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『千と千尋の神隠し』『キングダム ハーツ』で飛躍した入野自由、「オラオラ」系に憧れる“宇宙人”!?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
声優・俳優・歌手活動について語る入野自由さん(撮影:すべて星野麻美)

 13歳にして『千と千尋の神隠し』のオーディションに合格し、メインキャラクター・ハク役の声優を務めて一躍有名になった入野自由(いりの・みゆ)さん。翌年にはゲーム『キングダム ハーツ』の主人公・ソラ役で、中学生ながら人気声優となりました。その後も、数々の人気作品で主要キャラクターを演じ、アニメ界には欠かせない存在に。一方で、舞台にも精力的に出演し、歌手としても活動中。入野さんならではの3つの仕事への向き合い方とは?

―転機になった作品は?

 映画『千と千尋の神隠し』と『キングダム ハーツ』というゲームです。この2つの作品がきっかけで、声の仕事が増えていきました。

 『千と千尋の神隠し』のハク役(メインキャラクター、主人公・千尋を助ける少年)は、当時は子どもが子どもの役をやることがあまり多くなかったので話題になりました。主役(ソラ)を演じた『キングダム ハーツ』は、様々なディズニー作品のキャラクターが登場することもあり、世界でも人気のゲームで特別なものです。

―ハク役は当時、どんな思いでしたか?

 あの頃の僕(13歳)は、状況がよく分かっていませんでした。大人になって、アニメ『君の名は。』や『鬼滅の刃』が大ヒットした際、(動員数など記録の)基準が『千と千尋の神隠し』にあるのを見て、改めて当時のスゴさを知りました。

 でも、何をやっても『千と千尋の神隠し』のことを言われ続け、自分の中では「他の作品もあるのに、永遠にこのことばかり言われるのか」と、嫌になった時期もありました。

 でも、今は全然そんなことないですよ!僕たち(役者)には名刺がありませんが、20年経っても海外に行けばその作品が名刺代わりになるし、それは本当にスゴいことだと思います。大人になって気づかされることは多いです。

―人生をグラフにするとどんな感じになりますか?

 『千と千尋の神隠し』でバンッと上がりましたが、その後は、同年代の仲間がどんどんオーディションに受かっていく中、自分は『レ・ミゼラブル』もずっと受けていたし、『ライオンキング』も稽古までいって、「劇団四季」の有名な(母音の)トレーニングもしたのに出られませんでした。

 10年くらい前には、千葉哲也さん演出で、佐藤オリエさん、藤木孝さん、成河(ソンハ)さん、小島聖さんなど、素晴らしいメンバーと一緒に『NOISES OFF(ノイゼス オフ)』(2011年)という舞台に立ちましたが、皆さんがスゴすぎて、自分は何ができてないのかさえ分からなかった。向こうの車が速すぎて、同じ速度で走っているつもりが気づいたら周回遅れ…みたいな感覚です。

 オリエさんから「最初は宇宙人が来たのかと思ったけど、舞台稽古に入ってとてもよくなったね」と言われた時に、何かがふっと上がる感じがありました。

―“宇宙人”だったんですか?

 「宇宙人みたいに不思議。何だろう、この子は?」と思ったらしいです(笑)。当時は体が動かなかったんです。声の仕事では、自分ではなく絵が動いてくれたし、絵に合わせることをしてきたので、舞台ではすぐには動けませんでした。

 何をしたらいいか分からないし、何かやればやりすぎる。アクシデントが起きれば失敗、としか取れなかった。でも、舞台上で起きたことに失敗はない、それに反応するだけだということが多くの人とやっていく中で分かってきた。この10年間で、シンプルに動けるようになった気がします。

 一度、“天井”が見えたと思う瞬間があったんです。これ以上続けてどうなのか…と思うこともありました。限界というか、まだやれることがいっぱいあるけど、子どもの頃からやっていたから、年齢は若いはずなのに若手に見られていなかったりして。気持ちが一度萎えたことがあったんです。でも、続けていくほどに面白いことが出てきて復活できました。波がありますよね。

―声優の仕事から舞台へとフィールドが広がったのは?

 中学生から大学生くらいまでは声の仕事が中心で、多くの作品に出演させていただいて、自分の中でもできることが増えていった感覚がありました。でもそこから、どうすればいい役者になれるのか、必要とされるのかを考えた時に、同じことを続けているだけではなくて、次のステップを探さなければいけないと思ったんです。だから、覚悟を持って舞台に舵を切ったというのはあります。

 そこで多くの人と出会って、自分がいかに考えが足りていなかったか、知らないことがたくさんあるということを身を持って感じ、たくさん傷つき、山ほど恥をかきながら、今ここにいます。

―今はイッセー尾形さん、木村達成さんと三人芝居に取り組んでいますね。

 『管理人』というハロルド・ピンターの作品で、最初はとっつきにくいイメージはあると思いますが、演出の小川絵梨子さんは海外の戯曲を読むことに長けている方なので、皆で一緒に読み解きながらやっています。理解が深まるほど面白くなりますし、気づいた瞬間に世界が広がっていくので、分からないからと手放してしまったらもったいない作品だと思います。

 不条理劇で、一見難しくて高尚に思われがちですが、読み解いていくとコメディです。日本と欧米では感じ方が違いますが、毒っ気のある笑いがあります。

 僕が演じるアストンは、物事や感情がうまく表現できなくて、フラストレーションをすごく抱えている役。なので、抑圧されて自分ではどうにもできないことがある現代にも、繋がるところがあると思います。1つのワードが、読み方によっていろいろな意味になります。英語だとダブルミーニングと言うけど、日本語にするとその意味が消えてしまうからどうしようか、ということをやっているのですが、すごく面白い作業です。

―セリフ量が多いですね。覚え方は?

 まずは、ひたすら読み続けて物理的に覚えます。(頭を使わなくても歩ける)知っている道をひたすらまっすぐ歩きながら、1行覚えたら次は1~2行覚えて、1~2行、1~3行、1~4行…とどんどん伸ばしていくような覚え方です。

 座って覚えていると、邪魔が入るんですよね。雑音は必要だと思いますけど、コーヒーを飲む、携帯を見る、すべてがノイズになります。

―アニメ、舞台、さらには歌手活動も。

 歌手活動は、「新しくレーベルを立ち上げるから」と声をかけていただいたのがきっかけでした。できるだけ目立たないようにしていたいタイプだったんですが、その殻が少しずつ破れるようになったのは歌手の仕事のおかげですね。自分を表現しないと何にもならないという世界で、どこかで“歌手である自分”を演じてはいるけど、モードを手に入れた、という思いはあります。

 始めてみると、自分はもっと器用なタイプだと思っていたのに、舞台と歌の同時進行は脳を切り替えるのが難しくて…。今回アルバムを作っていて、コンセプトがないなと思っていたんです。そしたらアメリカの友人が「ノーコンセプト。あなた自身がコンセプトに囚われないでやっているのがいい」と言ってくれたのが気に入って、『NO CONCEPT』をタイトルにしました。

 そのタイトルらしく、いろんなジャンルの曲が収録されています。カバー曲にも挑戦したので、是非聴いていただけると嬉しいです。

 声優としてアニメでやっていたことが、舞台では言葉の説得力となる。歌は自分を表現するものなので、アニメや舞台で演じる際の栄養になる。舞台で体を動かすことや芝居の考え方は、アニメにとって強みになるし、歌う時にも演じることは必要。そんな感じで、「アニメ」「舞台」「歌」の三角形が、うまく自分の中で回っています。

―3つの現場の雰囲気は違いますか?

 全然違いますね。アニメは子どもの頃からいた現場なので、どこに行っても「みゆくん」と呼ばれてホームのような感覚があります。最初舞台の現場に行った時は「あ、声優の人?」みたいな雰囲気があって。今は少しずつ、声の現場と同じように芝居の現場でもいられるようになってはきました。

 歌は、“オラオラ~”という感じの人を見ると「いいな」と思っちゃいます(笑)。自分にはできない選択を常にし続ける人。僕は率先して行けるタイプではないので、そういう人たちを見て楽しんでいる部分もあります。

―今後は?

 現状維持よりも、1ミリでもいいものを、上を目指して自分の成長を感じられる作品を生み出したいです。これまで自分のことで必死でしたが、本当に出会いに恵まれてきたので、これからもいい出会いが続くといいなと思います。

【インタビュー後記】

素敵な声の持ち主で、常に前へ進もうとする行動力があります。次々と言葉があふれてきて、悔しかったことや自分の足りないところも素直に話してくれる姿に共感でき、癒されもしました。“オラオラ~”といかなくても、自由さんらしさはしっかり伝わります。

■入野自由(いりの・みゆ)

1988年2月19日生まれ、東京都出身。4歳から児童劇団に所属し、舞台や声優の仕事を始める。2001年『千と千尋の神隠し』のオーディションに合格し、メインキャラクターのハクを演じる。2002年『キングダムハーツ』で主役のソラを演じ知名度を広げる。アニメ『ハイキュー!!』『おそ松さん』、舞台『屋根の上のヴァイオリン弾き』『タイタニック』『ボディーガード』など多数の作品に出演。2009年Kiramuneレーベルからミニアルバム『Soleil』で歌手デビュー。11/9、7thミニアルバム『NO CONCEPT』をリリース。『管理人』は11/18~29、東京・紀伊國屋ホールにて上演。東京公演後は12/3~4、兵庫県立芸術文化センターでも上演される。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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