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闘会議とJAEPOの合同開催、まさかの3年で終了 アーケードゲーム業界が今後目指すべき道とは?

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
JAEPO×闘会議2018会場(※筆者撮影。ゲームと本文の内容は関係ありません)

2017年に画期的な合同開催を実現させたが……

一般社団法人 日本アミューズメント産業協会(以下、JAIA)が、幕張メッセで毎年開催している「アミューズメントエキスポ」(以下、「JAEPO」)は、その前身も含めると約半世紀も続く伝統を誇る、新作アーケードゲームの展示イベントだ。

一方、2015年に第1回が行われた、niconico(ドワンゴ)が主催する「闘会議(とうかいぎ)」は、ゲーム実況やeスポーツ、あるいはユーザーお手製のゲームを遊んだりグッズ類を販売するなど、「ゲームのお祭り」を標榜するイベントとして定着し、同じく幕張メッセで毎年開催されている。

両イベントは、2017年より「JAEPO×闘会議2017」と題して初の合同開催を実現すると、2018、2019年も引き続き合同での開催を実施した。さらに2019年には、新たに日本eスポーツ連合(JeSU)も合流し、「JAEPO×闘会議×JeSU2019」という3団体合同開催となった。入場者数は毎年増加し、2019年には84,214人が会場に足を運び、ネット総来場者数(視聴者)は実に459万4,715人も集めるようになった(※)。

※筆者注:入場者数は2017年が68,459人、2018年が72,425人。ネット総来場者数は、2017年が412万6,180人、2018年が513万1,820人(主催者発表による)

筆者は1993年にライターとして仕事を始めて以来、ほぼ毎年「JAEPO」と、その前身となったショーの会場に足を運んでいる。2016年の「JAEPO」の開会式において、次回から「JAEPO」と「闘会議」が合同開催されるとの情報を耳にした時は、これから新しい時代が始まるのだという感慨にひたるとともに、これを機に長らく苦境が続くアーケードゲーム業界の活性化につながればと、大いに期待を寄せていた。

2016年の「JAEPO」の開会式で、次回から「闘会議」と合同開催することが発表された。中央は現JAIAの里見治会長、右が闘会議ゼネラルプロデューサー(当時)の浜村弘一氏(筆者撮影)
2016年の「JAEPO」の開会式で、次回から「闘会議」と合同開催することが発表された。中央は現JAIAの里見治会長、右が闘会議ゼネラルプロデューサー(当時)の浜村弘一氏(筆者撮影)

ところが、次回の2020年からは合同開催をやめ、それぞれ異なる日程で開催することが、すでに明らかになっている(※「JAEPO」は2月7日~8日に、「闘会議」は4月18~19日に開催予定)。拙稿、「ゲーセンの数は5分の1に減少、歴史に残る作品が続々誕生:数字で振返る『平成アーケードゲーム30年史』」でも触れたように、近年のアーケードゲーム市場は非常に厳しい状況であり、「JAEPO」の出展社数や開催規模も以前に比べかなり縮小している。

そんな状況下にあって、老舗イベントの「JAEPO」が、「ニコニコ動画」を介して新たなトレンドを作り出してきた「闘会議」とタッグを組むことで、未来につながるひとつの布石を打てたと思っていただけに、わずか3年で合同開催をやめるとの一報は、まさに青天の霹靂(へきれき)であった。

「JAEPO×闘会議×JeSU2019」の会場の様子(「JAEPO」側の展示ホールにて筆者撮影)
「JAEPO×闘会議×JeSU2019」の会場の様子(「JAEPO」側の展示ホールにて筆者撮影)

原因は資金不足? 不可解なドワンゴの対応

JAIAとドワンゴは、なぜ袂を分かつことになってしまったのだろうか?

まずはJAIAに電話取材を申し込んだが、「本件に関しては、ドワンゴさんが決定したことですので、我々のほうではコメントできません」とのことだった。それならばとドワンゴに問い合わせてみたところ、「取材内容をメールで送ってください」と言われたので、質問事項を早速まとめてメールを送付した。

ところが、メールを送ってから5日経っても10日経っても、まったく返答がない。「いつ回答をいただけるのか、至急で教えてほしい」と、優に10回以上は電話でお願いをしたのだが、送信から1ヶ月経ってもなしのつぶてであった。

困ったなと思っていたら、某所で偶然、とある関係者と会う機会に恵まれた。早速お話を聞いてみたところ、実はドワンゴでは昨年辺りから、採算が見込めない事業はどんどん切り捨てる方針となり、それが現在も継続しているのだという。

確かに言われてみれば、ゲーム関連の新サービスを始めたというアナウンスを最近はあまり聞かなくなり、ゲームを重視しなくなった感がある。以前のように、「ニコニコ動画」を通じて「ニコニコ自作ゲームフェス」のようなイベントを始めたり、ゲームプラットフォーム「ニコニコアプリ」のサービスを開始するなど、新しい取り組みを次々と実現させていた時期に比べると、最近はスマホ用ゲーム「テクテクテクテク」が短期間でサービス終了するなどといった、ネガティブな話題が目立っているように思われる。

アナログゲームのほうでも、ドワンゴが主催する将棋の「叡王戦」では、運営費などを賄うためのクラウドファンディングを今年から始めたが、これも資金繰りの苦しさゆえのことではないだろうか。また、次回の「闘会議」は、同じくドワンゴ主催のイベント、「超会議」と合同開催されることがすでに発表されているが、これも経費削減が大きな狙いのひとつだろう。筆者のメールが放置されたのも、ひょっとしたら人件費削減のためスタッフが減った影響なのかもしれない。

さらなるサービス・クオリティの向上に期待していたが、たった3年の蜜月に終わるとは……(「JAEPO×闘会議×JeSU2019」の「闘会議」会場にて筆者撮影)
さらなるサービス・クオリティの向上に期待していたが、たった3年の蜜月に終わるとは……(「JAEPO×闘会議×JeSU2019」の「闘会議」会場にて筆者撮影)

「JAEPO」が次に目指すべきは「東京ゲームショウ」との合併

せっかく良いパートナーが見付かったと思いきや、わずか3年で袖にされた格好の「JAEPO」。なお、2021年以降に再び合同開催を実施するかどうかも、現状は白紙のままだという。

そこで、僭越ながら申し上げたいことがある。これを機に「JAEPO」は、「東京ゲームショウ」(以下、「TGS」)との合併を実現させてはどうだろうか。理由は単純明快で、「TGS」の入場者数は「JAEPO×闘会議」よりも圧倒的に多く(※2019年の「TGS」総入場者数は26万2,076人)、宣伝の絶好の機会となるからだ。

仮に合併ができたとしても、会場となる幕張メッセのキャパシティがはたして十分なのかという問題はある。だが、それさえ解決できれば、特に大手ゲームメーカーは、昔から「JAEPO」と「TGS」の両方に出展していることもあり、こと運営面に関しては大きな障害が生じることはないと思われる。

「合同開催」ではなく、「合併」と書いたのも深い訳がある。たいへん失礼ながら、傍から見ていると、「JAEPO」自身のプロモーション力があまりにも弱過ぎる、あるいはリソースをそこへ十分に割いていないため、「厳しい市場環境を打破するぞ」という危機感や気概がまったく伝わってこないからだ。

その証拠に、「闘会議」や「TGS」の公式サイトを見ると、情報量も、読み手に「行ってみたい!」と思わせるだけの訴求力にも、雲泥の差があることがわかる。時間のある方は、試しに「JAEPO2019」の公式サイトと、「闘会議2019」の公式サイトを見比べていただきたい。

会場の幕張メッセに掲げられた「闘会議」の看板。「JAEPO」側は予算がないのかやる気がないのか、合同開催実施以降の看板や広告は「闘会議」ばかりが目立つようになった(筆者撮影)
会場の幕張メッセに掲げられた「闘会議」の看板。「JAEPO」側は予算がないのかやる気がないのか、合同開催実施以降の看板や広告は「闘会議」ばかりが目立つようになった(筆者撮影)

ただし、合併に際してはひとつだけネックがある。それは、現行の「TGS」の規定では、アーケードゲームの展示は原則としてできない決まりになっていることだ。

■出品物・販売物の制限

・コンシューマ向けゲームソフトおよび関連製品・サービスのプロモーションと、関連グッズの販売を原則とします。

(※「東京ゲームショウ2019 展示会出展契約規約」より一部抜粋して引用)

そこで、「TGS」を主催するCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)、および共催する日経BPは、アーケードゲームの出展もできるよう規約を改定し、いずれは「JAEPO」と合併できる体制を作ってみてはどうだろうか。

おりしも「TGS」では、これまでほぼ右肩上がりに増え続けていた入場者数が、今年は昨年に比べ大幅に減少(※)したタイミングでもある。昔から「JAEPO」に出展している、アーケード用ゲーム・遊具機メーカーが「TGS」にも参加できるようになれば、例えば中学生以下の子供と保護者向けの「ファミリーゲームパーク」コーナーに、ミニ遊園地・ゲームコーナーを作って来場を促すといった、新たな相乗効果が生み出せるだろう。

この機会にJAIAとCESAは、各メーカーや広告代理店などの協力を得て「JAEPO」と「TGS」を合併させ、日本のアーケードゲーム業界、ひいては日本のゲーム業界全体の活性化にもつながる、「新ゲームショウ」の創設をぜひ実現してほしい。

※筆者注:2018年の総入場者数は29万8,690人だったので、前年比で3万6,614人も減少したことになる

今後のアーケードゲーム市場・文化の発展のためにも、「TGS」との合併を望みたい(「TGS2019」会場にて筆者撮影)
今後のアーケードゲーム市場・文化の発展のためにも、「TGS」との合併を望みたい(「TGS2019」会場にて筆者撮影)
着ぐるみのステージや、縁日コーナーもある「TGS」の「ファミリーゲームパーク」。ここにアーケード用の遊具メーカーも参入できれば、さらに面白くできるハズだ(「TGS2018」会場にて筆者撮影)
着ぐるみのステージや、縁日コーナーもある「TGS」の「ファミリーゲームパーク」。ここにアーケード用の遊具メーカーも参入できれば、さらに面白くできるハズだ(「TGS2018」会場にて筆者撮影)
ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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