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新型コロナウイルスワクチンで月経期間や月経量に影響はある? 産婦人科医の解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの流行が続いています

新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が、日本でも徐々に進んでいます。

2022年2月時点で全日本国民の80%弱が2回目接種を終えていますが、ブースター(3回目)接種を終えた人はまだ8%程度にとどまっています。(文献1)

米国CDCの研究では、2回のみ接種した人と比べて、ブースター接種した人ではオミクロン株への感染率や死亡率が低く、また感染後に症状が出現する頻度も低いことが報告されており、日本でも第6波の収束に向けてブースター接種が加速することが期待されます。(文献2、3)

ワクチンによる月経への影響はある? 最近わかってきたこと

そのような中で、やはりワクチン接種における副反応が不安な方も少なくないでしょう。特に多いのは接種当日〜2日後くらいまでの発熱や疼痛ですが、女性の場合、ワクチン接種後に月経が乱れて不安になった、という人がいらっしゃるかもしれません。

英国医薬品医療製品規制庁の副作用に関するレポートにも、生理不順や不正性器出血の報告が含まれています。(文献4)

今回は、「月経周期」と「月経量」への影響について最近報告された研究結果を紹介します。

月経周期への影響は

2022年1月、Obstetrics & Gynecologyという米国の医学雑誌に、新型コロナウイルスワクチンの月経への影響に関する大規模な研究結果が初めて報告されました。結論としては「ワクチン接種後の女性では、その後の月経周期が少し(約1日程度)長くなっていたが、月経期間は変わらなかった」という結果でした。(文献5、6)

この研究は、約4,000名の米国在住女性(18〜45歳)を対象に行われました。データは2020年10月から2021年9月にかけて、月経周期の記録をアプリで収集・解析しました。

2020年12月から2021年7月の間に新型コロナウイルスワクチン(ファイザー、モデルナ、ジョンソンアンドジョンソン)を接種した女性では、接種前と比べ、月経周期は1回目接種後に0.7日、2回目接種後に0.9日長くなりました。また、月経期間は1、2回目接種後にどちらも0.01日短くなりました。

つまり、新型コロナウイルスワクチン接種による月経周期の変化は平均1日未満であり、月経期間はほぼ変わらず、影響はとても小さかったようです。

一方、1回目と2回目のワクチンを同一の月経周期に接種した女性(358名)では、月経周期が平均2.4日長くなっており、異なる月経周期に1回ずつ接種した女性と比べて月経への影響がやや大きかったとも報告されています。

このうち約1割の女性は8日以上の月経周期の変動がありましたが、接種直後の2周期以内に元の日数に回復しており、ワクチンによる月経周期の影響は一時的なものであると考えてよさそうです。

月経量への影響は

また、ノルウェーからも、新型コロナウイルスワクチン接種後の月経にまつわる症状の変化について報告されました(ただし正式な論文化前のプレプリントのためあくまでも参考情報です)(文献7)。

この研究によると、ワクチン接種直後の周期では経血量が増えるリスクが1.8〜1.9倍だったと報告されています。

しかしながら、接種前の時点で37.8%の女性が何らかの月経にまつわる変化を経験していたことも分かっており、ワクチンによる純粋な影響がどれだけのものか特定するのは難しいと考えられます。月経異常は、女性にとって普段からたびたび経験するものだ、とも言えるでしょう。

ワクチンによる月経への影響はあっても小さく一時的

新型コロナウイルスワクチンがどのようなメカニズムで月経周期に影響を与えるかはまだ詳しく解明されていません。mRNAワクチンが引き起こす免疫反応のストレスや、副反応による発熱・疼痛などのストレスが、排卵までの期間に影響を及ぼしている可能性は考えられますが、もしそうだとすると、新型コロナウイルスにかかることでさらに強い影響が出る可能性も十分考えられます。

このため、ワクチンによる副反応だけに注目せず、感染した場合のリスクについてもきちんと知っておくことが大切です。

新型コロナウイルスワクチンの副反応を不安に感じている女性は多いと思います。しかし、国内外から報告されるデータもどんどん増えています。

ぜひ、今回ご紹介したような最新の知見を参考にしてワクチン接種を検討してみてください。信頼できるかかりつけの婦人科医に相談してみることも一つでしょう。

そして今後も、世界中で新型コロナウイルスワクチンの月経への影響について研究が進んでいきますので、なるべく最新の科学的データを参考にしながら、しっかり対策を講じていきましょう。

なお、妊産婦へのブースター(3回目)接種について国内外の最新情報はこちらの記事にまとめています。ぜひご覧ください。

【2022.1/16版】妊産婦への新型コロナワクチンのブースター(3回目)接種 国内外の最新情報

*本記事の内容は2022年2月12日時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく下記リンク等から最新情報をご参照ください。

参考文献

1. 首相官邸ホームページ(2022年2月12日時点).

2. Johnson AG, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:132–138.

3. Accorsi EK, et al. JAMA. Published online January 21, 2022.

4. Medicine and Healthcare Products Regulatory Agency. Coronavirus vaccine—weekly summary of Yellow Card reporting.

5. NIH Research Matters January 25, 2022.

6. Edelman A, et al. Obstet Gynecol. 2022 Jan 5. Epub ahead of print.

7. Trogstad, Lill. Increased Occurrence of Menstrual Disturbances in 18- to 30-Year-Old Women after COVID-19 Vaccination (January 1, 2022).

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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