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「ゲームは1日60分」条例が成立の香川県、ゲームセンターはどうなる? 

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

3月18日の香川県議会において可決、成立した「ネット・ゲーム依存症対策条例」が、4月1日より施行されることになった。

本条例は、子供のネットおよびゲーム依存症への対策のため、18歳未満はゲームのプレイ時間を平日は60分(休日は90分)まで、スマホの利用は22時まで(※義務教育修了前の子供は21時まで)に終了することを保護者に求めるというもの。第2条で、「ネット・ゲーム」を「インターネット及びコンピュータゲームをいう」と定義している以上、アーケードゲームも当然ながらその対象となる。

では、条例の成立を受けて、香川県内でゲームセンターを運営するオペレーターやメーカーは、どのような対応をする予定なのだろうか?

対応方法は現状まったくの白紙、業界団体も静観

バンダイナムコアミューズメントに、香川県内の直営店舗では条例対策のため、運営方法に変更が生じるのかを伺うと、「現在、情報を収集しており、現時点ですべて白紙の状態です」とのこと。別の某大手オペレーターにも聞いてみたが、同じく「店舗の営業方法を変更する予定はない」という。

一方、イオンファンタジーに電話で問い合わせると、「もし、家庭用ゲーム以外も対象になるということであれば、店内に『利用時間は1時間以内』という掲示をすることになるでしょうか。その他、もし対策が必要となった場合は改めて検討します」とのことだった。

今では多くのアーケードゲームがネットワークに対応し、他店舗にいるプレイヤーとのオンライン対戦ができたり、プレイヤーが作成したアカウントごとにプレイデータを保存する機能が付いている。本条例の施行後は、香川県内で稼働するゲームに限り60分、あるいは90分以上プレイされないよう、ペアレンタルコントロール機能を追加するなどの対策を実施するのだろうか?

ネットワーク対応ゲームを発売・運営するいくつかのメーカーに、ハードやソフトの変更実施する予定があるのかも聞いてみたが、いずれも「現時点では運営方法の変更する予定はない」との回答だった。もっとも、現行法である風営法で定められた年少者の入店時間の違反(※)を、アクセスログ解析を行ったうえで摘発したというケースは、筆者の知る限りでは今まで聞いたことがない。よって本条例の施行後も、この点に関してはおそらく深刻な問題にはならないものと思われる。

※筆者注:風営法により18時~22時の間は、保護者同伴ではない16歳未満の者は入店を禁止し、22時以降は保護者同伴であっても、18歳未満の者は入店を禁止すると定められている(ただし、別途条例によって規定が異なる地域もある)。また、ネットワーク対応ゲーム用のアカウントにはプレイヤーの年齢データが存在せず、ペアレンタルコントロール機能は標準搭載されていない。

今後は香川県に限り、ネットワーク対応型ゲームは特別な対策が必要となるのだろうか?(※「JAEPO2020」会場にて筆者撮影)
今後は香川県に限り、ネットワーク対応型ゲームは特別な対策が必要となるのだろうか?(※「JAEPO2020」会場にて筆者撮影)

また、アーケードゲームの業界団体であるJAIA(一般社団法人 日本アミューズメント産業協会)にも電話で尋ねてみたところ、「現時点では、特に対策を行う予定はありません。施行後の状況を見て、もし香川県支部から要望があれば対応していきたいと思います」との回答だった。

アーケードゲーム業界は、1985年に改正風営法が施行されて以来、長らく厳しい法規制を受けつつ業務を行ってきた歴史があり、各オペレーターやメーカー、およびJAIAが条例を無視しているとは到底思えない。あまりにも急に条例が可決されたため、現時点では具体的な対策をまだ見出せていないというのが実情なのだろう。

現場対応を厳しく迫られた場合は、死活問題に発展するおそれも……

いくら罰則規定のない条例とはいえ、第11条で「県民のネット・ゲーム依存対策に協力するものとする」と事業者にも責務を定められた以上、施行後も「運営方法は以前と変わりません」で押し通すわけにはいかないだろう。

早急に現場で実施できる対策としては、イオンファンタジーのようにプレイ時間の注意を促す掲示物の設置がまず考えられる。あるいは、風営法に基づいた年少者への対応と同様に、60分(休日は90分)を超えての利用は控えるよう、スタッフによる声掛けや店内アナウンスをルーチンワーク化する手もあるだろう。

「声掛けだけなら簡単じゃないか」と思われるかもしれないが、必ずしもそうとは言い切れない。なぜなら、すべての人が素直に話を聞いてくれるとは限らず、治安の悪い地域では食って掛かる客もいたりするからだ。そんな客をも日々相手にしなくてはいけないとなると、スタッフの心身への負担が非常に大きくなるという問題も新たに抱えることになる。

さらに、もし万が一、「声掛けだけでは不十分」だと行政から指導を受ける事態に発展した場合は、店舗側にとっては一大事だ。

厳密に客の滞在時間を管理するためには、例えば入店時間を証明する券面などを個別に発行したり、あるいは30分単位などで入店できる時間を区切るなどといった対策を取らざるを得ない。そうなるとスタッフのシフトの全面的な組み直しが必須となり、店舗によっては急きょ人員の確保に迫られ、想定外の人件費アップによって経営面でのダメージを受ける所も出てくるだろう。

条例対策を厳しく迫られると現場スタッフの負担が増大し、店舗側が経営面でダメージを受ける可能性も大いにあり得る(※「JAEPO2020」会場にて筆者撮影)
条例対策を厳しく迫られると現場スタッフの負担が増大し、店舗側が経営面でダメージを受ける可能性も大いにあり得る(※「JAEPO2020」会場にて筆者撮影)

なお、バンダイナムコアミューズメントは、本条例の施行後も「現時点では、これまでの出店方針に変更はございません」とのことだったが、ことの成り行きによっては、香川県内での新規出店計画の全面的に見直すことになるかもしれない。

昨今は新型コロナウイルスの影響により、営業の一時休止を余儀なくされる店舗が続出し、極めて厳しい経営を強いられるなか、またもややこしい問題が生じたアーケードゲーム業界。今後も業界では法令の遵守を怠ることはないだろうが、もっぱら保護者の監督責任とみなせる家庭用ゲーム機とは違い、不特定多数の客が出入りし、衆目が集まりやすいゲームセンターが、不当な形で非難の矢面に立たされるようなことがないことを祈りたい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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