教員志望者を増やしたいなら、やりがいを伝えようとするだけではダメだ

子どもたちの成長に関わる、魅力はあるのだが・・・(写真:アフロ)

 

 「あなたのお子さん、あるいは教え子が”学校の先生になりたい”と言ってきたとき、自信をもって、歓迎できますか?応援できますか?」

 これは、ぼくが校長や教員向けの講演をするときに、よく問いかけることのひとつだ。

 この答えに100%の自信をもってYESと答えられる校長等は、少ないのではないか?

 小学校を中心に、教員採用試験の倍率が下がってきている(地域差はあるが)。ちょうど今の時期は採用試験の真っ只中というところも多いが、各地の教育委員会とも、受験者を増やそうと躍起になっている。

 日本全国で若年人口が減少しているなか、「教員採用の倍率はもっと高いほうがよい」と考えるのもどうかなとは思うが、いったんそのことは横においておいて、仮にもっと先生を目指す若者等を増やしたいというなら、何が必要だろうか。今日はそのことについて考えたい。

■問題は、やりがいが伝わっていないことなのか?

 よく聞かれるのが、「教師の魅力をもっと伝えねば!」という施策だ。どこでもいい、教員募集用のパンフレットをご覧いただくといい。たとえば、ある自治体の直近のパンフレットでは、次のような現役教師の声を紹介している(一部を抜粋)。

●教員の最大の魅力は、子どもたちの成長に携わることができるということだと思います。

●自分が実際に小学校教員になってみて、この仕事は本当に魅力的で素敵な職業だと実感しています。もちろんたくさんの教科の授業準備などで大変なこともありますが、子どもたちの前向きに学習に取り組む姿や成長した姿を間近で見られることは、何にも代えがたい喜びです。

●教師は、「やりがいのある仕事」という一言に尽きると思います。子どもたちと過ごす日々は、驚きや発見、そして楽しさでいっぱいです。

写真素材:photo AC
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 こうした声は、ウソではないだろうし、実際、ぼくも現場の先生方から似た話はたくさん聞いている。だが、やりがいや魅力を伝えようとするだけで、大丈夫だろうか。

 新しく就任した萩生田光一文科相もこう述べている。

新文科相は、教員の採用倍率が全国的に低下傾向にあるのを受け、「学校現場が大変だという先入観を持たれてしまっている一面がある。教員になろうと志を持って、教育学部や教職課程で教員免許を取っている学生は大勢いる。教員との出会いが子供たちの人生を変えるくらい大切な、価値ある職業だという魅力を発信していきたい」と述べた。

出典:教育新聞2019年9月12日

 Twitterなどでは、学校が大変なのは「先入観ではなく、事実」といったコメントもあった。学校が忙し過ぎるという現実は、新大臣もよくご存じだと思うが・・・。それ以上に、ぼくが注目したいのは、ここでも、教師の魅力をもっと発信せねば、という考えが強いことだ。

■魅力があるのは知っている

 教員志望者向けの調査というのは、少ないようで、なかなか見つけられなかったが、現役の先生たちは、自分たちの仕事をどう捉えているかも、参考になるだろう。

 次のデータは、愛知教育大学等が2015年に、小中高の校種から各々約1,500~2,000人の教員に調査した結果だ。ほとんど全て(97、98%)の先生が、「子どもの成長にかかわることができる」と答えているし、他の項目でも、かなりの多くの人が肯定的に回答している。

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出所)愛知教育大学、北海道教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学「教員の仕事と意識に関する調査」

 教員採用試験を受ける学生等は3~4週間の教育実習を経ている。おそらく現役教員と同様に、この仕事は、子どもの成長に関わることができる魅力がある、と既に実感しているのではないか。

■日々ゆとりがない状態では、志願者は増えない

 一方で、上記の調査では、教員の悩みや不安についても聞いている。

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出所)愛知教育大学、北海道教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学「教員の仕事と意識に関する調査」

 特に注目してほしいのは、上から1番目と3番目。大勢が「授業準備の時間が足りない」、「仕事に追われて生活にゆとりがない」と回答している。

 つまり、いくらやりがいがあっても、無茶苦茶な働き方(あるいは働かせ方)で、ゆとりのない日々だ、と回答しているのである。このあたりを学生等も敏感に感じ取っているであろうことは、容易に予想できる。

 そもそも、教育実習で、幻滅するという学生の声も少なくない。やはり学校は忙し過ぎるということに、あるいは、その状況を改善する動きが鈍いということについてだ。

 ぼくが講演等でよく申し上げているのは、「働きがいがあり、かつ、働きやすい(働き続けやすい)」学校にしていこう、という話だ。

 「働きがいがある=働きやすい職場」とは限らない。仕事そのものにやりがいがあるかどうかと、たとえば、育児や介護を抱えても働き続けやすいかどうかは、別次元の話だ。

 校長や教育長、教育委員会の幹部等のなかには、これまでも猛烈な働き方をしてきた方々、あるいはハードワークな職場に慣れ親しんでいる、適応してこれた人が少なくない。そういう成功体験のある人たちは、先ほどの式がノットイコールであるということに、ピンと来にくい傾向がある。

 だから、冒頭の問い、「あなたのお子さん、あるいは教え子が”学校の先生になりたい”と言ってきたとき、自信をもって、歓迎できますか?応援できますか?」を投げかける。やりがいだけ強調してもダメだ、ということを実感しやすくなるのでは、と思う。

関連記事:【学校の働き方改革のゆくえ】教師の仕事はやりがいがあるからといって、それでよいのか?

 教員についての調査ではないが、エンジャパンが「仕事に求めること」について調査した結果、世代間で価値観や認識にかなりの差があることが分かった(8,707人が回答)。20代は、30代と40代以上に比べて、「プライベートを大切に働けること」という回答割合が高い。

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出所)エンジャパン調査「仕事に求めること」

 教員志望者になりうる若者たちについても、どうだろうか。たとえば・・・

●部活動にやりがいを感じていたとしても、土日を潰すのはイヤだ。

●いくら児童生徒の成長に関われる仕事だといっても、自分の健康が心配な職場では働きたくない。

●プライベートも充実しながら、授業等も一生懸命やりたいが、いまの学校現場は、事務作業等も多くて、授業準備に集中できる環境にない。

●いくらやりがいを強調されても、トイレに行く暇もないくらい、余裕がない日々は送りたくない。

 こういう声に答えていけるかどうかが、問われているのだと思う。

(参考)

内田良「教師への夢をあきらめた学生たち 現役教育大生のリアル 競争倍率低下時代における教育の危機」

妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』

妹尾昌俊『先生がつぶれる学校、先生がいきる学校―働き方改革とモチベーション・マネジメント』