Yahoo!ニュース

インフルエンザワクチン、妊娠中でも接種した方がいい? 罹患した場合のリスクと対処法は?

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

寒い季節になってきました。そこで気になるのはインフルエンザの流行です。

妊娠は女性の体に多くの変化をもたらし、これに伴いインフルエンザへの感受性や危険性も変わります。

この記事では、妊娠中のインフルエンザのリスクやワクチン接種の重要性、接種時期、そして感染時の対処法について、最新のガイドラインの内容を踏まえて解説します。

妊娠中のインフルエンザ罹患の危険性

妊娠中は横隔膜が挙上している影響などによって、肺炎といった呼吸器疾患にかかると重症化するリスクが高まります。重症化すると呼吸困難、低酸素状態などに陥り、これは母体だけでなく胎児にも悪影響を及ぼす恐れがあります。さらに、重症感染症では流産や早産となるリスクも高まるため、妊婦さんは特に注意が必要です。

実際の研究報告では、妊婦は非妊娠女性に比べて感染時の入院率が高く、感染することで自然流産、早産、低出生体重児、胎児死亡などのリスクが高まることがわかっています 《参考文献(1)参照》。

妊娠中のワクチン接種について

妊娠中のインフルエンザワクチン接種は、母体と胎児の健康を守るためにとても重要です。妊娠中でもインフルエンザワクチンは安全であるとされており、危険性は非常に低いというのが国際的な見解です。また、妊娠全期間を通じて安全性は変わらないとされています 《同 (1)参照》。

なお、防腐剤としてエチル水銀が含まれている製剤がありますが、その含有量は非常に微量であり、胎児への影響はないとガイドラインにも明記されています 《同 (1)参照》。過去に懸念が持たれていた出生児の自閉症との関連も否定されています。

ワクチンによってインフルエンザに感染しにくくなるだけでなく、生まれた新生児への抗体の移行も期待できるため、出産後の赤ちゃん(具体的には生後6ヶ月頃まで)を守ることにも繋がります。

ワクチンを接種するべき時期と効果持続期間

インフルエンザワクチンの接種に最適な時期は、一般的には流行シーズンが始まる前の秋頃です。妊娠中の女性は特に、インフルエンザの流行が始まる前に接種を受けておくことが推奨されます。

ワクチンの効果は接種後約2週間で現れ、約5〜6ヶ月間持続するとされています。ですが、効果の持続期間は個人差があり、また毎年のインフルエンザウイルスの型によっても異なります。

日本では通常、1月上旬から3月上旬に流行のピークが来やすいですが、それより早い時期にも感染者は増えていきますので、10〜12月のうちの早めに接種を済ませておくことが理想的でしょう。

妊娠中にインフルエンザに罹患した場合の対処法

妊娠中にインフルエンザに罹患した場合、解熱薬や抗ウイルス薬を使用することも可能です。

解熱薬

妊娠中の解熱薬として一般的に用いられるのはアセトアミノフェン(代表的な薬剤名:カロナール)です。これは胎児への影響が最も少ないとされる解熱鎮痛薬で、適切な用量であれば妊娠中に安全に使用することができます。

しかし、他の解熱鎮痛薬(例えばイブプロフェンやロキソニン、アスピリンなど)は胎児への影響が懸念されるため、医師の指示なしに使用すべきではありません。

抗ウイルス薬

インフルエンザの治療に用いられる抗ウイルス薬には、内服薬のオセルタミビル(薬剤名:タミフル)や吸入薬のザナミビル(薬剤名:リレンザ)、ラニナミビル(薬剤名:イナビル)などがあります。これらの薬剤は妊娠中でも使用されることがあり、これまでに胎児の有害事象は報告されていないとガイドラインに記載されています 《同 (1)参照》。

一方で、点滴薬のペラミビル(薬剤名:ラピアクタ)や内服薬のバロキサビル マルボキシル(薬剤名:ラピアクタ)は、妊婦に対する有効性や安全性に関する十分なデータはなく、第一選択になることは通常ありません。

その他の注意点

  • 高熱や強い倦怠感がある場合には、早めにかかりつけ医に相談しましょう。(事前連絡なしに受診すると院内の妊産婦さんの感染リスクとなるためご注意ください)
  • 安静にし、十分な休息をとりましょう。
  • 水分を適切に摂取しましょう。
  • 家族や周囲の人々との接触をなるべく避け、感染の拡大を防ぐため注意しましょう。

妊娠中の女性は、インフルエンザに対して特に注意が必要です。インフルエンザワクチンの接種は妊娠中でも安全性が確認されており、母体と胎児を守る上で極めて重要です。また、インフルエンザに罹患した場合に妊娠中でも使用できる薬はありますが、その種類に注意が必要です。できれば、かかりつけ医に相談して使用するようにしてくださいね。

参考文献

1. 産婦人科診療ガイドライン産科編2023.

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

重見大介の最近の記事