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子どもたち一人一台端末時代になくてはならない存在、ICT支援員の協力を引き出すには <後編>

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:Paylessimages/イメージマート)

小中学校で一人一台端末の整備が進みつつあります。導入、活用に向けて期待されているのが、GIGAスクールサポーターやICT支援員と呼ばれる、外部人材です。20年以上学校のICT導入・活用支援に携わり、支援員らの研修も行っている五十嵐晶子さん(合同会社かんがえる代表、以下敬称略)に伺いました。後編。

◎前編はコチラ

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20210528-00240031/

妹尾:

次に、家庭への端末の持ち帰りについて伺います。家庭のWi-Fiなどの通信環境のあるなしもありますし、家庭に持ち帰ったあと破損やネット上のトラブルになったらどうしようという思いもあり、持ち帰りは禁止するという学校も多いようです。文科省は家庭学習でも使ってほしいという考えのようですが。

五十嵐:

既に持ち帰りを始めている学校もあれば、今年は全然持ち帰りませんというところもあり、現状は両極端です。理由はいろいろありますが、破損と紛失が一番心配という声は多いです。小学生は落として液晶パネルを割ったり、中学生は鞄に入れたままその上に座ったりして壊してしまったり。自分のお気に入りのケースなども購入してもらって、愛着を持って大事に使うということから、学んでいくことが大事だと思います。

また、Wi-Fi環境については、貧困問題が原因というケースもありますが、それよりも保護者に興味がなくてネット環境がないというケースも多いです。

最初はポケットWi-Fiなどの貸し出しでもいいと思いますが、子どもたちの学習に有効なツールであることを、保護者にも理解してもらえるようにしていくことが必要だと思います。

学校は恐れず保護者に啓発していったほうがよいと思いますが、自分たちで言いにくいことは、わたしたちのような外部の者から伝える場を設けていただくのもひとつの方法です。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

妹尾:

子どもたちは、自分の端末をよく使った方が大事にするようになる、ということもありますよね。自分のパソコンという感覚、愛着が高まると、破損率が下がるケースも多いそうです。

授業中はごくたまにしか使わない、鍵のかかった保管庫から取り出すのも億劫。もちろん家に持ち帰りなんてダメ。こういう禁止一辺倒の発想では、結局ICTに慣れず、破損やネットトラブルに遭いやすい子どもたちを育成してしまっているかもしれません。

それに破損が怖いと言っても、保険で対応するべき話でしょうし、家庭内でのトラブルは家庭責任であることを教育委員会と校長は、保護者に伝える必要があると思います。

怖い、怖いばかりだと、利活用を遠ざけてしまいます。「教科書をなくしたり、破いたりしてはいけないから、自宅に持ち帰ってはいけません!」という学校はないですよね?修学旅行だって、交通事故をはじめさまざまなリスクやトラブルは想定されますが、だからといって、やめることはないです。コロナの影響は別ですが。

家庭の環境差については、Wi-Fiの貸し出しをする教育委員会もありますし、就学援助や自治体独自の施策で通信費の補助を出すところもあります。もっとも、そうした支援を受けられないで困っている家庭もあるので、そこは別途の支援を考えていくことが必要だと思います。たとえば、学校でもICTを使って宿題を済ませられる自習室を用意したり。

持ち帰り禁止だと、結局、家庭での環境が整っていて、保護者も教育熱心なところの子どもは、どんどんICTで学びを広げたり、プログラミング講座を受けたりする一方、そうした家庭環境にない子は、取り残されてしまいます。通信環境に差があるから持ち帰り禁止だと言っている校長や教育長は、自分たちが教育格差を広げてしまっているかもしれない現実を見るべきだと思います。

さて、ある支援員さんからコメントをいただきました。教育委員会から頼りにされない、「あまり出しゃばるな」と言われたということですが・・・。

五十嵐:

わたしたち支援員は機械ではないので、みんなが同じものができるわけではないんです。表計算が得意な人もいれば、子どもへの対応が得意な方もいる。両方とも備えている方はそういるわけではありません。

ある一人だけが突っ走ると、ほかの支援員ができないときに「〇〇中学校ではこれやってくれたよ」と言われるときがあって。これも「業務範囲」の明確化につながる課題です。

ICTに明るい人から見ると、学校の遅れを何とかしたいと熱意をもって助言をしたくなることが多いと思います。しかし、それが個人のPCでの場合と自治体全部を巻き込む場合とでは、その費用感や作業負担が桁違いに異なることもあります。学校や教育委員会のほうで技術面でさっと判断できる方が権限をお持ちなら良いのですが、技術的にわからないことを支援員から突然進言されて、ストレスを感じる場合もあるでしょう。

ICT支援員の立場では、全体像が見えないケースも多いので、技術的なアドバイスは、全体の仕組みは見えないことを心得た上で、事実に基づいた一つの報告として、慎重に伝えることも必要です。

妹尾:

個々の支援員さんにわたる謝礼は決して高額ではないのに、妙に高い技術水準を期待する人って、学校や教育員会にいますよね。ご自身も、その仕事が難しいことなのかどうかよくわかっていないのかもしれませんが。

五十嵐:

わたしが支援を担当しているところでは、ICT支援員をチームにして、10人いれば10人で対応できる体制を目指しています。お互いの特性を知り、頼り合うことができるようにしています。自分一人が全部できるようになる必要はありません。相手をリスペクトして任せる、逆に自分のできることは手助けする関係をつくることが大切です。

また、標準で支援員に何をしてほしいかを国も自治体も示してほしいと思います。本当に低い賃金で何もかもやらされてしまうところは打破しないといけないと思っています。

妹尾:

子育てでも、Nobody's Perfectという活動があるんです。「あれもできなきゃ」と悩んだり、自己嫌悪になったりするお母さん方は多いですが、完璧な親なんていないという認識をもったほうが多少は楽になると思います。

ICT支援員も、自治体の教育ICT担当者も、もちろん教職員も、Nobody's Perfectという意識でいるほうが、働きやすいと思いますし、お互いに付き合いやすいと思います。

五十嵐さんのお話に近いことは、学校事務職員といって、学校の経費や総務を担当している職員にも言えます。小中学校では各校に事務職員は1人しか配置されていないところが大半ですが、共同実施や共同学校事務室という方法で、複数校の職員が集まり、それぞれの得意なところで補い合っている地域もあります。

学校の中のICT推進も得意な先生にだけにお願いしていると、その人が異動すると、ダメになります。熊本市は昨年の休校中に推進チームを校内に作って、そのチームの中核人材に研修するという方法を採りました。

さて、別のかたから質問、ご意見が届いています。「校長をはじめ年配の先生にICTに拒否反応がある、教員のマインドセットを変える必要がある」ということです。これまでトラブルで痛い目に遭ってきた人たちは、なおさら慎重になるのでしょうね。

五十嵐:

まず、先生方にしっかりお伝えする必要があるのは、自治体の教育ドメインのなかで閉じられたネットワークのなかでセキュアな環境で利活用している、ということです。「いまあなたたちは、どのように守られています」ということを、もっと共有する必要があります。

年配の先生はこれまで痛い目に遭われています。漏洩事件があって、個人情報保護の条例が厳しくなりました。痛い目に遭ってきた人をこれ以上叩かないでほしい、と思います。丁寧な説明と、安心できる仕組みをつくっていくことが必要です。

それから、家庭の責任まで先生たちが背負わないようにしたいです。

画像はいらすとや
画像はいらすとや

妹尾:

完璧な安全やゼロリスクはありませんが、知らないから恐れている、食わず嫌いになっているところもあると思います。

保護者の関係については、以前ある民間人校長が、「スマホの時間が長い家庭には学力向上は約束できない」と保護者に明言したことがあります。この言い方がいいかどうかは議論があるところかとは思いますが、学校も教育委員会ももっと率直に保護者の役割も大きいということを言っていく必要があると思います。

たとえば、ネットゲームのフォートナイトでのトラブルが学校に持ち込まれるという話を聞きますが、家庭責任ですよね。学校も何でも屋ではありません。学校の管理外のトラブルや使いすぎは家庭の責任である、ということをもっと共通理解にしたいです。

働き方改革でも、部活動について、本校は〇〇部が優勝しましたとかPRばかりしていてはダメです。先生たちのボランティアで支えられていること、顧問の先生はその部活動の専門性があるわけではないことなどを保護者に伝えている学校では、部活動のクレームが激減しています。

五十嵐:

それから、ネット環境がおうちにないという家庭については、貸し出しのWi-Fiではそれほど容量がないケースも多いと思います。先生方は必ず動画でやらないといけないとばかり捉える必要はない、と思います。文字データを送付するだけなら、それほど通信量はかかりません。情報をネットを介して集めるだけでなく、子どもたちにフィードバックするということが先生たちの役割としては大事です。

子どもたちの顔を見るのはちょっとでもいい。テレビ放映されているようなカッコイイ動画をつくろうとしても、慣れないとスタッフも4~5人いないと難しいことです。

妹尾:

むしろオフラインのほうが気が散らずに、勉強が進む場合もありますしね。熊本市教育委員会では1年前に4ステップで、できることから進めようと先生たちに呼びかけました。はじめからオンライン授業ができなくてもよくて、まずは顔をちょっと見て、健康観察ができるだけでもいいですよと伝えたのです。スモールステップにすることで、苦手な先生にとっても始めやすかったようです。

五十嵐:

児童生徒一人一台端末が届いたのは、本当にチャンスで、ICTの活用を全国に広げていきたいです。先生にお力になれることを進めたいですし、保護者の不安を少しでも払拭できればと思います。

◎妹尾、あとがき

各学校ではパソコン端末やICTの導入、活用に向けて、苦労しているところが多いと思います。保護者のなかにも不安なかたも少なくないと思います。

外部の手をうまく借りられるためにも、今回のインタビュー、対談が少しでも参考になれば、幸いです。

◎これまでの記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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