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「ファミスタ」「パワプロ」の源流はこれだ! 黎明期のアーケード用野球ゲーム3選

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
タイトーが1976年に発売した「ボールパーク」(※筆者撮影)

古くはファミリーコンピュータ用ソフトの「ベースボール」や「ファミスタ」こと「プロ野球 ファミリースタジアム」シリーズ、現在では「パワプロ」こと「実況パワフルプロ野球」や「プロスピ」こと「プロ野球スピリッツ」シリーズなど、今も昔も国民的スポーツである野球を題材にしたビデオゲームは根強い人気がある。

とりわけ、80年代のファミコンブームを期にゲームを始めたプレイヤーにとっては、「ベースボール」や「ファミスタ」が文字どおり大ヒットを飛ばしたこともあり、ゲームファンの間だけでなくエンタメ系のメディアでも、これらの作品が野球ゲームの元祖であるかのように語られることがある。

しかし、ハッキリ言ってそれは大きな間違いだ。その理由は、ファミコンよりもはるかに長い歴史を持つ、アーケードゲームで数々の傑作野球ゲームが誕生していたからだ。

特にアーケードゲームは、プレイヤーに飽きられたり、経年劣化でメンテナンスが困難になったりすると店頭からすぐに撤去されるため、時間の経過とともに発売当時の記憶は多くの人々から自然と忘れ去られる運命にある。そんな事情もあるのでいたしかたない面はあるが、今やゲーム業界内でもアーケード、とりわけファミコンブーム以前のタイトルは、人気の有無にかかわらずほとんど知られていない感がある。

以下、本稿では黎明期に登場したアーケード用ビデオゲームの中から、現在の野球ゲームにつながる歴史を築いたであろう、傑作中の傑作3タイトルを紹介する。

1:「ボールパーク」(販売:タイトー/1976年)

本作は、アメリカのミッドウェイが開発した『Tornado Baseball(トルネードベースボール)』を、タイトーが同社から許諾を得て『ボールパーク』として、日本国内で販売した作品とされている(※出典:赤木真澄著「それは『ポン』から始まった」)。リアル野球のルールを忠実に再現した、ビデオゲーム史上初となる本格的な野球ゲームは、おそらく本作ではないかと思われる。

ピッチャーはレバーで操作し、速球とスローボールに加え変化球(カーブとシュート)も投げることが可能。野手の操作は、外野手のみツマミ(ボリュームコントローラー)で左右に移動が可能で、内野手の移動と送球はコンピューターが自動で操作する。攻撃時はボタンを押すとバットを振り、ランナーの走塁はすべて自動で行われる仕組みだ。

打球のゴロとフライの区別がなく、ボールが外野手の間を抜けると(おそらくランダムで)シングルヒット~ホームランが決まる。また、当時から2人対戦プレイに対応していたことも特筆に値する。

ストライクやボールの判定時にブザーのような音は鳴るものの、プレイ中にBGMはまったく流れない。選手の名前や能力値のデータ設定はなく、顔には目や口も一切描かれていないので、今の目で見ると演出と言えるようなものはほんどない。だが、国民的スポーツである野球がゲームとして遊べるようになっただけでも、当時の子どもたちには夢のような出来事だったのだ。

「ボールパーク」の筐体(※筆者撮影。販売元:タイトー/1976年 )
「ボールパーク」の筐体(※筆者撮影。販売元:タイトー/1976年 )

2:「チャンピオンベースボール」(アルファ電子、セガ/1983年)

本作こそ、今までゲームメディアやゲーム関連の学術研究でもほとんど語られることがなかった、野球ゲームの金字塔と呼ぶにふさわしい傑作中の傑作であると断言したい。

「チャンピオンベースボール」(アルファ電子版)のフライヤー(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)
「チャンピオンベースボール」(アルファ電子版)のフライヤー(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)

球団と選手は架空の名称だが、全12球団、180人分の選手データを搭載。ピッチング時は、レバーを左右に入力することでカーブとシュートを自在に投げられる。

野手の移動は自動だが、捕球後にレバーで送球したいベースを選んでからボタンを押すと、プレイヤーが任意のタイミングでボールを狙った場所に投げられる。

バッティングの際は、レバーの左右入力でバッターの立ち位置の調整が可能で、ボタンを短く押せばバントもできる。またインプレー中は、ボタン操作でランナーの前進、後退や盗塁の指示が自由に出せるのも秀逸だった。

後にファミコン用ソフトとして発売され、200万本以上を売り上げた「ベースボール」や「ファミスタ」シリーズでおなじみのバッティングや走塁の操作システムは、実は本作にすでに実装されていたのだ。その完成度の高さは、まさに驚異的としか言いようがない。

「チャンピオンベースボール」のインストカード(※筆者撮影。KVC lab.提供)
「チャンピオンベースボール」のインストカード(※筆者撮影。KVC lab.提供)

クロスプレイ時にランナーが砂煙を出しながらスライディングしたり、ホームランを打つと派手なファンファーレが鳴って観客が騒ぐ音声が流れたりするなど、プレイヤーをワクワクさせる演出もこれまた素晴らしい。さらには審判の「ストライク」「ボール」「スリーアウトチェンジ」などのコールや、代打を出すと「選手の交代です」としゃべるウグイス嬢のボイスまでもが収録されていた。

野球ゲームに限らず、当時は音声合成とも呼ばれたボイスが流れるタイトルは非常に少なかったので、多数のボイスが収録された本作の登場はまさに衝撃的だった。後の「パワプロ」シリーズの登場によって、実況の演出がプレイヤー間でおなじみとなった感があるが、実は本シリーズが実況の元祖ではないのだ。

本作は1人プレイ専用(※2人プレイ時はCPU戦を交互にプレイする)だが、後に2人対戦プレイに対応した続編の「チャンピオンベースボール パート2」も発売された。また、コピー品が一時期少なからず市場に出回ったことからも、いかに本作の人気が高かったのかがうかがえる。

「チャンピオンベースボール パート2」のインストカード(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)
「チャンピオンベースボール パート2」のインストカード(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)

3:「メジャーリーグ」(セガ/1986年)

本作の素晴らしさは、2人対戦プレイができるのに加え、トラックボールとバットを模した「スウィングレバー」を搭載した、本作オリジナルのコンパネ(入力デバイス)を使用することで、ほかの野球ゲームでは体験できない独特の面白さを生み出したところにある。

ピッチング時は、トラックボールを手のひらでホームベース方向に転がすとボールを投げる。トラックボールの回転方向によって投げるコースが変化し、さらにボタン操作と組み合わせることでカーブやシュート、フォークボールも投げられる。しかも、トラックボールを速く回転させるほど球速がアップするので、プレイヤーはついついムキになってボールを転がしてしまう。

バッティング時は、スウィングレバーを手前に引いた状態で待ち、相手ピッチャーがボールを投げたタイミングに合わせて手を離すとレバーが回転し、バッターがバットを振る仕組みになっている。スウィングレバーを少しだけ引いた状態で構えるとバントになり、投球後に再度レバーを引いてから打つことでバスターができるのも画期的だった。

(参考リンク)

・「セガアーケードゲームヒストリー」(※「メジャーリーグ」の紹介ページ)

「メジャーリーグ」の筐体(※出典:「セガアーケードゲームヒストリー」)
「メジャーリーグ」の筐体(※出典:「セガアーケードゲームヒストリー」)

「メジャーリーグ」のインストカード(※筆者撮影。KVC lab.提供)
「メジャーリーグ」のインストカード(※筆者撮影。KVC lab.提供)

本作はゲームセンターでかなりの人気を博したからであろう、1987年には続編にあたる「スーパーリーグ」が、翌88年には「エキサイトリーグ」が相次いで発売された。あくまで筆者の私見となるが、中でも「スーパーリーグ」は選手やスタジアムのグラフィックスがよりリアルに描かれ、審判のコールや英語の実況ボイスを収録するなど演出面も非常に優れており、野球ゲームに限らずビデオゲーム史上に残る傑作であった。

ただ残念なことに、本作のような特殊コンパネを使用した、アーケードゲームならではの楽しさを提供した野球ゲームは、1999年にセガが発売した「ダイナマイトベースボール'99」あたりを最後に途絶えてしまった感がある。唯一、現在でも稼働(サービスイン)中の野球ゲームは、選手のトレーディングカードを使用して遊ぶ「ベースボールスタジアム」があるが、バッティングなどの操作はタッチパネルを使用するので、操作自体はスマホ用ゲームの感覚に近い。

「メジャーリーグ」のように、特殊コンパネによる野球ゲーム、ひいてはビデオゲーム全体の進化の系譜があったことも、その歴史を語るうえではけっして忘れてはいけないように思う。

「メジャーリーグ」のフライヤー(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)
「メジャーリーグ」のフライヤー(※A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー提供)

(取材協力)

・KVC lab.(けーぶいしーらぼ)

・A.M.P.GROUPビデオゲームライブラリー

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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