教員採用試験の倍率低下は、本当にヤバイのか? もっと心配するべきは別のところにある

(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

■小学校の採用倍率低下は”危険水域”???

 最近たびたび、小学校教員の採用倍率の低下について、危惧する報道や有識者のコメントを目にするようになった。

 毎日新聞は(2018年度の小学校の採用試験倍率は)「就職氷河期に公務員が人気だった00年度(12・5倍)の4分の1程度に落ち込んでいる。3倍を切ると質の維持が難しくなると言われ、「危険水域」に近づいている。」と述べている(本年5月10日)。産経新聞5月22日も見出しに「小学教員の競争率、7年連続減の3・2倍 懸念される質の低下」とある。

 読売新聞(5月22日)ではこんな声も紹介している。

 

 東京では、公立小学校教員の採用試験の競争倍率は18年度の2・7倍から19年度は過去最低の1・8倍まで低下した。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)を教えるために採用された教員の大量退職などで採用者数が約530人増えたのに対し、受験者数は約400人も減ったためだ。

 都教委の担当者は「1倍台は衝撃だった。人材の質を維持するためにも3倍以上はほしい」と話す。

出典:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190522-00010000-yomonline-soci

 そのうえで、各地で教育委員会による人材の争奪戦が起きていると報じている。

 昨年の教員採用試験の結果は、教育新聞(2018年11月12日)が集計しているが、一昨年以上に採用倍率(総受験者数÷最終合格者数)が下がっている自治体も多い。小学校については、新潟県、北海道は1.2倍、福岡県1.3倍、東京都でも1.8倍など、2倍もないところもあるし、中学校でも3倍を切っているところもある。

 地域差はあるが、報道されているように、採用枠の拡大と受験者数の減少のダブルパンチで倍率は下がっているところも多いようだ。長時間過密労働のままでは、教職の人気は下がる一方だと思う。学校を、多くの人にとって働きやすい職場、魅力的な職場にしていくことには、ぼくも大賛成だ。

もうすぐ運動会という小学校も多い(写真素材はAC)
もうすぐ運動会という小学校も多い(写真素材はAC)

■なぜか、3倍を切ると危険???

 しかし、いくつかギモンもわく。

 「3倍を切ると危険」という説は、ざっと調べたかぎりでは、どうも採用担当者の経験則のようだが、何かそれなりの根拠なり、調査検証したエビデンスはあるのだろうか?(あればご教示いただきたい。)

 もちろん、感覚的にはわかりやすい話ではある。かつては10人に1人とか5人に1人選べていたのに、いまは3人に1人は(あるいは新潟県や北海道だと、5人中4人は!)選ばないといけないとしたら、“選り好み”はできなくなりそうだ

■教員養成の過半は失敗か?

 だが、教員採用試験の受験者はみな、教職免許状を保有している(または取得見込みのある)人たちである。免許制にしているということは、「この人は大丈夫ですよ」という教職の専門性へ一定のお墨付きを与えているという推定が働くはずだ。

 「3倍を切ると危険」、「3倍はほしい」という説が本当だとしたら、免許状をもつ受験者のうち、3人に2人くらいは、かなりあやしいということになる。だったら、そもそも、大学等での教員養成が1/3くらいしか成功していないということなのか。それならば、相当ヤバイ。学費も税金も時間も、多大なコストがかかっているのに!

 他業界では、たとえば、医師免許をもっている人について、3人に1人や2人はふるいに落とすというようなことはない。東大病院に勤めたいからといって、東大病院に採用してもらえるとは限らないが、医師としてはやっていける。

■本当にヤバイところは

 同時に、これまで各地の教育委員会(都道府県と政令市)の中には、正規職員の採用を抑え気味にするかわりに、非正規雇用を増やしてきたところも多い(これも地域差がある問題である)。非正規雇用というのは、正規採用の試験では落とした人を、臨時の常勤講師や非常勤講師枠で採用することを指す。

 「採用倍率が下がって質が心配」などと言うなら、こういう講師の方について、残念ながら不合格だったのだから、質は大丈夫か、もっと心配してもよさそうなものだが、非正規雇用の先生たちへの文科省や教育委員会の支援はたいへん薄い。

 正規と異なり、法的にも初任者研修があるわけではない(独自に研修をしている自治体もあるが)。かつ、常勤講師なら、仕事の種類や量としては正規とほぼ遜色ないものを任されており、学級担任や部活動指導を受けもつケースも多い。保護者や児童生徒から見れば、見分けはつかない。重い責任のある仕事をしているのに、1人分の戦力とされ、フォローは薄い。

 つまり、教育委員会等は、言っていることとやっていることがチグハグなのだ。

※だからと言って、採用倍率の低下がなにも問題はない、と言いたいわけではないが。もっと注目するべき問題もあるでしょう、ということだ。

写真素材:AC
写真素材:AC

■長時間労働と人材育成の危機の悪循環

 なおかつ、考えたいのは、育成の問題だ。

 百歩ゆずって、3倍を切るとやはり質が心配という説が真実だとしても、採用されたあと、それなりに育成されているなら、大きな問題ではないはずだ。

 むしろ、人手不足で困っている企業等から見れば、2倍でも3倍でも就職希望者が来るだけ、まだまだ恵まれている、という見方すらできる。「何を学校や教育行政は甘いことを言っているのか、この労働力不足の時代に!」と言われたら、どう答えたらよいだろう?

 それはひとまず置いておいても、いまの多くの学校は、育成も脆弱である。学校で深刻なのは、長時間労働と人材育成の二つの危機が同時に起きていることだ(下の図)。以下では、妹尾の新刊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』から一部紹介する。

出所)妹尾昌俊『「忙しいのは当たり前」への挑戦』
出所)妹尾昌俊『「忙しいのは当たり前」への挑戦』

 倍率低下の背景ともなっているが、いま全国的に教職員の世代交代が大規模に進行中だ。シニア層が退職し、20代らが増えている。地域差はあるが、たとえば、横浜市では全教員のうち約半数は経験10年以下。もちろん頼りになる若手もいるが、育成が必要な人も多い。

 しかし、育成やケアをする中核的な人材である副校長、教頭がたくさんの事務作業などに追われて、人材育成に手が回っていない。全国教頭会の調査のほか、各種アンケート等でも、副校長・教頭は、もっと人材育成に時間をかけたいと答えているが、それは、現実がそうはなっていないことの裏返しだ。全国教頭会は、国の審議会の場で、「(教頭が忙しすぎて)授業で勝負できる人材育成を現状ではできない」と訴えたほどだ(2018年5月18日の中教審・働き方改革特別部会での資料、議事録)。

 また、学年主任や教科主任らも超多忙。自身が忙しいことと、育成するべき人が多いことのダブルパンチで、職場での育成は十分機能しているとは言えない学校が増えている。

 多忙で、人材育成があまり丁寧にできないとなると、学級のなか、あるいは保護者との間でトラブルを抱える事態にもなりかねない。こうなると、教頭や主任層らはその対応(火消し)に奔走することになり、さらに多忙になる。

 しかも、問題は若手に限った話ではない。ベテラン層でも、担任を任せると必ずと言ってよいほど問題を起こすという人もいる。元小学校教諭の東和誠『問題だらけの小学校教育』(KKベストブック、2018年)では、「壊し屋」と呼ばれている教師のことなどを赤裸々に綴っている。

 これは学校に限った話ではないが、できる人には仕事を任せやすいが、そうではない人には任せづらい。トラブルになったり、後でやりなおしが発生したりして結局手間がかかるからだ。こうなると、苦手な人はその仕事を経験し、育成される機会がないままになってしまう。こうして、ますます特定の人(教頭や主任ら)の負担が増し、学校は悪循環にハマっていく。

 「養成にも、採用にも、育成にも、完璧なんて世界はどこにもない」ということも分かる。だが、倍率が下がってヤバイヤバイと騒ぐだけではダメだ。どこに真の問題があるのか、少し冷静になって考えて、真に必要な問題に対処することが必要だ。教育委員会は採用PR活動に必死なのは分かるけれども、本当に時間と予算をかけないとヤバイのは、別のところにあるのではないか。