを書いただけです)。

 私は、弁護士として、きちんと法的措置を講じて、自分に浴びせられた不名誉は取り除こうと思います。

 また、大量懲戒請求は、懲戒請求の制度を利用し、「刃向かうヤツは攻撃する」と威迫し弁護士の活動を萎縮させようとするものです。毅然とした法的措置をとらねば、さらにこれを助長させる可能性もあります。

 仮に毅然とした対応により攻撃されることを恐れて、意見表明自体が憚られるようになれば、言論空間が歪みますし、社会全体にとって好ましくありません。

 私が懲戒請求に対して法的措置を講じることで、結果として、こういった風潮を是正するのにお役に立てば嬉しいです。

補足

 2018年12月25日、佐々木弁護士・北弁護士が原告になって最初に提訴した裁判期日が開かれ、記者会見も実施します(同日14時@東京地裁・司法記者会)。

 私は、両弁護士の代理人になっているので、記者会見にも参加予定です。メディアの皆さま、ぜひご注目ください。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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