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最短4日! コロナによる短縮夏休みをどう見るか 教育・福祉の視点から

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 例年なら、この時期から、子どもたちの夏休みが始まる地域も多いですが、今年はずいぶん様変わりしていますね。新型コロナの影響で休校(臨時休業)が2~3か月にも及んだことを受けて、夏休み(正式名称は夏季休業)を短くする動きが各地で起きています。賛否もあるこの動きを考える上で何が必要なのか、整理してみました。

■95%の自治体で夏休みを短縮!

 文科省が全国の教育委員会に尋ねた調査によると、夏休みなどの長期休業を短縮する予定があるという回答は、小中学校を所掌する教育委員会では約95%、高校を所掌する教育委員会では約93%に上りました(「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」)。

 たとえば、小学校の場合、例年なら30~40日あったところも多い夏休みですが、今年は16日や23日程度とするところも多いようです(次のグラフ)。中学校も似た分布です。仮に7月いっぱい授業をして、8月1日(土)~16日(日)まで夏季休業とすると、16日間となり、こうした例もかなり多いのでは、と推測します(この場合は8月17日からは授業ですね)。

夏休みを短縮する場合の夏休みの日数(小学校)

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※短縮する日数ではなく、短縮後の夏休みの期間を示す。学校によって異なる場合もあるが、代表的な日数を回答。数は教育委員会の回答数であり、学校数ではない。

出所)文科省「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」

 

 小中学校でみると、最短は9日。たとえば、ある市は8月8日~16日までの9日間を夏休みにしますが、土日祝日も含んでいるので、平日は4日だけです。

 高校について見ると、最短は4日という例もあります。この調査では土日を含んでカウントしているのかどうかはわかりませんが。このように、大きく短縮に舵を取る教育委員会もあり、たとえば、大阪府立高校については、例年7月21日~8月31日の42日間の夏休みを、今年は最も短い学校で8月9~16日の8日間とします(産経新聞7/18)。34日間短くなる計算です。

夏休みを短縮する場合の夏休みの日数(高校)

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出所)前掲の文科省調査

 私立学校についても短縮する動きが多いようです。ここでも最も短い例はお盆の4日間だけ(ダイヤモンド記事7/21)。その一方で、50日近く夏休みを取る学校もあります。

※(7/21 19時追記)なお、公立私立問わず、表向きは夏休み期間中であっても、補習(補講)を行うなどして、実質的には授業日と変わらないという学校もたくさんあります。こうした点にも注意しておく必要があります。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■夏休みは必要か?賛否両論

 こうした夏休みの短縮については、賛否両論あります。たとえば、熊本市では、教育委員会の会議で、白熱した議論があったようです。(1)短縮なし(2)6日間短縮(3)12日間短縮の3案を検討した結果、6日間短縮を採用し、1カ月近い夏休みを確保しました。

 熊本市では、休校中もICTの活用が進み、一定程度、授業や家庭学習が進んでいたことが影響しました(学校や家庭にもよりますが)。対照的に、全国的には、熊本市のような状況ではない地域のほうが大半です。

 今年は、同じ都道府県のなかでも、市区町村ごとにずいぶん夏休みの期間はちがっています。それだけ、短縮をめぐっては賛否、さまざまな考え方があるのだと思います。

 夏休みは必要かどうか、大幅に短縮することを是とみるか非とみるか。次の図は、いくつか視点、論点をリストアップしてみたものです。

出所)筆者作成
出所)筆者作成

 タテには、「福祉の論理」と「教育の論理」と書きました。両者は重なる部分もありますが、ひとまず、アタマの整理として、子どもや保護者の福祉を重視する視点と、教育上のことや学習に焦点をあてる視点とに分けて考えましょう。

■家庭負担が高まることをどう見るか

 まず、夏休みは短くていい(もしくは、なくてもいい)派について考察すると、家庭任せでは、子どもの健康・福祉が危ういという理由があると思います。給食のない夏休み中には痩せてしまう子がいます。新潟県立大の村山伸子教授らが2017年に発表した研究によると、「学校給食のない日は、世帯収入によって食品群や栄養素の摂取量に明らかな差がみられた」そうです(朝日新聞2019年7月26日)。

 ほかにもこの図に書いたように、子どもの福祉、安全の観点から、夏休みはマイナス影響が大きいのでないか、と考えることもできます。

 一方で、これには反論、疑問もあります。右のほう、夏休みは一定の長さあったほうがよい派について見ると、学校は保育所など福祉施設ではないのだから、家庭任せではしんどい子がいると言っても、そのために学校が丸抱えする必要があるのか、という疑問が出てきます。

 また、夏休みがある理由として、最も深刻に捉えるべきかもしれない理由は、登下校中や授業中の熱中症のリスクを避けるということ。豊田市で小学1年生が熱中症で亡くなったのは2018年7月17日。公園に校外学習に出かけたのが10時ごろでした。たとえ、教室にエアコンが設置されていても、今年は各地で熱中症リスクを抱えたままの登下校となっています。マスクをしたままの子もいて、熱中症の危険が一層高まっています。

■学校で勉強を進めたい派 VS 学校の勉強だけじゃない派

 次に、教育の論理で見ていきましょう。今回、夏休み短縮の動きが多い最大の理由が、「休校中の遅れを取り戻す」というものだと思います。加えて、休校がそれほど長引かなかった地域でも、学力向上策として、夏休みは短くして授業日を増やそうという動きがあります。

 これはこれで、一定の理解ができる話ではありますが、疑問もあります。図中、右のほうにも書きましたが、猛暑のなか授業をしても、子どもたちは大丈夫だろうか、効果はあるのだろうか、ということです。クーラーが付いた学校も増えてきましたから、ずいぶんこの心配は減っているかもしれません。ですが、コロナ対策で換気も必要ですし、もともと1カ月近くあると思っていた夏休みが1週間や2週間になって、子どもたちの学習へのモチベーションも下がっているかもしれません。これで授業を増やしても、果たして、いかほどの効果があるのか、という反論はあります。

 このあたりは、データをとって検証していかないと、水掛け論になりかねません。日本とは状況は異なりますが、次のような研究も参考になりそうです。

アメリカでのサマーバケーション(引用者注:約3か月間)における学びの損失を扱った研究群のレビューが示すことは、サマーバケーションの間に子どもたちは、就学年の1ヶ月分に相当するものを損失し、その損失は読解力(リーディング・リテラシー)よりも数学で大きく、また、学年が上がるにつれて増大する。この損失はまた、低収入家庭の子どもたちほどより大きくなる。

出典:OECD 2020年 新型コロナウイルス感染症パンデミックへの 教育における対策をガイドするフレームワーク(仮訳)

 

 子どもたちの学習が夏休みで中断されてしまうのかどうか、中段された場合、マイナス影響はいかほどなのかが問われます。ただし、かと言って、ともかく授業を詰め込めばよいという話ではない、と思います。加えて、休校中の遅れとは言いますが、大幅に夏休みを短縮せずとも、カリキュラムや授業進度を工夫すれば、大丈夫という学校もあります。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 もうひとつ、夏休みの意義、意味を考えるうえで大事なことがあります。それは、なにも子どもの学びというのは、学校にいるときだけではない、という視点です。

 ある程度の休みがあって、ヒマな時間もあったほうが、体験活動をしたり、自分の好きなことにじっくり取り組んだりできる余地は広がります。たとえば、うちの次男はマインクラフトというゲームが大好きですが、土日や夏休みを使って、多少プログラミング的なところもやっていくかもしれません。

 また、コロナの状況で不透明なところもありますが、旅に出かけて、日常とはちがった体験をするのも、子どもにとってもプラスです。

 ただし、ここでも注意が必要です。図中、左下のほうにも書きましたが、豊かな体験などができるのは、家庭の状況にもよるところもあります。結果的には、教育格差が広がってしまうかもしれません。

 さらに、夏休みは教職員にとっても研修や研鑽の大切な時間です。むげにこれを削って、授業を詰め込むと、授業の質や子どもへのケアがよくならない、という結果を招きかねません(もちろん、研修等の質も問われないといけませんが)。加えて、長くなるのでここでは簡単にしか触れませんが、教員採用上も、夏休みを大幅にカットすることはマイナスに働きかねない、とわたしは予想しています。

ぼーとする時間も大切だ。子どもにとっても、教職員にとっても。(写真素材:photo AC)
ぼーとする時間も大切だ。子どもにとっても、教職員にとっても。(写真素材:photo AC)

■短絡的に考えず、よ~く考えよう

 こうして検討していくと、夏休みの短縮にも、夏休みを長めに確保することにも、双方一長一短と言いますか、さまざまに考慮しなければならないことがある、とわかります。しかも、今回リストアップした以外の論点もあることでしょうから、一層多面的に考えていく必要がありそうです。

 「じゃあ、どっちでもいいのか」と言われると、そうではないと思います。今回は福祉の論理と教育の論理に分けて考えましたが、どちらを重視するのか、あるいは個々の論点のうち、どれに重きを置くのかによって、夏休みの設計は変わってきます。

 一例をあげると、エアコンがついていない学校が多い地域もまだあります。そこでは、いくら学習の遅れを取り戻すぞと強調しても、子どもたちの熱中症リスクを心配するほうが妥当ではないでしょうか。

 ですから、自治体などによって、判断も分かれてきて、当然と言えば当然なのです。文科省が全国一律に示すものでもありません。

 とはいえ、この記事で書いたことを含めて、教育委員会や校長をはじめとする関係者が、どこまで多面的に深く考え上で、夏休みの期間を設定したのかは、問われるところだと思います。

 わたしからみると、どうも、教育委員会等は一面的にしか見ていないのでは、と感じてしまうときがあります。「今年は授業時間確保のために、夏休み短縮しかない!」と言いつつ、熱中症対策やモチベーションの上がらない子へのケアはほとんど学校へ丸投げ。また、子どもたちに、教室ではない豊かな学びの時間を確保していく(遊びも含めて大事ですよね)という視点はとても弱い気がします。

 さらに申し上げると、一長一短あるとはいえ、できるうる対策は講じていくべきですし、夏休みとは別の政策手段も考えていくべきです。たとえば、夏休みを長めにとると、貧困家庭などは福祉上も教育上もつらい、ということであれば、そこに個別の支援策を打っていくことがおそらく必要です。放置しておいてよいというわけではありません。たとえば、食費の補助であったり、子ども食堂やフードバンクとの連携であったり、大学等と連携して学習プログラムを用意したりすることです。

 このコロナ禍は、夏休みの存在意義を問いなおす絶好の機会でもあります。夏休みは必要か、要らないか?みなさんはどう考えになりますか。

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★妹尾の記事一覧

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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