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従順さばかり求める教育にNOを! 夏休み短縮、運動会・文化祭等の中止決定の前に子どもたちに任せよう

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 今月から学校が再開となったところも多いです。学校や家庭で、子どもたちの様子はどうでしょうか?笑顔いっぱいの子もいれば、浮かない表情の子もいることでしょう。長い休校で生活リズムが乱れて、朝起きるのがつらい子も多いかもしれません。

 おそらく、各地の先生方は十分よく意識されていることだと思いますが、まずは子どもたちの声に耳を傾けること、「先生、あのね・・・」と話しかけられる関係性を築くことが大事ですよね。「困ったことがあったら、職員室に来なさい」などと言っても、なかなか自分からは言えない子もいますし。授業をどんどん進めるのはもう少し後からでも挽回できます。

 さて、こうして学校再開や学級開きが進む一方で、一部の教育委員会や校長は、なんとも、子どもたち不在でいろいろ事を進めようとしています。前回の記事などにも書きましたが、運動会や体育祭、文化祭などの中止を早々に決めているところもありますし、夏休みを大幅に短縮する動きも各地にあります。

前回の記事:運動会、体育祭、文化祭などの行事の中止、本当にそれでいいのか?【学校再開後の重要課題(2)】

 おそらく多くの地域では、こうした決定の前に児童生徒の声を聴いたという形跡はほとんどありません。本当にこんなことでいいのでしょうか?

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■教育は、「従順さ」ばかりを育てているのか?

 子どもの権利条約でも、子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮することを求めています(第12条)。日本が子どもの権利条約を批准したのは1994年。25年以上経っているのに、学校や教育行政では、いまだに、子どもたちの意思や意見が尊重されているようには見えません。

 子どもの権利・法律問題に詳しい、佐藤みのり弁護士はこう話しています(強調は引用者)。

こうした声(引用者注:子どもたちの声、意見)に耳を傾けず、大人だけで物事を決めてしまうと、子どもは『どうせ自分たちが意見を言っても大人は聞いてくれない』と感じ、次第に『何を言っても無駄だ』と諦めるようになってしまいます。教育が大きく変わる可能性のある今こそ、大人が子どもの意見にしっかり耳を傾けるチャンスです。

子どもの意見をよく聞き、それを踏まえて議論し、その過程や結論を子どもに分かりやすく説明することが大切です。そうすることで、子どもは大人が真剣に向き合ってくれたと感じ、今後もあらゆる場面で、自ら考え、意見を言えるようになるでしょう。

出典:オトナンサー2020年6月6日

 茶髪禁止、スカートはひざ5cm、下着は白のみ。いわゆる「ブラック校則」などと言われることもある、合理的な理由がよくわからない校則を押しつけようとすることにも、似た問題があります。関連する著書もある荻上チキさんは、こうした校則の一番の問題はなにか、インタビューで次のように話しています(強調は引用者)。

暗黙のうちに、「年上や先生には逆らってはいけない」「和を乱してはいけない」「理不尽なルールであったとしても、それに従う方が個人の権利を主張するより重要だ」という価値観を子どもたちに伝えている。「社会のおかしなルールは変えられる」という考えを失わせ、「声を上げる人は生意気で痛いヤツ」という感覚を育ててしまう。

出典:東京新聞2019年12月30日

 「主体性のある子どもを育てる」、「自律的に学び続ける大人になっていってほしい」。こう教師たちはよく言うわけですが、まったくきれい事ではないでしょうか?「教育委員会や先生の言うことに黙って従うのが”いい子”」ではありませんよね?

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

■調査データも示す、受け身な子どもの増加

 増田修治・白梅学園大学教授が小学校教員らに実施したアンケートによると、「『よい子』を振る舞う子が増えた」と感じている小学校教員は35・4%(1998年調査)から48・5%(2019年調査)と増えていて、半数近くに上ります(朝日新聞2020年6月1日)。

 ベネッセが2016年に実施した調査によると、数年前と比べて、最近は「受け身的な児童・生徒」が増えたと感じている先生は、小中高ともに5~6割に上ります(次の図表)。「粘り強い思考力のある児童・生徒」、「知的好奇心の旺盛な児童・生徒」は減ったという回答も相当数います。

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出所)ベネッセ総合研究所「第6回学習指導基本調査 DATA BOOK」

 見方によっては、当たり前の結果です。教育行政や学校教育で、子どもたちの参加や意見表明の機会をどんどん潰して、受け身的な子どもを増やしてきたのですから。

 ところで、たいへん著名な経営学者の野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授)は、イノベーションには「知的コンバット」が必要だ、とよく述べています。ホンダのワイガヤなどが有名ですよね。トヨタ自動車も「仲良くケンカする」ということをよく言っていました。それぞれ少し意味のちがいはあるとは思いますが、感じていることや意見を臆せず、ぶつけ合うことが、革新的なものを生み出す上では大事だということかと思います。徹底的な対話と議論と言えるかもしれません。

 ところが、教育行政の職員や学校の先生たちのなかには、こうした知的コンバットなり、仲良くケンカするということが苦手な人が多いように思います。わたしの偏見かもしれませんが、出る杭は打つような職場風土があると述べる教職員はかなりいます。こうした学校で、本当に子どもたちの対話力や主体性は伸びるのでしょうか?(参考文献の拙著にも関連することを解説しています。)

■子どもたちの力はすごい。任せてみるといい。

 少し話を広げすぎたかもしれませんが、わたしが何年も感じている問題意識は、主体性や自律を学校教育の重要な価値、柱として掲げているにもかかわらず、あまりにも実際やっていることが逆行している部分もある、ということです。

 運動会や文化祭などの学校行事は、児童生徒たちが参加してつくっていくことができやすい教育活動のひとつです。先日の朝日新聞(5月31日)には、運動会・体育祭をどうするか、中学生がオンライン会議で話し合った事例が紹介されています。ある生徒は、「もし中止になっても、勝手に決められたんじゃなくて話し合った結果なら、納得できる。意見を聴いてくれてうれしい」と話しました。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 広島県のある高校では、医療従事者に感謝のメッセージを送ろうと、生徒が企画運営して、校舎のライトアップを行いました(NHKニュース6月6日)。音楽に合わせて一斉にライトアップされると、校舎全体が青く輝き、「沢山の人を救ってくれてありがとう」、「安全に生活できるのは皆さんのおかげです」とメッセージが出ました。

 別のある学校(小中一貫の義務教育学校)では、新型コロナの影響で修学旅行が延期になったことを受けて、中3にあたる生徒が修学旅行の行き先、プログラム、移動手段などを自分たちで企画中で、今度、教育長と首長にプレゼンする予定です。もちろん、旅先との調整や費用の問題もありますから、実現できるかどうかは未定ですが、企画する過程じたいが学びになっているわけですし、ピンチをチャンスに変えた例と言えると思います。

 わたし自身は、NPOの立場から、中学生と高校生らが、地域課題解決に向けて動く課外活動を3年以上サポートし伴走し続けてきました(「市ケ尾ユースプロジェクト」)。コロナ禍のなかでも、高校生や大学生(このプログラムの卒業生)がオンライン会議で交流して、意見を出し合って、企画を進めています。コロナのような感染症と地震などの大きな災害が同時に来ると大変なので、いまのうちに備えられることは何があるのか、また、コロナで元気がなくなっている、まちの魅力発信に自分たちも役立てないか、などをテーマに検討しています。

 おそらく、大人のわたしたちが想像する以上に、子どもたちの発想力や行動力はあります。ただし、意見を表明したり、ときには対立することを調整して合意形成していく練習が、前述のとおり、これまであまりなされていませんので、多少の時間はかかります。

 大人は、学校行事のことや夏休みの過ごし方などについて、子どもたち不在で勝手に決める前に、一度、子どもたちが自分たちで企画してみては、と提案したらよいと思います。

 ただし、任せるということは、放置とはちがいます。子どもたちだけでは視野が狭かったり、検討が甘かったりする部分はあるので、助言や提案が必要なときもあります。とはいえ、大人は干渉し過ぎないことが大事です。失敗やうまくいかないことも、学びのひとつなので、おおらかに構えたほうがよいと思います。

 ぜひ、多くの教育関係者が、これまでは従順さを求め過ぎてきた部分はなかったか、本当に子どもたちの主体性や自主性を育みたいなら、もっと子どもたちが自由にやれる機会や、参画することを重視するべきではないか、よく振り返ってみてほしい、と思います。

★お知らせ

小中高、特別支援学校の先生対象に、休校中の取り組みや学校再開後の課題について、把握分析するアンケート調査を実施中です。

ご関心のある方は、次の文書をご覧いただき、お手数をおかけしますが、ご協力のほどよろしくお願いします。

「with/after コロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査へのご協力の依頼」

(参考文献)

妹尾昌俊(2020)『教師崩壊』PHP新書

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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