Yahoo!ニュース

ギネス認定の超大型ゲームセンターが誕生  withコロナ時代の「ゲーセン」が目指すもの

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「タイトーステーション府中くるる店」オープン日の様子(筆者撮影)

大手ゲーム会社のタイトーが、東京都府中市に「タイトーステーション府中くるる店」を8月29日にオープンした。

同店は、京王線府中駅からデッキで直結したビルの地下1階、約550坪のスペースに454台ものプライズ(クレーン)ゲームを設置。オープンセレモニーでは、「単一会場におけるクレーンゲーム機の最多設置数」を記録したことで、ギネスに認定されたことが発表された。

(※これまでの最多記録は、埼玉県八潮市にある「エブリデイとってき屋 東京本店」の448台)

オープンセレモニーに参加したギネスのスタッフから認定証が授与された(筆者撮影。以下同)
オープンセレモニーに参加したギネスのスタッフから認定証が授与された(筆者撮影。以下同)

コロナ対策も兼ねた新オペレーションを導入

以前に拙稿、「ゲーセンの数は5分の1に減少、歴史に残る作品が続々誕生:数字で振返る『平成アーケードゲーム30年史』」でもお伝えしたが、現在のアーケードゲーム業界は、オペレーション(店舗)売上高の約半分をプライズゲームが占めている(※数字は「アミューズメント産業の実態調査:報告書」による)。昔ながらのビデオゲームのオペレーション売上高は、今や10パーセント少々しかない時代にあって、プライズゲームに特化させた新店舗が誕生するのは必然だろう。

タイトー広報によると、「当店は、プライズゲーム需要の高まりにお応えするため、秋葉原と熊本に続き3店舗目となる、過去最大級のプライズゲーム専門店としてオープンいたしました。弊社では、駅に直結した施設やショッピングセンターへの出店を重視しており、小さなお子様からお年寄りまで幅広く、安心して快適に楽しめる店舗展開を行う方針のもと、ファミリー客の来店が多い府中くるるさんに出店させていただくことにしました」という。

筆者も店内を回ってみたが、これほどまでにプライズゲームをそろえ、ボリューム感を打ち出した店舗が出現したのかと大いに驚かされた。取り扱う景品は、ぬいぐるみ、お菓子、フィギュア、雑貨など当然ながら幅広く、どこのゲーム機にどんな景品があるのか、とても覚えきれないほどの種類がそろっていた。

「店内はとても広いので、ウインドウショッピングのような感覚で歩いていただいて、いろいろな景品を探しながらお楽しみいただけると思います。プレオープンの際に来店された親子ユーチューバーの方が、『こんなに欲しい景品がたくさんある店に来たのは初めて』とおっしゃっていましたね」(タイトー広報)

プライズゲームがずらりと並んだ店内
プライズゲームがずらりと並んだ店内
1プレイ10円(電子マネー決済のみ対応)で小さな子供でも気軽に遊べるプライズゲームも稼働していた
1プレイ10円(電子マネー決済のみ対応)で小さな子供でも気軽に遊べるプライズゲームも稼働していた

同店では、タイトー初の試みとなる、ゲーム機に貼付したQRコードをスマホで読み込むとスタッフを呼び出すことができる、「デジちゃいむ」というシステムを導入している。

同社広報によれば、プレイヤーはスタッフを直接探さなくてもすぐに呼び出せ、店舗側ではどのゲーム機で遊んでいる客なのかがすぐに把握できるので、業務効率化が図れるメリットがあるという。

さらに「デジちゃいむ」は、ボタンを一切使用しない非接触方式なので、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ効果も期待できるとのこと。もし同店でうまく機能することが実証されれば、今後はタイトーに限らず、多くの店舗で導入が進む可能性がありそうだ。

クレーンに貼ってあるQRコードを読み込むと、スタッフが駆け付ける「デジちゃいむ」を導入している
クレーンに貼ってあるQRコードを読み込むと、スタッフが駆け付ける「デジちゃいむ」を導入している
コロナ対策のため、店頭には足踏み式の消毒液を設置していた
コロナ対策のため、店頭には足踏み式の消毒液を設置していた

プライズゲームで地域の活性化を目指す

オープンセレモニーの会場には、府中市の高野律雄市長、府中市選出の都議会議員である小山くにひこ氏が登壇し、ともに市の中心地がにぎわうことを期待するとの祝辞を述べていた。ゲーセンのオープンに、地元の政治家が挨拶にやって来るケースは非常に珍しい。

「市長さんや、地元の商工会の皆様からもたいへん歓迎されました」(タイトー広報)と言うので調べてみると、昨年9月に同店のすぐ近くにあった伊勢丹府中店が閉店しており、市長が新聞社からの取材に対し「撤退はたいへん残念」などとコメントしていた。地元の政治家がわざわざ挨拶に来た背景には、地域経済の衰退に対する強い危機感もあったのだろう。

オープンセレモニーには高野市長(中央)と小山都議会議員(右から2人目)も参加した
オープンセレモニーには高野市長(中央)と小山都議会議員(右から2人目)も参加した

店舗には開店直後からファミリー層を中心に多くの客が訪れ、あちこちのゲーム機から「ポケモン」や「リラックマ」など、定番キャラクターのぬいぐるみ類が次々とゲットされていく光景は実に壮観。漫画・アニメ系のグッズもかなり好評のようで、なかには開店から1時間ほどで在庫がなくなる景品もあった。

プライズゲームには相応の人気があるとはいえ、ピーク時に比べるとアーケードゲームの市場規模は大幅に落ち込み、ゲーセンの店舗数は長らく右肩下がりの状況が続いている。さらには新型コロナウイルスの影響もあり、当分の間は厳しい市場環境が続くと思われる。

「GoToキャンペーン対象外の東京都にあって、府中周辺の皆さんに親子3代で身近に、気軽に楽しめる店づくりをしていきたい」(タイトー広報)という「タイトーステーション府中くるる店」。同店が高い集客・収益力を上げるとともに、ウイルス対策も含めたオペレーションが地域の活性化にも貢献し、withコロナの時代におけるゲームセンターのモデルケースのひとつになることを期待したい。

(参考リンク)

・「タイトーステーション府中くるる店」

・「東京)伊勢丹府中店閉店へ 地元への影響懸念」(朝日新聞デジタル)

開店直後からにぎわっていた、漫画・アニメキャラグッズの景品コーナー
開店直後からにぎわっていた、漫画・アニメキャラグッズの景品コーナー
ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

鴫原盛之の最近の記事