小学校の教員採用倍率が過去最低。なぜ倍率低下は起きているのか?

(写真:Paylessimages/イメージマート)

 2019年度に実施した公立小学校の教員採用試験で、競争倍率は全国平均で2.7倍と過去最低だったことが本日発表されました。新聞やテレビなどでは、教師の人気が下がっているとか、質が心配だといったものが多く見られますが、単純にそう言い切れるものでもありません。どうして倍率は低下したのか、それはどんな問題があるのか、解説します。

■発表されたデータは2019年のものだが、直近(2020年実施)も低倍率のところも。

 まず、文科省が毎年この時期に発表しているのは、各教育委員会からのデータを集めたもので、1年少し遅れたものとなっています。今回のデータで言えば2019年度実施のものですから、コロナ禍前の採用状況です(国にはもっとデータ収集と公表を早くしてほしいですが)。

 直近の2020年度実施(21年採用)については、教育新聞社の「【2021年度教員採用試験】 最終選考実施状況(2020年11月11日)」が速報として出しています。今年度も倍率が低い地域も少なくないようです。小学校だけ見ますと、一例ですが、北海道(札幌市を除く)1.3倍、山形県1.5倍、福岡県1.4倍、福岡市1.9倍、佐賀県・大分県・長崎県それぞれ1.4倍と、北海道・東北、九州などでは低いところが目立ちます。東京都は1.9倍です。一方で5倍を超えている地域もあります。地域差が大きいのです。

※教育新聞の報道は受験者数÷最終合格者数なので、受験者数÷採用者数である文科省や各教育委員会発表のデータと異なることがあります。

子どもたちの成長に関われる魅力的な仕事ではあるが・・・
子どもたちの成長に関われる魅力的な仕事ではあるが・・・写真:Paylessimages/イメージマート

■なぜ、倍率は低下しているのか?

 なぜ、倍率が下がっているのでしょうか。実は、一番シンプルで、強力な答えは、採用者数が多いからです。次のデータは、文科省の資料で、ここ40年ほどの推移が分かりますし、倍率が低い県市と高い県市の例示もあります。

 倍率が高かった時代、2000年前後は全国で小学校の採用者数は年に3,600~5,000人前後でした。これが、ここ最近は16,000~17,000人前後まで採用枠が拡大しています。実におよそ4倍。これはあくまでも全国の合計値ですから、実際には都道府県・政令市ごとに違いはあります。倍率=受験者数÷採用者数であって、分母の採用者数が大きくなっているので、倍率が下がっている、というわけです。

出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」
出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」

 しかも、一部の地域は例外ですが、多くのところは、受験者数も減っています。この問題は後述します。

 採用者数がこれだけ増えているのに、受験者数はむしろ減っているとなると、倍率が下がるのは、当たり前ですよね。

■どうして大量採用なのか?

 低倍率≒採用数が多い地域なわけですが、採用者数はなぜ多いのでしょうか(くどいようですが、地域差はありますが)。少子化なのに。

 背景のひとつは、第2次ベビーブームの子どもたちを教えるために大量採用されたベテラン教員が定年退職の時期を迎えているからです。どうしても大量退職、大量採用となったという部分があるのは確かです。

 しかし、定年退職が何年ごろには多くなりそうだということは、その何年も前からわかっていたことですから、計画性が欠ける採用であった地域もあるのではないか、との見方もあります。これが二番目の背景です。

 三番目としては、少子化しているとはいえ、特別支援教育などで一定の教員数が必要となっている背景もあります。ただし、今回の倍率の話は正規採用教員の話ですが、特別支援教育の充実や少人数指導のために、非正規雇用を増やしてカバーしている自治体も多いです(これはこれで大きな問題ですが、別の機会に論じます)。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

■受験者数も減っている。

 さて、倍率とは受験者数÷採用者数ですから、分子の受験者数についても注目する必要があります。受験者数はここ数年、減少トレンドにあります(小、中、高ともに)。

 受験者というのは、2タイプに分類できます。ひとつは新規学卒者、つまり大学等の卒業見込みの学生さん、新卒採用です。もうひとつは既卒者で、民間企業等の人もいますが、多くは、前年までの採用試験で不合格だった方で、学校に講師として勤めている人です。

 受験者数を5年前と比べてみましょう(平成28年度採用と令和2年度採用)。小学校教員については、新規学卒者は5.9%減少、既卒者は22.1%減少していて、既卒者の減少の影響が大きいことがわかります(次のグラフ)。ここ数年大量採用してきたので、不合格者が少なかったため、講師になる人が減っています。その影響で、既卒者が少なくなるのは当たり前の話です。

出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」
出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」

 中学校教員採用については、新規学卒者は24.0%減少、既卒者は21.9%減少しています。既卒者の減少は、小学校の場合と同じ説明ができますが、新規学卒者の減少は、少子化の影響を差し引いたとしても、教員を目指さなくなった若者が多くなったことを意味します。民間企業や他の公務員に流れたということですね。小学校教員は中学校ほどではないとはいえ、一部にそういう影響もあるのだろうと推測できます。

 そして、学生さんらに取材すると、やはり学校の長時間労働を敬遠しているという声も多く聞きます。教員という仕事にやりがい、あるいは、自分が児童生徒だった頃のよい思い出などがあっても、プライベートを過度に犠牲にせざるを得ないこと、またそうしたなか、自分が働き続けることができるか不安という声も聞きます。

 そして、逆に採用倍率が高い地域、また受験者数がそう減っていない地域が果たして、よそと比べて、すごくいい労働環境かと言えば、そうとも限りません。たとえば、小学校であれば、新学期にいきなり学級担任を任され、最大10教科近くも準備する必要があり、休憩時間もろくに取れない地域は多いですが、これは全国各地ほぼ共通の大問題であり、どこかだけが恵まれているわけではありません。

 一例だけをあげると、高知県ではここ1、2年の小学校の倍率は高いのですが、だからといって、安心もできません。報道によると、「昨年は内定128人中78人、今年は150人中84人がそれぞれ辞退し、その後の2次、3次内定で補充した」というのです(高知新聞2020年12月9日)。高知は他地域よりも採用試験のスケジュールが早めなのですが(教員採用試験は日程がかぶらない限り、複数受験可能)、とりあえず内定を取っておきたいという人も多いのかもしれません。となると、受験者数が多い、あるいは倍率が少々高いからといって、それでいいとも限りません。

■倍率低下は何に影響するのか?

 最後に、低い倍率だと、何か問題があるのかについても、簡単に触れておきたいと思います。

 すでに以前の記事や拙著にも書いていますが、低倍率だからといって、ただちに質が低下しているとは言い切れませんし、そういう証拠もしっかりしたものがあるわけではありません。ですが、傍証としては、採用担当者の実感として、あるいは新人を受け入れる学校現場の実感として、質が心配だといった声や優秀な人材が教師を目指しにくくなっているという実感は、多くあります。

参考記事:妹尾昌俊 「【先生の質は低下しているのか?(1)】 2倍、3倍を切る採用倍率の影響、背景を考える」

 また、低倍率は講師バンクの枯渇に直結します。通常は、採用試験に残念ながら不採用だった方が講師登録をして、講師(臨時任用の先生)を続けながら、採用試験に再チャレンジするというのが一般的です。倍率が下がっているということは、不合格者も減っているということですから、講師登録者も減るということを意味します。

 そして、年度途中でメンタルを病み、病気休職される方や離職される方が出た場合、各教育委員会、学校は講師バンクの登録者に声をかけるわけですが、登録者もすでに別の学校や民間などに就職済であったりして、講師のなり手がいなくなっています。担任の先生の補充が見つからない、そういった学校も実際に出てきています。

 以上まとめると、倍率が高い、低いで一喜一憂するのも問題ですし、高くても安心はできないわけですが、低倍率にはさまざまな負の影響もありますし、危機感をもつべき問題です。

 対策については別途論じたいと思いますが、文科省や教育委員会の一部がおっしゃっているように、教師の魅力をもっとPRしよう、といった「ぬるい」ことでは、まったく歯が立たたないと思います。それは、きょう解説したように、倍率低下の背景を考えると、イメージいただけるのではないかと思います。

※この原稿は、拙著『教師崩壊』(PHP新書)を抜粋して一部データ等を更新して作成しました。

◎妹尾の記事一覧

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