【神戸の教員いじめ、傷害】特異な事件なのか、よくあることなのか

(写真:アフロ)

 神戸市須磨区の小学校で、20代の男性教員が同僚の教員4人から、いじめ、悪質な嫌がらせなどを受けていた事件。激辛カレーを目にこすりつけられる、新車に土足で乗られる、尻を叩かれるなどがあり、傷害事件と呼ぶべきかもしれない。また、被害にあったのは、ほかにも男性教員1人と女性教員2人がいて、昨年度、男性教員に対して「ポンコツ」を意味する「ポンチャン」と呼ぶ嫌がらせをしたほか、女性教員へのセクハラ行為もあったという。

 本件の事実の検証と関係者の処分等は、しっかり行ってほしいが、多くの方にとって気になるのは、「教員による教員へのいじめ、暴行・傷害は、よくあることなのか」ということではないだろうか。

 わたしも小学生と中学生をもつ保護者なので、うちの学校は大丈夫か、心配だ。だが、センセーショナルな事件報道をもとに、ほかの学校でも起きているのではないか、と類推するのは、危なっかしい部分もある。

 

 結論から申し上げると、わたしが調査データを確認し、小学校現場等をヒアリングしたかぎりでは、ここまでひどいことは、非常に稀である可能性が高い。だが、職場内でのハラスメントや嫌がらせは、相当数の学校で起きている

 もっとも、子どもが被害にあったいじめ調査などと違って、教員が被害にあったケースについての調査や統計は、ほとんどなされておらず、データは非常に限られる。そのため、確定的なことは申し上げられないが、以下、わたしが知る範囲で、参考となるファクト(事実、情報)を紹介しよう。

ファクト1:傷害・暴行など刑法違反を犯して懲戒処分等になっている教員は、全体の0.007%

 文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」では、懲戒処分等になった件数を毎年公表している。対象は、小、中、高、特別支援学校、義務教育学校、中等教育学校を含むが、公立学校のみである。

 公表されている直近データである平成29年度のものを見ると、傷害・暴行など刑法違反を犯して懲戒処分となった教員は66人、訓告等となったのは6人で、合計72人である(監督責任を問われた者も含む)。全国の教員数は、上記の校種で約100万人いる。(平成29年度の学校基本調査によると、990,985人。ただし国立・私立も含む。)ラフな計算だが、割り算すると、刑法違反の疑いで懲戒処分等となった教員は、全体の0.0073%である。なお、その前の年度は58人なので、もっと比率は下がる。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 この調査での傷害・暴行等のなかには、教員に対してのものと、教員以外に対してのものの両方が含まれているだろうから、神戸のような事案はさらに少ない。ただし、懲戒処分等にまでならなかったケース、あるいは、もみ消されたケースなどはこの件数に入ってこない。

※なお、件数が少ないからといって、起きたことが深刻ではない、と言いたいのではない。

ファクト2:精神疾患で休職になっている教員は毎年約5千人。上司や職場の人間関係も影響。

 次に、教員が精神的に追い詰められているケースは多々起きている。同じ文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、毎年、約5千人の先生が精神疾患で休職している。この数は、ここ10年ほど変わっていない。

 休職した人のうち、職場復帰できる人もいるが、そのまま病気休職が長引いたり、退職を余儀なくされる方もいる。平成29年度以前に精神疾患で休職した人のうち、平成30年4月1日時点で20.1%、1,023人が退職している。全国百万人いるなかとはいえ、これだけ人材難で、教員不足が問題となっているなか、約千人を毎年離職させているというのは、ご本人にとってもつらいことだし、社会としても損失と言えるだろう。

 問題は、精神疾患になる背景、要因である。ケースバイケースであるし、児童生徒とのトラブル(学級崩壊など)や保護者との関係など、さまざまなことが絡まっていることも多いのだが、なかには、神戸の事案のように(あるいは、そこまでではないかもしれないが)、職場での悪質ないじめやパワハラ等も含まれている可能性がある。

 次のデータは、九州中央病院 メンタルヘルスセンター、十川博氏の資料(中教審、学校における働き方改革特別部会、平成30年7月19日)である。九州中央病院の心療内科を受診された教員1422人について、医師が受診理由、ストレスの要因であると判断したもののリストだ。

 

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出所)十川氏発表資料(上記本文中に記載)

 複数回答可であるが、上司との関係と同僚との関係が多い。それらと比べると少なめだが、パワハラの事案もある。

 もちろん、だからといって、教員間のいじめや傷害が多いというわけではない。だが、職場での人間関係の悩みが相当深刻であり、なかには、悪質ないじめ等もあるのではないか、ということは推測できる。読者の方にもイメージいただけると思う。大病院の心療内科に行くのは、かなり悩んだ末ということが多いであろう。しかも、学校の先生の場合は、平日に欠勤すると、児童生徒は自習等になることもあって、なかなか早期に受診してくれない。(この事実は十川氏も上記の会議のときにお話されている。)

 職場の人間関係で大変苦しい、追い詰められたというケースは相当数ある、ということだろう。

 今回の神戸の事案についても、

●加害者のなかには、被害者の指導者役であった人も含まれていた。

●前年度から被害者は校長(前任)には相談していたし、別の教員からの訴えで現校長も事実を把握していたにもかかわらず、十分な手立て、ケアがなさなかった。

ということが現時点の報道では分かっている。

 今回のようなケースは、非常識で教員としての資質を疑う事件だが、指導者役教員や校長によるパワハラ等の問題は、指導する、されるというタテの関係のなかで、起きやすいのかもしれない。しかも、今回のように、本来、SOSを受けて、手をさしのべるべき校長等が助けてくれなかったとなると、被害者の心情は察してあまりある。

 加害者を糾弾する声、コメントがテレビやネットでは溢れているが、校長をはじめとする管理職の姿勢、行動、また、組織としての病理についても、診断、検証していく必要がある。そうでないと、十分な教訓にならない。

 加えて、職場での問題や事件が起きたときに、SOSを出せる先が十分になかった可能性、あるいは校長が機能しない場合の救済方法についても、考えていく必要がある。神戸市にも、人事委員会や内部通報制度で、教員からの訴え、声を拾う仕組みはあるのだが、これらは機能しえたのだろうか、反省点はないのか。また、本件にかぎらず、メンタルを病む事例が全国的にも多々あるのは、救済措置や早めの相談体制が十分ではない問題があるのではないか。

 子どもたちの健全な成長を支え、子どもたちの人生にも大きな影響のある学校現場で、精神的に追い詰められる先生たちが減るよう、ましてや悪質ないじめ、傷害が起きるということがなくなるよう、今回紹介したファクトや、調査されていない情報、声を集めて、しっかり考えていきたい。