週休3日の企業も増えているのに、学校は週休1日?【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(2)】
新型コロナの影響で、授業進度を挽回するため、土曜授業を実施する例が増えています。読売新聞本年4月29日によると、都道府県、政令市、特別区の3割近くが土曜授業を実施、拡充すると回答しています。他の市町村もあわせると、もっと数は増えるでしょう。ところが、前回の記事に書いたとおり、土曜授業には法的な問題、コンプライアンス違反とも言うべき実態があります。今回の記事では、土曜授業の強行実施がもたらす、問題をさらに突っ込んで見ていきます。
前回記事はこちら:振替なき土曜授業は法令違反の可能性も【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(1)】
■児童生徒へのマイナス影響に加えて、教員の負担が重い
まずはデータを確認します。わたしが公立学校の教員向けに実施したアンケート調査では、仮に今年度、土曜授業を実施した場合に心配なことは何か、聞きました(調査の概要や注意点は前回の記事をご覧ください)。
結果は次のグラフのとおり。
この調査では、もともと問題意識のある人が回答しやすいので、いくぶん割り引いて考える必要はありますが、教員の多くの感触としては、土曜授業をやっても、児童生徒の学習意欲は落ちかねないことや、子どもたちの自由な時間が阻害される影響を心配しています。校種(小中高)ごとにも分析しましたが、大きな差はありません。
「教員の負担が増える」について「おおいにそう思う」は約85%にも上っています。振替がきちんと取れていれば、まだマシだと思いますが、そうはいかないケースもあるので、負担感は重いのだと推測します。
こんな意見もありました。
学力向上のために熱心であることをアピールしたいために土曜授業を実施するなら、それは、子どもたち本位で考えているのでしょうか?それに、教職員の健康と福祉を犠牲にして働かせては、疲労が抜けず、授業の質も落ちてきますから、結果的には子どもたちのためにも、なりません。
さらには、少数だとは推測しますが、次のような学校もあるようです。
これではパワハラですよね?
■振替がとれていても、問題は山積み。有休が犠牲になっている。
振替ができていても、安心はしていられません。次のような事案が多いからです。
平日は授業があるので、代休が取れないというわけです。次のデータは、昨年度土曜授業を実施した学校において、土曜授業のために、有休取得が減る影響はあったか、聞いたものです。「ほとんど影響はなかった」という回答が約半数ある一方で、「おおいに影響があった」、「少し影響はあった」という回答も合計で半数近くに上ります。
こうして結局、夏休み中や年末年始に振替をすることが多くなりますが、それでは2つの問題があります。
第一に、有給休暇が取得しにくくなる影響。これは先ほども述べましたね。
次のグラフの上半分は、昨年度の教員の有休取得実績を尋ねたものです。小中学校とも5日も取れるか取れないかという方が25%を超えていますし、10日以下の割合で言うと、小学校教員で約55%、中学校教員で約67%です。中学校は部活動の影響などもある話かと思います。
グラフの下半分は、2016年に文科省が実施した教員勤務実態調査という大規模調査をもとに作成しました(無回答等を除く)。有休取得実績は前年の2015年のものです。調査方法が異なりますし、一概に比較はできませんが、2015年から2019年にかけて、それほど変わってはいません。このあいだ、学校の過酷な勤務実態が問題視され、働き方改革が散々叫ばれてきましたが、相変わらず、先生たちは、有休を取得しづらい世界にいるのです。
■教職員の健康を大事にしない教育行政でいいのか?
年末年始などに振り替えをする、第二のマイナス影響は、教職員の疲労回復にはつながらないリスクです。
本来の労働基準法や給特法の趣旨に照らすなら、教職員の健康確保を進める観点から、なるべく早めに振替をとるのが原則です。ところが、前回の記事で書いたとおり、文科省自身も「冬休み中にまとめて振り替えたり、年度をまたいで振り替えたりする工夫もあるよね」と通知文(※)で述べているように、とても教職員の健康を重く考えているようには見えません。
(※)「新型コロナウイルス感染症への対応に伴い土曜授業等を実施する場合における週休日の振替等の適切な実施及び工夫例等について(通知)」
いくら新型コロナの影響で休校が続いたからといって、まともな振替も取れないまま、土曜授業を増やし、あとは現場で工夫しろ、という文科省や教育委員会の姿勢は、教職員にとても冷淡だと思います。
文科省や教育委員会の方には釈迦に説法なのですが、次の現実があります(参考文献の拙著でも、背景や影響を詳しく解説しています)。
●教員の仕事は過酷だということで、敬遠する若者等が増えている。
●教師の過労死や過労自殺にまでいたる事案が毎年のように起きていて、あとを絶たない。
●毎年5千人も精神疾患による病気休職者を出しており、その予備軍も入れると、もっと大勢の教員が精神的に病んでいる、悩んでいる。
こういう学校教育の世界で、教育行政のやっていることはちぐはぐで、危機感がまったく足りないと思います。
それでいて、教員採用試験の倍率が下がったといって、あわてふためいているわけですから、ワケがわかりません。自分たちの姿勢とやってきたことを反省するべきなのに、「倍率が下がって、教員の質が下がりかねない、心配だ」などと評論しているのは、どういう了見なのでしょうか?
■週休3日の企業も出ているのに、学校は週休1日か?
安易に土曜授業を増やすことや、夏休みを大幅に短縮する政策は、教員採用上も確実にマイナスだと思います。
企業のなかには週休3日を導入する動きも増えています。佐川急便、ヤマト運輸、ユニクロを展開するファーストリテイリング、スポーツ用品のアルペン、保育所経営のトットメイト、日本KFCホールディングス、ヤフー、日本IBM、ファミリーマートなど名だたる企業です(※)。介護や育児中の社員限定という例もありますが、土曜授業などを実施して週休1日(あるいは部活動の大会などもあると、週休0日)に邁進する学校教育は、違う世界にいる感じがします。
(※)次のサイトなどを参照。https://www.k-society.com/recruit/list_of_companies_allow_a-four-day-workweek/
こうした企業の多くは、人材獲得(採用上のメリット)のため、あるいは離職防止、リテンションのために週休3日にしたり、柔軟な勤務を選びやすくしたりしているわけです。
学校も、こうした企業とも人材獲得では競争しています。「採用試験の倍率低下が心配だ」などと愚痴るヒマがあるなら、希望者には週休3日にできるくらいの政策、環境整備を考えていくべきだと思います。
せめて、功罪を深く考えずに、土曜授業を乱発することやそれを推奨するような政策はやめるべきです。(先ほど述べた文科省通知も撤回もしくは訂正しては、いかがでしょうか?)
次のデータは、土曜授業の賛否について教員に聞いたものですが、小中高ともに、反対という声が多数です。各地域では、土曜授業の功罪に関する情報をきちんと提供したうえで、子どもたちにも聞いてみたらよいと思います。
公立、私立問わずですが、日本の学校教育の多くでは、さして、資源が潤沢なわけではありません。予算(公的な資金)はOECD調査などでは最底辺なのがニッポンです。そうしたなかで、人が最大の資源なのに、人を大事にしない経営では、未来はありません。
(参考文献)
妹尾昌俊『教師崩壊』(PHP新書)
妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)
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