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緊急避妊薬の薬局での試験的販売が開始 専門医が教える“注意してほしいポイント”とは

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

緊急避妊薬の薬局での試験的販売が開始に

「緊急避妊薬」は意図しない妊娠を防ぐために使われる薬で、日本では受診の上で医師の処方箋が必要なものとなっています。

避妊できなかった時点から迅速に服薬する必要があるものの、薬へのアクセスのハードル(受診しにくい、値段が高いなど)が問題視されていました。

そこで、薬へのアクセス向上を念頭に置き、新しい検討が進められています。

厚生労働省の検討会が、医師の処方がなくても緊急避妊薬を適正に販売できるか、一部の薬局で試験的に販売する調査研究を実施することを決め、日本薬剤師会は今年の11月28日から全国145の薬局で試験的に販売を開始しました。

【試験的販売(調査研究)の概要】
・購入できるのは調査研究への参加に同意した16歳以上の人
・16歳以上18歳未満の人は保護者の同意が必要
・16歳未満の人には薬局が産婦人科医などを紹介する
・販売価格は7000〜9000円程度
・購入できる薬局は、研修を受けた薬剤師がおり、夜間や土日、祝日なども対応が可能で、近隣の産婦人科と服薬後に連携できて、個室があるなどプライバシーを確保できる、などの条件を満たした店舗のみ

試験販売の対象となっている薬局情報は以下のサイトから確認できます。

緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業(公益社団法人日本薬剤師会)

薬局で緊急避妊薬を購入できない人は?

今回の試験的販売で、薬局では購入できない人は以下のようになっています。ご注意ください。

・男性
・代理人
・研究参加に同意しない人
・妊娠している人
・妊娠の可能性がある性行為から服用までの時間が72時間を超えた人
・身体の状態によって緊急避妊薬が使用できない人(重篤な肝障害がある等)
・性交同意年齢に達していない人(16歳未満)

すでに妊娠が確定している人や、性行為から服用までの時間が72時間を超えた人は購入できないとされていますので、妊娠の可能性があると思った時点からなるべく早く指定の薬局へ行くことが重要です。

緊急避妊薬の避妊メカニズム

緊急避妊薬がどうやって妊娠を防ぐのか、そのメカニズムを再確認しておきましょう。

排卵前の場合は、主に、内服により排卵を遅らせることで妊娠を防ぎます。また、精子が卵子と出会うのを困難にするために子宮頸管の粘液を変化させる効果もあります。加えて、受精卵の子宮内膜への着床を妨げる効果も期待できます。

これらのメカニズムが複合的に働き、妊娠の成立を阻止することができます。ただし、妊娠阻止率は100%ではありません。服薬することで80%以上の確率で妊娠を防げるとされていますので、例えば元々の妊娠確率が10%だったとすれば、これを2%以下に下げることができる、と解釈できます。

緊急避妊薬の誤った、または不適切な使用方法

ここで、緊急避妊薬の誤った、または不適切な使用方法について確認しておきましょう。薬局で購入するか医師に処方されるかにかかわらず、重要なことなのでぜひ知っておいてください。

NGパターン1:定期的な避妊法として使う

緊急避妊薬は、その名の通り緊急時のみに使用すべきものです。これを定期的な避妊手段として使用することは危険です。

定期的・頻回に使うと、月経不順や不正出血などの副作用が頻繁に起こりやすくなりますし、そもそもの妊娠阻止率は低用量ピルを普段から使うよりもだいぶ低いためです。

NGパターン2:用法・用量を守らない

緊急避妊薬の効果を最大限に引き出すためには、正確な用法・用量を守ることが不可欠です。過剰摂取は、副作用のリスクを高めるだけでなく、薬の効果を逆に低下させる恐れもあります。医師や薬剤師の指示に従って正しい用量を確実に服用することが重要です。

NGパターン3:妊娠中絶を目的として使う

緊急避妊薬は妊娠中絶を目的とした薬ではありません。既に妊娠している場合、緊急避妊薬を飲んでも妊娠中絶する効果はありません。

NGパターン4:避妊失敗から120時間以上経って使う

緊急避妊薬は、性交後できるだけ早く使用することが推奨されています。特に72時間以内に飲むことで避妊効果が高くなり、これを過ぎると薬の効果は著しく低下します。120時間を超えてから飲んでもほとんど効果は期待できません。

NGパターン5:他の薬や病気との相互作用を知らずに飲む

緊急避妊薬は他の薬剤や持っている病気と相互作用を起こす可能性があります。特に、抗てんかん薬、結核治療薬、HIV治療薬、セイヨウオトギリソウ(ハーブの一種)などと併用することで、緊急避妊薬の効果が下がってしまう可能性があります。

また、肝臓の病気や一部の内分泌疾患がある場合には、緊急避妊薬の使用が適さない場合があります。

緊急避妊薬を使用する前には、こうした点について医師や薬剤師と必ず相談するようにしましょう。

NGパターン6:服用後すぐに避妊せず性行為をする

緊急避妊薬を内服した後、例えば3日後に通常の避妊をせず性行為をした場合、妊娠する可能性があります。緊急避妊薬は、使用した時点での性行為に対してのみ効果があり、その後の性行為での妊娠を防ぐ効果はないものと考えてください。

なぜなら、緊急避妊薬は主に排卵を遅らせることによって妊娠を防ぐ効果がありますが、その効果は一時的なものだからです。したがって、緊急避妊薬を服用した後に再度性行為をする場合は、通常の避妊(コンドームの正しい使用、低用量ピルなど)を行う必要があります。

まとめ

緊急避妊薬は、避妊ができなかった性行為後の緊急避妊手段として使われる薬です。排卵の遅延や子宮頸管の粘液の変化を通じて妊娠を防ぐ効果があります。

しかし、これは定期的な避妊法として使うものではないですし、用法・用量を守る必要があります。また、他の薬剤や健康状態との相互作用に注意が必要です。

避妊ができなかった性行為からなるべく早めに飲むことが重要なので、医療機関の受診でも該当する薬局でも、すぐに行けるところに相談することが大切です。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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