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夜勤や肉体労働、長時間労働が妊婦に与える影響は? 無理せず産婦人科医へ相談を

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

近年、働く女性の数はますます増加していますが、全ての職場が女性にとって安全と言えるためには、まだ改善の余地がたくさんあります。

例えば、職場における生殖ハザード(男女の健康的な生殖機能や健康な子供をもつ能力を脅かす物質や要因)が問題視されつつあることは、前回の記事で詳しく説明した通りです。

この生殖ハザードには、有害物質やウイルス、騒音や労働負荷など多種多様なものが含まれます。前回の記事では有害物質やウイルスに焦点を当ててお話ししたので、今回は働き方や労働自体が妊娠に与える影響について産婦人科医の目線から説明します。

妊婦のハードな肉体労働は流産・早産・怪我のリスクを増加させるリスクあり

ハードな肉体労働は、流産・早産・妊娠中の怪我のリスクを増加させるという研究報告があります。

また、月経不順を引き起こすこともあるため、妊娠しにくくなってしまう可能性もあります。

例えば、1日に20回以上腰を曲げたり、5分ごとにものを1回以上持ち上げるような仕事は流産・早産のリスクが上がるというデータがあります。(文献1)

さらに、妊婦さんは妊娠週数が進むにつれて体型・重心・体重が変化し、ホルモン分泌の変化で靭帯や関節が緩みやすくなります。

これにより、身体のバランスをとるのが難しくなったり負担がかかりやすくなり、怪我をしたり腰を痛めやすくなったりします。

一般的には、身体的負担が大きい職業として以下のものなどが挙げられます。

・医療従事者

・製造業従業員

・工事作業員

・接客サービス

・客室乗務員

・消防士

・保育士

・教師

・農業従事者

・警察官

しかし、他の職業であっても身体的にハードな作業をする機会はありますから、仕事をしている女性は、ハードな肉体労働が妊娠に影響を与えうることを意識しておく必要があるでしょう。

妊娠中になるべく避けた方がいい作業は?

妊娠中の安全な肉体労働の量や時間には個人差がありますが、一般的には以下の労働を避けることが米国の研究機関(NIOSH)で推奨されています。(文献1)

・繰り返しかがんだり、腰を曲げたり、しゃがんだりする

・重たいものを床やひざ下から持ち上げる

・頭上にものを持ち上げる

・長時間立ったままでいる

どうしても上記のような作業が必要な場合は、こまめに座って休憩を取り入れるなどして負担を減らすことである程度リスクを減らせると考えられています。

ただ、体力や持病などに個人差はあるので、自分自身にとって無理のない範囲に調整しましょう。上司への早めの相談も大切です。

また、妊娠に関する合併症があったり、妊娠経過のトラブルによっては肉体労働をしてはいけない場合もあります。

妊娠中の職場での労働について不安・疑問に感じることがあれば、まずかかりつけの産婦人科医に相談してみましょう。

交代制勤務(夜勤)や長時間労働は、月経不順や流産・早産など様々なリスクを増加させる

夜勤や長時間労働をする方は、睡眠時間が不規則になったり十分に睡眠を取れていないことが多く、月経不順や流産、早産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群などのリスクが増加すると考えられています。(文献2)

不規則な睡眠時間によって体内リズムが整わないと、ホルモンバランスを崩す原因になり、月経周期や妊娠中の体調に影響を与えてしまいます。

また、睡眠不足はストレスホルモン(コルチゾール)の増加やメラトニン産生量の減少を招き、胎盤の成長が抑制されたり、子宮収縮が起こりやすくなったりするリスクも指摘されています。(文献3)

そのため、妊婦さんは出来るだけ夜勤の仕事を避け、無理のない勤務時間で働くことが望ましいでしょう。

妊娠中の勤務環境に不安がある場合は、勤務先の上司やかかりつけの医師に相談しましょう

ご自身がもともと妊娠を勤務先の上司に伝えていれば、上司から妊娠中でも無理なく働けるような条件を提案してくれる可能性もあります。

ただし必ずそうとも限らないので、ご自身が不安に感じているなら、「仕事内容を事務作業に変更できないか」「椅子で休憩する時間をとってもよいか」「夜勤を減らせないか(またはなくせないか)」などぜひ積極的に相談してみてください。

もしくは、産婦人科医に体調を相談したり、母性健康管理指導事項連絡カード(通称:母健連絡カード)を記載してもらうとよいでしょう。

母健連絡カードでは、医師の判断に基づいてより具体的な指導が記載できるため、企業側も適切な対応が可能になります。

参考記事:働くプレママが活用できる社会制度とは(産婦人科オンラインジャーナル)

なによりもご自身とお腹の赤ちゃんのために

一生懸命仕事を頑張ることはときに良いことですが、妊娠や赤ちゃんへの影響を考えると、避けたり調整するべき作業・労働もあります。

無理してご自身が体調を崩してしまうこともできるだけ無くしたいものです。

現在のご自身にとって最適な環境で働けるように、知識を身につけたり勤務先へ相談するとともに、疑問や不安があればいつでも産婦人科医へ相談してくださいね。

なお、最近では企業が「産婦人科医や小児科医、助産師へのオンライン相談窓口」を社員の皆さんへ提供する事例も増えてきました。

こうした新しい福利厚生制度の形を活用することも、これからの「女性にとって安心できる職場」にとって重要なポイントとなるかもしれません。(例:産婦人科オンライン・小児科オンライン

参考文献

1. National Institute for Occupational Safety and Health. The Effects of Workplace Hazards on Female Reproductive Health.

2. Cai C, et al. The impact of occupational shift work and working hours during pregnancy on health outcomes: a systematic review and meta-analysis. Am J Obstet Gynecol. 2019 Dec;221(6):563-576.

3. Schernhammer ES, et al. Epidemiology of urinary melatonin in women and its relation to other hormones and night work. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004 Jun;13(6):936-43.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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