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中村憲剛「俺決めたー!」 リアル選手との共存共栄で盛り上がるeスポーツ

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの世界的な流行により、ありとあらゆるスポーツ競技が延期、または中断を余儀なくされていることは、もはや改めて説明するまでもないだろう。

そんな昨今、試合ができなくなった野球やサッカー、バスケットボール選手、カーレーサーたちがゲームのコントローラーを握りしめ、eスポーツのプレイヤーとしてエキシビジョンマッチやチャリティ大会に続々と参加している。

私事にて恐縮だが、筆者はスポーツ観戦が大の趣味で、週末は主に国内外のサッカー中継を観戦し、時にはスタジアムにも出掛け、ひいきのチームや選手たちを応援するのを何よりの楽しみとしている。それだけに、コロナ禍によって久しく顔を見ることができなかった選手たちが、eスポーツを通じてライブで見られるようになったのは本当にありがたい。

そして最近、リアルスポーツの選手が出場したeスポーツをいろいろと視聴していて、改めて気付いたことがある。それはeスポーツ、とりわけスポーツゲームのさらなるファン獲得のためには、彼らの存在、協力が欠かせないことだ。

以下、本稿では、筆者が最近チェックしたサッカーゲームによるeスポーツを視聴したうえで、気付いたことなどを述べていく。

YouTubeで配信されたバーチャル・ブンデスリーガより。今年の3月から現役のサッカー選手が多数登場している(筆者撮影)
YouTubeで配信されたバーチャル・ブンデスリーガより。今年の3月から現役のサッカー選手が多数登場している(筆者撮影)

選手の生の声・アクションの有無で面白さが激変

筆者がまず注目したのは、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)が運営する、ブンデスリーガのeスポーツ版サッカーリーグ、バーチャル・ブンデスリーガにおいて3月28日から配信を開始した、「Stay home … EA SPORTS FIFA 20 - Bundesliga Home Challenge」だった。

注目した最大の理由は、普段は各チームと契約したプロゲーマー同士での試合が行われている本大会に、ブンデスリーガとツヴァイテ(2部リーグ)のチームに所属する本物のサッカー選手も出場し、サッカーゲーム「FIFA 20」による対決をライブ中継すると聞いたからだ。特に、ボルシア・ドルトムントからは、現在多くのサッカーファンが注目しているであろう、モロッコ代表のアクラフ・ハキミ選手が参戦するというので、はたしてゲーム上ではどんなプレイを見せてくれるのか、大いに気になっていた。

「Stay home … EA SPORTS FIFA 20 - Bundesliga Home Challenge」初日のYouTube配信より(※筆者撮影)
「Stay home … EA SPORTS FIFA 20 - Bundesliga Home Challenge」初日のYouTube配信より(※筆者撮影)

筆者は配信初日にライブで観戦したが、プロゲーマー同士の試合は白熱した攻防が見られた一方、リアルサッカー選手同士の試合は残念ながらあまり楽しめなかった。その理由は、プロゲーマーの試合に比べてレベルが低かったせいではなく、実況・解説者が一生懸命しゃべるのとは対照的に、選手の生の声を一切聞けなかったからだ。

選手たちの様子は、ただ試合中にワイプで小さく映し出され、たまにゴールが決まると喜んだりがっかりする姿が見られただけ。インタビューもなかったので、約5時間にわたりただ淡々と試合を流しているようにしか見えず、これでは特に初めて見た選手たちに対して親近感がまるで持てない。その後の配信も何度かチェックしたのだが、現在も運営方法は特に変わっていないようだ。

もっとも、ブンデスリーガである以上、基本的にはドイツ国内に向けた興行であり、急きょ始めた配信ゆえ十分な準備ができないのは致し方ないだろう。だが、プロのアスリートが顔を出すイベントである以上、少しでも面白くする工夫がほしいところ。例えば、プロゲーマーとリアルサッカー選手との連合チーム同士による2対2の協力対戦にするなど、普段は見られない試合形式にする手が考えられるだろう。

同じく、バーチャル・ブンデスリーガより。ハキミなど有名選手も登場していただけに、生の声が聞けなかったのは残念だ(※筆者撮影)
同じく、バーチャル・ブンデスリーガより。ハキミなど有名選手も登場していただけに、生の声が聞けなかったのは残念だ(※筆者撮影)

これとは対象的だったのが、4月21日~24日にかけて配信された、その名もe国際親善試合、「StayAndPlay eFriendlies」だ。

バーチャル・ブンデスリーガと同じ「FIFA 20」を使用し、プロゲーマーとリアルサッカー選手が2人1チームで参加するイベントでありながら、日本代表として出場したナスリ(鹿島アントラーズeスポーツチーム所属)、岡崎慎司両選手のインタビューを試合前後に聞けたのでとても面白かった。特に、岡崎は初日のマレーシア代表戦の試合終了後、「緊張で手が震えた」などと素で話していたのが良い意味でおかしく、ゲーム好きにもリアルサッカーのファンに対しても好感度が上がったことだろう。

試合内容も総じて面白く、前述のマレーシア戦では鹿島を使用したナスリが完勝。岡崎も現所属のウエスカを操り、センターフォワードで起用した自分自身で2ゴールを決め逆転勝利。さらに、岡崎が自陣に戻って献身的にディフェンスをする、まるで自身が乗り移ったかのようなプレイも披露し、見る者を楽しませてくれた。(※ちなみに、岡崎の対戦相手はレスター、すなわち岡崎の古巣チームを使用し、言外に相手をリスペクトしているのが伝わってきたのもうれしかった)。

「StayAndPlay eFriendlies」初日の配信より、インタビューに応じる岡崎選手(※筆者撮影)
「StayAndPlay eFriendlies」初日の配信より、インタビューに応じる岡崎選手(※筆者撮影)
4月24日の配信では、香川真司選手をはじめ柴崎岳、吉田麻也など海外でプレイする選手たちが現地の状況を説明しつつ、外出自粛を呼び掛けた(※筆者撮影)
4月24日の配信では、香川真司選手をはじめ柴崎岳、吉田麻也など海外でプレイする選手たちが現地の状況を説明しつつ、外出自粛を呼び掛けた(※筆者撮影)

ゲームの腕・知識の有無に関係なく楽しめる、リアル選手参加のメリット

配信時間が約20分と短いにもかかわらず楽しめたのは、4月11日に行われたイタリアのセリエA、同じミラノを本拠地とするミランとインテルのエキシビジョンダービーマッチ、「eDerbyMilano Inter v AC Milan eFootballPES2020」だ。

本イベントに使用されたサッカーゲームは、「PES 2020」(※「eFootball ウイニングイレブン 2020」の海外版)で、ミランからはラファエル・レオン、インテルはセバスティアーノ・エスポージトの両若手選手が出場した。

またも私事でたいへん恐縮だが、筆者は30年以上前から大のミランファンである(※プロフィール欄のイラストに描かれた服もミランのユニフォームがモデルだ)。よって、バーチャル・ブンデスリーガよりもはるかに強く感情移入できる素地があったわけだが、それを差し引いても本イベントは面白かったと断言できる。なぜなら、試合中もずっと両選手が楽しそうにプレイしている声が聞けたからだ。

試合は両者ともミスが目立ち、お世辞にもうまいとは言えなかった。だが、ゴールが決まれば大喜びし、逆に失点すれば頭を抱えるなど、ライバルチームを相手に本気で勝負している様子が伝わり、実に楽しかった。試合前には両選手が軽くおしゃべりをして、終了後には司会者からのインタビューに個別に応じていたのも好印象で、またYouTubeでは英語の字幕に対応しており、イタリア語がわからない視聴者に配慮していたのもうれしかった。

「eDerbyMilano Inter v AC Milan eFootballPES2020」より。キックオフ前に選手同士が軽く挨拶を交わし、試合終了後はインタビューにも応じていた(※筆者撮影)
「eDerbyMilano Inter v AC Milan eFootballPES2020」より。キックオフ前に選手同士が軽く挨拶を交わし、試合終了後はインタビューにも応じていた(※筆者撮影)
試合中も両選手の音声を入れ、レオンが自身を操りゴールを決めた瞬間、カメラ目線で雄叫びを上げる姿も存分に楽しめた(※筆者撮影)
試合中も両選手の音声を入れ、レオンが自身を操りゴールを決めた瞬間、カメラ目線で雄叫びを上げる姿も存分に楽しめた(※筆者撮影)

筆者が最近見たなかでも特に面白かったのが、4月10日~12日にかけて開催された「eJリーグ オンラインチャレンジカップ」だ。

本イベントは「FIFA 20」を使用し、Jリーグの11チームの推薦プレイヤーと、予選を勝ち抜いた18名の合計29名が参加し、トーナメント戦で優勝者を決定するというもの。推薦プレイヤーの11名は、もちろん推薦を受けたチームを使用したうえで参戦した。

本大会の面白さを決定付けた要因は、プレイヤーたちのレベルの高さに加え、よほどのサッカーファンでなければ名前を知らないであろう、思わぬ選手の大活躍がゲーム内で見られたことが挙げられる。さらに、現役のJリーガーがTwitterを通じてリアルタイムで応援に参加し、これを実況・解説者がピックアップすることで視聴者をさらに楽しませていた。

なかでも傑作だったのは、決勝戦で川崎フロンターレを使用したジェイ選手が操る、中村憲剛がゴールを決めた直後に、なんと本物の中村選手が「俺決めたーーーーー!」とツイートしたこと。これには川崎サポーターではない筆者も、見ていて実に微笑ましかった。

プロゲーマー同士の対戦だけでなく、応援役に回ったJリーガーと実況席が一体となって本大会を盛り上げたことで、普段eスポーツを見ない、あるいはゲーム自体に関心がない人にも、「あの有名な中村選手も、eスポーツを楽しんでいるんだ!」という大きなアピールができたのではないかと思われる。

「eJリーグ オンラインチャレンジカップ」決勝戦で、中村憲剛がゴールを決めた瞬間は実況席も大盛り上がり(※筆者撮影)
「eJリーグ オンラインチャレンジカップ」決勝戦で、中村憲剛がゴールを決めた瞬間は実況席も大盛り上がり(※筆者撮影)

新型コロナウイルス終息後も、リアル選手との共存共栄でeスポーツを盛り上げたい

コロナ禍によって、eスポーツにおいても大会の中止や延期が相次いでおり、賞金を稼ぎたくても稼げず、歯がゆい思いをしているプロゲーマー、あるいはプロゲーミングチームも少なくないことだろう。そこで、「今はeスポーツの裾野を広げるフェーズ」と割り切り、ゲームメーカーや関連団体、スポンサーと協力しつつ、リアルスポーツの選手が参戦するeスポーツイベントをどんどん実施するのも、ひとつの手ではないだろうか。

eスポーツに関心のない人であっても、ひいきのチームや選手が出場すれば俄然興味や親近感がわくし、久しくリアルスポーツが観戦できずに飢えている人にも良いアピールになるだろう。逆に、普段はeスポーツしか見ない人が、リアルスポーツ選手の存在を知ったことがきっかけで、やがてJリーグやプロ野球などが再開された際には、彼らが新たなファンとなる可能性だってあるかもしれない。リアルスポーツの選手たちには、新型コロナウイルス終息後も、ぜひオフシーズンの時期を利用してeスポーツに積極的に参加することを望みたい。

また、スペインの有名eスポーツ実況者の呼び掛かけによって、3月20日に開催が実現した「LaLiga Santander Challenge」は、ラ・リーガのチームに所属する選手たちが多数参加し、ストリーミングによる収益を新型コロナウイルス対策などの支援金に充てるという、社会貢献ができることを示した点でも特筆に値する。(※本大会は、現在もDAZNなどで配信されている)

現地紙「AS(アス)」の報道によれば、本イベントだけで14万ユーロ(約1,600万円)以上の金額が集まったというのだから凄い。だが、もし選手たちのインタビューや試合中の声を聞くことができて、なおかつ視聴者に直接募金を呼び掛けていたら、もっと金額が増えていたかもしれない(※本イベントでは、各選手の顔写真を画面内に映すだけだった)。日本のeスポーツ業界も社会貢献、eスポーツの認知度向上いずれの観点からも大いに参考にすべきだろう。

まだまだたいへんな状況が続くが、今後もeスポーツ・リアルスポーツの双方が力を合わせ、それぞれのファンに対し、少しでも多くの楽しい時間を提供してくれることを期待してやまない。

「LaLiga Santander Challenge」より。その時点で集まった寄付金の合計額を試合中にも表示し、視聴者に募金を呼び掛けていた(筆者撮影)
「LaLiga Santander Challenge」より。その時点で集まった寄付金の合計額を試合中にも表示し、視聴者に募金を呼び掛けていた(筆者撮影)

最後に、僭越ながら筆者から、各サッカーゲームのeスポーツ主催者にひとつお願いをさせていただく。

ゴールが決まった直後の、(ゲーム内での)選手たちのゴールパフォーマンス、およびリプレイを途中でスキップしないよう全選手に通達、もしくは競技ルールに明記してほしい。特に、ゲームをよく知らない視聴者に対しては、その面白さが伝わりにくくなり、試合そのものの興味を削いでしまうからだ。

「今、誰がゴールを決めたの?」と確認しようと思った視聴者が、すでにキックオフしていて置いてけ堀を食ったりしないよう、家族で見られる、あるいは友人同士でおいしい酒を飲みながら楽しめるように配慮していただきたい。

(参考リンク)

「Stay home … EA SPORTS FIFA 20 - Bundesliga Home Challenge」(※初日開催分)

「StayAndPlay eFriendlies」(日本サッカー協会)

「eDerbyMilano Inter v AC Milan eFootballPES2020」

「eJリーグ オンラインチャレンジカップ」(※最終日:準々決勝~決勝戦)

「LaLiga Santander Challenge」

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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