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あなたは部活動やりすぎか、簡単にチェックする方法

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

文化部活動についてのガイドラインがもうすぐできる予定だ。文化庁での有識者会議が検討しており、ぼくも委員に入っている。丁々発止と時には意見の対立や相違もありながら、いいものにしたいと思い、議論を続けている。

ガイドラインの議論ともかかわるが、文化部でも運動部でも、部活動はどのくらいの時間がよいだろうか。

一概に言えることではないが、やりすぎかどうかを問う簡単な計算がある

例として、ある県の中学校教師の部活動指導時間(1週間)のデータは以下のとおりだ。

ある県での公立中学校教師の週当たり部活動指導時間(2016年4月調査、時間外分のみ)
ある県での公立中学校教師の週当たり部活動指導時間(2016年4月調査、時間外分のみ)

2016年の調査なので、直近はもう少しちがっているかもしれないが、ここでは例として紹介する。なお、このデータは勤務時間外のみの調査だが、単純化して以下では、時間内も含めて、この水準でやっているとみなして話を進めよう。

★ステップ1

このように、まずは典型的な1週間でよいので、だいたい何時間くらい部活動に費やしているかを把握してほしい。

※読者が教師なら、あなた自身がどのくらい時間を使っているか。生徒や保護者等なら、どのくらい練習等に行っているか。

★ステップ2

だいたいこの水準で1年間やっていると仮定すると、年間どのくらいになるか推計してみよう。

実際は、夏休み中や大会前などはもっと練習等しているだろうが、ざっくり規模感を知りたいので、単純計算する。

1年間は何週あったかな、52週と1日だ。さすがに盆と年末年始は休むと考えて(休まない部活もあるが、トホホ・・・)、

ステップ1の数字に50をかけてみよう。

たとえば、先ほどのある県の例でいうと、週20時間以上の中学校教師は約23.5%に上る。

この方たちは、20時間×50週=1000時間/年  だ。

★ステップ3

ステップ2で計算した年間時間と、あなたの学校の年間の授業時間数を比べてみよう。

中学校では、どの学年も標準的には1015単位である。(国が定めている。実績値はこれより少し上回る学校が多いが。)

ただし、これは50分授業を前提としているので、時間換算すると、1015×50/60=約845時間。

先ほどの例で言うと、週20時間以上部活動をしている教師は、年間のすべての教科を足し合わせた授業時間よりもはるかに多くの時間を(845時間プラス155時間も)部活動に使っている

ちなみに、上記のある県では、この教師の割合は約23.5%だった。国の教員勤務実態調査(2016年)をもとにラフに推計したところ、全国の中学校教師について、運動部顧問の1週間当たり部活動活動時間が20時間以上の人は約12.1%。文化部顧問では同割合は約4.3%だ。地域差もあるだろうし、部活動によっても異なるだろう。(よく知られているとおり、吹奏楽部等はハードなところも多い。)

いずれにせよ、何%かはこれほどたくさん部活動に従事しているというのは事実だ。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

★ステップ4

ステップ3の比較をもとにして、本当に今のままでよいか、考えよう。あるいは関係者のあいだで(教職員の間、学校と保護者との間で)しっかり対話しよう。

教師については、どっちが本務なのか、と問いかけるべきだろう。あなたは、部活動指導のために雇われているのではないのだ。

また、生徒から見た視点も大事だ。授業よりもはるかに多く部活のほうに従事・拘束されているというので、いいのだろうか?

ちなみに、スポーツ庁が策定した運動部についてのガイドラインでは、

  • 週当たり2日以上の休養日を設けること(少なくとも平日1日+土日1日)。
  • 1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行うこと。

と定めている。まだ確定ではないが、おそらく文化部についても同様の規定となる可能性が高い。

※関連記事

国の部活動ガイドライン、練習規制はスポ根への挑戦状 ~関係者が今から準備するべきこと~

これに従って、ステップ1~3をやってみると、週で最大11時間(2時間×4日+3時間×1日)。年間換算して約550時間である。

これでもかなり多いと見るべきかもしれない。年間授業時間の約65%相当なのだから。

なお、ガイドラインは1日2時間など目いっぱいやれ、とは言っていないし、オフシーズンも設けよと言っているので、この年間換算の時間規模よりは、少ない時間で進めるべきという前提だろうと思う。

こうして比較してみると、いかに部活動の時間が教師にとっても、生徒にとっても大きいかがわかる。

さすがに、保護者や教師のなかに、「学力向上が大事だから、授業時数を倍にせよ」と主張する人はそうそういないだろう。

だが、見方によっては、それと同じくらいのことを部活動は上乗せしているケースもあるのだ。

「だから部活はケシカラン」と短絡的にぼくは言いたいのではない。一概に多いとか、少ないとかは言えるものではない。

だが、こういう計算や比較もとらえながら、部活動のあり方、もっと言えば、学校は何をするところかを考えるべきだと思う。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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