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女性の更年期は「誰にでも訪れる人生のステップ」 産婦人科医が伝えたい5つのこと

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

女性は男性よりもライフステージにおける身体的変化が大きいという特徴があります。特に閉経(約50歳)前後では月経の停止、ホルモン状態の変化などが数年の間に生じるため、憂鬱だったり複雑な思いで更年期を迎えることが多いでしょう。

更年期を迎えつつある女性(もしくは将来について早めに考えている女性)は、更年期にまつわる体調変化ややっておいた方が良いことなどについて多くの疑問や不安を抱えています。

今回は、ぜひ皆さんに知っておいてほしい「更年期に関する5つのこと」を産婦人科医からお伝えします (文献1)。

(1) ホルモン補充療法はするべき?

「ほてり」や「ホットフラッシュ」などの更年期症状を和らげるために、ホルモン補充療法という手段があります (文献2)。

実際には、ホルモン補充療法を早いうちに始めたいと考えているか、インターネットで調べた情報からすでに慎重になっているか、どちらかの女性が多い印象です。

*なお、更年期に現れるさまざまな症状を「更年期症状」(ただし他の病気が原因ではないもの)といい、その中でも症状の程度が強くて日常生活(家事、仕事など)に支障を来している状態を「更年期障害」と呼びます。

確かに、ホルモン補充療法と心臓発作や乳がんなどのリスクの関連性については、怖いと感じるような情報(副作用)がインターネット上にも見つかります。しかし、これまでにたくさんの研究が重ねられてきて、現在では、特に50代以下で閉経を迎える女性にとってホルモン補充療法は一般的に「安全な治療法」であることが分かっています。

それでも、ホルモン補充療法には、乳がんなどのまれな副作用もあるため、まずは自身でできるセルフケアを取り入れることも重要です。

特にほてりに対しては、調整しやすい服装にする、携帯扇風機を持ち歩く、冷たい飲み物を頻回に口にする、などは試してみる価値があるでしょう。アルコールやカフェインなどはなるべく避けるか摂取量を減らし、禁煙や体重管理(特に肥満の改善)にもトライしてみましょう。また、瞑想はほてりを和らげる効果があるとされています。

このような対策や生活習慣の改善で十分な症状の改善が得られない場合は、ホルモン補充療法を検討することをお勧めします。ぜひ、産婦人科へ相談してみてください。

(2) 更年期症状に市販の自然由来のサプリメントは有効か?

ほてりやホットフラッシュを和らげるサプリメントを広告などで見たことがある女性は多いのではないでしょうか。

また、植物由来で「女性ホルモンに似た成分」が配合された製品も見たことがあるかもしれません。

実は、植物やハーブのサプリメントの安全性や有効性についてしっかりと研究されたものはほとんどありません。また、これらの医薬品は十分に規制されておらず、中には危険な製品があることも知っておいてください。加えて、市販のサプリメントは普段服用している他の薬や他の病状に影響を与える可能性があります。

このような理由から、更年期症状を緩和するためにサプリメントをたくさん飲み始めることはお勧めしません。症状が更年期症状によるものだとわかっていない状況ではなおさらです(中には甲状腺疾患や悪性疾患が隠れていることもあります)。

サプリメントを購入・摂取する前に、必ず一度はかかりつけの産婦人科に相談してくださいね。

(3) 更年期は性欲にどう影響する?

この話題は産婦人科でもあまり質問されませんが、実は多くの女性が疑問・不安に思っていることかもしれません。

更年期のホルモン変化は、腟の乾燥を引き起こし、それがセックス時の痛みの原因となります。また、おりものの臭いを引き起こすこともあります。

こうした痛みや臭いを恐れて、セックスに消極的になる女性も実際には少なくありません。

この懸念は、腟や外陰部の保湿剤や潤滑剤(潤滑ゼリー)で解決または和らげることができます。試してみても効果がない場合は、塗り薬や飲み薬などの医薬品もありますので、ぜひ産婦人科に相談してみてください。

更年期以降でも、こうした理由でセックスを諦める必要はありません。ちょっとした手助けで、パートナーとの楽しい時間を保つことができるはずです。

更年期の性交痛に限った内容ではありませんが、以下の記事も参考になさってください。

セックスでの痛み、改善方法は?受診の目安は? 産婦人科医による解説

(4) 閉経後も年1回の婦人科検診は必要?

答えは「YES」です。

年齢に関係なく、年に一度の婦人科検診は推奨されています。月経痛や妊娠関連の検査・ケアはもう必要ないかもしれませんが、産婦人科では女性の健康管理全般を受けることが可能です。

子宮のがんや性感染症のチェック、セックスや尿失禁、骨盤臓器脱に関する悩み相談まで、閉経後もまだまだ産婦人科の受診は大切です。

さまざまな症状が出てきやすい時期でもありますので、かかりつけの産婦人科で気になることをなんでも相談できるような「婦人科検診」が望ましいでしょう。

(5) 閉経後も子宮頸がん検診やマンモグラフィは必要?

こちらも「YES」です。

国によって子宮頸がん検診の推奨上限年齢は異なっているのですが、日本の「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」では、基本的に69歳まで子宮頸がん検診を続けることが推奨されています (文献3)。ただ、その後に異常が見つかることもありますので、厳密な上限の線引きは難しいというのが実際のところです。

なお、子宮摘出手術を受けた女性でも、手術の方法などによっては検診が必要な場合がありますので、主治医にきちんと確認しておきましょう。

乳がんスクリーニングで用いられるマンモグラフィーは、日本では明確な上限年齢が定められていません。海外では国によって69歳や74歳という推奨の上限が設けられている場合もあります。

どちらの場合も、できるだけかかりつけの産婦人科に相談できる環境を持っておくことが安心につながるでしょう。

更年期は人生のステップの1つ

更年期に大きな不安や疑問をお持ちの方にとって、本記事が少しでも役立てば幸いです。

更年期は誰にでも訪れる人生のステップの1つであり、あくまでも「自然なもの」です。もちろん不快な症状は適切な医療とセルフケアによって緩和していく方が過ごしやすくなるでしょうから、その際はぜひ産婦人科を頼ってみてくださいね。

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*米食品医薬品局(FDA)は2023年5月12日、閉経に伴うホットフラッシュ(ほてり)などの治療薬「Veozah(一般名フェゾリネタント)」を承認しました(日本では未承認)。以下は、これまでの既存治療とはどう違うのか、本薬剤の注意点は何か、などを解説した記事ですのでよければご覧ください。

新しい更年期障害の治療薬が米国で承認!既存治療との違いや注意点を解説

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参考文献

1) ACOG FAQ. 5 of the Most Common Questions About Menopause.

2) 日本産科婦人科学会. 更年期障害.

3) 科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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