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「学校からの文書にまたハンコ?手書きで記入?」がなくなる日が来るかも

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(図:いらすとや)

 小学生や中高生の子どもをもつ(もしくは、もったことのある)保護者の多くは、実感されていると思いますが、学校からはよく紙のプリントをもらいますね。関係者のなかには「紙バクダン」なんて言葉で揶揄する人もいるくらいですが、かなりの量になるときもあります。

 そのうちの一部には、保護者が「見ましたよ」とか「承諾しました」という意味で押印、ハンコを求められるときがあります。卒業式などの行事に出るかどうかや、授業参観、懇談会などの出欠、通知表の確認、プールに入るかどうかの連絡、部活動の入部届、子どもの写真を学校ホームページに掲載していいかの確認などなど、内容は多岐にわたります。わたしも小学生と中高生の父親なので、よく経験しています。

 さて、こうした押印やプリントについて、きょう、文科省はハンコを省略したり、デジタル化を進めたりすることを全国の教育委員会等に求める文書を出しました。今回の記事では、この中身と課題について解説します。

文科省の文書とハンコ(筆者撮影)
文科省の文書とハンコ(筆者撮影)

■認印で意味あるのか?

 今回の動きは、霞が関(中央省庁)での行政のデジタル化、脱ハンコの動きとも呼応しています。河野行政改革担当相が10月15日に関連するツイートをしていますが、6万以上の「いいね」、1万以上のリツイートがありました(10/20 12時確認時点)。反響が大きいですね。

 さて、文科省の通知の内容を見てみましょう。通知本体はこちらにアップされています

 この文書では、「可能なところから、押印の省略及び学校・保護者等間における連絡手段のデジタル化に向けた取組を進めていただきますようお願いいたします」とあり、できることから、小さなところからでも、どんどん進めてくれ、というニュアンスが読み取れます。なお、食物アレルギーの確認など児童生徒の生命にかかわりかねない文書については、自署を求めることも考えられるなど、慎重な対応が必要なことにも言及しています。

 とはいえ、学校としては、ちゃんと保護者からの連絡である旨を確認するために、あるいは後々なにかトラブルになっても困るから、ハンコは残しておきたい、という見方もあるかもしれません。その点について、今回の文書ではこう書いています。

押印の効果として、押印があることで当該文書が保護者等によって作成されたことが一定程度「推定」されることにはなるが、これは相手方による反証(例えば、印鑑の盗用等により他人や児童生徒がその印鑑を利用した可能性がある等)が可能なものであり、特に保護者等に多用されているいわゆる「認印」による押印の場合には、その認印が保護者等のものであることを認印自体から立証することは事実上困難であり、押印の効果は限定的であること。

出典:文科省通知文

 つまり、認印を押す意味は薄いということですね。さすがに実印を求める必要性のあるシーンは少ないでしょうし、だったら、さっさと、ハンコをなくせるものはなくしましょう。

 また、学校からもらってきたプリントや文書、あるいは保護者が押印したあとのものを子どもがなくすというシーン、あるいは家のなかで行方不明になることって、よくありませんか?(うちもたまにあります、苦笑)今回の動きは、ハンコをなくしたり、減らしたりするだけでなく、紙でのやりとりを減らしましょう、という内容です。ここが大事です。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■「連絡帳文化」をやめられるか?

 たとえば、今般の新型コロナも心配ですが、よくあるシーンがインフルエンザや風邪で、子どもが急に学校を休むとき。昭和なままの学校では、連絡帳をきょうだいや近所の友達に託してください、というところがまだまだあります。ですが、これはきょうだいが多かった時代のなごりでもありますし、子どもが高熱などのときはたいてい親もテンパっていますので(自分も病気だったりもします)、近所等に届ける余裕はありません。病気をうつしてもいけませんしね。つまり、時代にも保護者ニーズにもそぐわなくなっているのは、誰の目からも明らかです。

 そこで、学校に電話することも多くなるわけですが、インフル等が流行っている時期はなかなかつながらない。あるいは学校側もひっきりなしに電話がかかって、教頭や事務職員らが疲弊します。これでは、保護者にとっても、学校にとっても、得になっていません。欠席連絡のアプリやサービスはすでにいくつかありますので活用してもいいでしょうし、ネット上のフォームを使ってもいいでしょう。

 今回の文書の参考資料には、こうした観点での参考例なども掲載されています。

(文科省文書に掲載されている参考例)
(文科省文書に掲載されている参考例)

 今回の通知をひとつの契機に、さまざまな情報共有のデジタル化が進むといいと思います。もちろん、なかにはデジタル機器がない家庭もありますが、かなりの世帯がスマホかなにかをもっていますので、個別対応が必要なのはそれほど多くないと思います。また、外国ゆかりで日本語が不自由な家庭などには、丁寧なケアが必要でしょうが、これは紙のときも同様ですし、デジタル化することで翻訳などが楽になるかもしれません。

■単にデジタル化してはいけない。そもそもその文書や入力は必要か?

 さて、今回の動きは、保護者にとっても朗報だとは思いますが、気になる点もあります。ここでは3つの課題、問題を指摘しておきたいと思います。

 第一に、脱ハンコやICT活用以前に、業務や文書そのものの見直しが必要です。

 たとえば、小学校に入学するときや新学期には大量の文書を記入する必要がありますよね。氏名や住所、きょうだいの情報等を何カ所にも書いて、子どもがこれまでにかかった病気なども提出します。しかも全部手書き(泣)。「年度末や年度はじめは特に忙しい時期なのに~」という思いをした保護者も少なくないのではないでしょうか。家庭訪問や緊急時のために自宅周辺の地図を書いてくれ、という欄もうちの小学校等にはあるのですが、めんどうなので、わたしはネット地図をプリントアウトして、ちょっとメモを加えて貼り付けています。

 ですが、そもそも、住所やきょうだいなどの基本的な情報は、教育委員会も把握しているはずで、なぜ学校に再度お知らせしないといけないのでしょうか?地図もアプリを使えば、ほぼ正確な場所は把握できるはず。かかった病気や予防接種の履歴などは、就学時健診のときにも把握しているはずで、なにか特に伝えたいことがある場合などに限定できないでしょうか。

 学校評価などのアンケートも、ICTを活用して集計等を効率化する例も増えてきましたが、それだけでは不十分です。たとえば「道徳教育を通じて規範意識が高まったと思うか」とか「授業の進行スピードは適切だと思うか」とか、保護者に聞いても、多くは授業の素人ですし、授業参観のときにちょっと見ているくらいなので、よく分からないんじゃないか、つまり、保護者に聞いても意味あるのかな、と首をかしげたくなるアンケートもあります。

 デジタル化の前に(あるいはセットで)業務の見直し。これが大事です。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■学校の負担で重いのは、行政間の文書のやりとり

 第二に、今回の通知は、おもには学校と保護者のあいだのハンコや文書の効率化の話ですが、おそらく多くの学校にとって、もっと負担が重いのは、教育委員会等からひっきりなしに来る文書を読み込んだり、返信したり、調査ものへ回答したりすることです。

 もちろん、必要性の高い文書や調査は、どんどん進めてほしいです。ですが、添付ファイルを開くのにセキュリティ設定がたいへんで、開くだけで手間がかかったり、そもそも添付ファイルが何通、何ページにもわたっていて短い時間でどこに注目すればよいのかが不明だったり、なんのためにこのデータがいるのかよく分からない調査依頼が来たり、調査に回答したものの、それっきりでどう活用されたのかのフィードバックがなかったりするものも少なくないわけです。こうした教育委員会等からの文書(あるいは首長部局からのものもたくさんあります)について、業務改善を進めることが必要です。

■ハンコひとつ、国からの通知がないと進まないようではダメでしょう

 第三に、今後の動きに水を差すつもりはありませんが、本来、わざわざ文科省や行革担当大臣などから言われなくても、学校のハンコや文書のあり方などは、さっさと各教育委員会または学校で改善を進めたらよいのです。

 民間もまだまだ前例踏襲の文化、それから非効率な文書や手続きなどは残っていますので、課題もありますが、民間ならば、多くの場合、お客様に何度も同じような情報を入力させるようなアプリやサービスを続けては、やってはいけません。客に使われなくなるし、客は競合他社に逃げるからです。社長や本社から指示がないので、現場では改善しません、なんて甘っちょろいこと言っている企業等は市場から淘汰されてしまうでしょう。

 この点、とりわけ公立学校は、危機感や問題意識をもつことが薄かったのかもしれません。いったい、いつまで、国からの指示待ちなのでしょうか?なお、文科省(文科相)は各学校にとって、社長や本社ではありませんが。念のため。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

 たかがハンコやプリントの話です。されど、ということではないでしょうか。子どもたちには、主体性が大事だとか、自ら動いて問題解決等を図る力を身に付けてほしいと言っているのは、どこの誰でしたっけ?

 多くの場合、ハンコや紙での文書を文科省等が義務付けているわけではありません。ハンコの省略や連絡等のデジタル化など、身近なことは、文科省等から言われるのを待つのではなく、各学校がさっさと動いていけることです(自治体の個人情報保護などがひっかかるときがあるので、そこの障壁をクリアーするのは教育委員会の仕事)。学校や教育行政の問題解決力の腕を見せてほしいと思います。

◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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