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4月から学校の先生になるみなさんへ(その1:つぶされないために)

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

別れと出会いの季節です。

学校(ここではおもに小中高について)ではとくにそうですね。この4月から新しく先生(新米教師、初任者)になられる方もいると思います。今日はそんな方向けに、ぼくから、アドバイスというほどではありませんが、ちょっとした具体的なヒントをお届けしたいと思います。

3、4日目の新人に1人で重要顧客に行かせる企業はあるか?

新任の先生(正規職員か非正規かは問わず)のなかには、いきなり学級担任をもっている方もいると思います。それに授業はみなさんもちますよね。

少しデータを確認すると、小学校では96%が新任でも学級担任です。

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新人で担任となる割合は、中学校では58%、高校は19%です。このちがいは、教員定数という先生の数の決め方が小学校では非常に少ない算定式になっているからです。高校では教科が細分化されていますし、教員数は相対的に多いので、新人を学級担任に付けなくても回ります(副担任になるケースは多いでしょう)。これは国の制度として大きな問題をはらんでいると、ぼくは中教審(中央教育審議会)でも問題提起していますが、また別の機会に書きます。

そもそも、新人でも4月当初から学級をもったり、1人で授業をしたりするのは、学校ではごくごく”当たり前”、”常識”ですが、外部の目線から見ると、かなり”特異”、”非常識”だと思います。4月5日前後に入学式、始業式という学校はかなりあると思います。去年はもっとひどかったですが、今年も土日の関係で、入学式、始業式まで勤務日は3日程度しかありません。

企業、サラリーマンでたとえるなら、入社して2、3日したあとの新人に、いきなり重要顧客の前に1人で行かせて、プレゼンや交渉をさせるようなものです。

はっきり言って、これは”むちゃぶり”というやつでしょう。教師の場合は、教育実習をやってきている、とおっしゃいますが、実習と実際はちがいます(そもそも相手にする子どもはこの4月からが初めてですし、教師が一人で任される仕事量も実習時の比ではないでしょう)。

また、昔からこの慣例でずっとやってこれた、と言う教育委員会や校長等も多くいます。しかし、文科省の各種調査等で明らかなように、10年以上前といまでは、子どもの貧困問題、発達障がいなどで個別のケアが必要なことは増えているし、新学習指導要領で一層質の高い授業が求められていますし、状況は相当ちがってきています。

とはいえ、こうしたスケジュールは今すぐに変わるわけではなく(本当は教育委員会と校長の判断で決められるのですが)、新人のあなたにとっては、もはやどうすることもできません。ただ、「かなり無茶苦茶ななか、オレ、わたしは頑張っているんだな」という認識をもっておいてよいと思います。こう述べても・・・あまりなぐさめにはならないかもしれませんが。

こういう厳しいなかで頑張ろうとする新人の先生たち、ぼくは次の3つの具体的な行動を大切になさっては、と思います。

 (1)「ちょっと教えてください」が言えるように

 (2)とにかくメモをとれ

 (3)残念な人とは推理ゲームで対応する

出典:筆者作成

以下、説明しますね。

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(1)「ちょっと教えてください」が言えるように

先ほど述べたように、みなさんはかなり過酷でチャレンジングな職場にいます。しかも、相手は元気な子どもたちや、思春期で何かとむつかしい子たちです。普通のビジネスの現場よりも、よほど難しいでしょうね。

それで、いまのあなたは、「分からないことも分からない」状態なのかもしれません。が、「これはどうしたらいいのだろう」、「このやり方でいいのかなあ」、「この子への対応、むずかしいなあ」などとちょっとしたクエスチョンマークが付く場面はたくさん出てくると思います。

そんなとき、もちろん自分で考えることも重要ですが、ある程度考えたら、さっさと同僚、先輩に聞いてみましょう。そのほうが早いし、我流よりもよい方法が身につく確率が高いです。

幸い、あなたのいる職場は学校です。教師の職業柄、「教えてください」という言葉には弱い人は多いです。

なので、たとえ、周りの先生が忙しそうにしていても、「お忙しいところすみません、ちょっとだけいいですか?」、「~~を考えてみたんですけど、これでいいのか分からなくて・・・」などと聞いてみましょう。

3人に聞いて、3人ともからむげにされるというケースはたぶん少ないと思います(1人や2人から断られてもショックを受けないように)。

なお、指導教員(新人の指導者役)がついている場合、その人の顔をつぶすのはいけませんが、その人も常にそばにいるとは限らないし、指導教員とあなたとの相性の問題もありますから、別の先輩に聞くことも遠慮してはいけません。指導教員からなにかイヤそうな顔をされたら、「先生がとってもお忙しいようだったので、○○先生に教えてもらいました」、「△△先生が去年担当されていたと聞いたので」などと言っておけばよいでしょう。

別に、この先ずっと指導教員といるわけではないのです(公立学校の場合は異動があるので。その点私学のほうが厳しい)。遠慮や忖度よりも大事なことがあります。

自分の不得手なことや初めてのことは人の助けをかりながら進める。このことが大事なのは、みなさんの目の前の児童生徒も同じです。ググっても分からないようなことにどう向き合うかが、生きる力(むずかしげに言うと、資質、能力)のひとつでしょう。新人の先生から率先しましょう。

(2)とにかくメモをとれ

(1)とも密接に関係しています。人から教えてもらっているのに、メモをとれない新人等がいます。これは、正直、教えるほうからすると、コイツは真剣なのかと疑ってしまいます。

しかし、学校の世界では、これができない人が多い。ベテランでもそうです。ぼくは教員研修の講師をしょっちゅうしていますが、メモをとっていない先生があまりにも多いので、おいおい大丈夫かと思っていて、「そんなに記憶力いいわけじゃない方は注意してくださいね」と申し上げたことがあります。

それに、新人のみなさんも、自分が教えるほうの立場だったらと想像してみてください。熱心にメモをとっていると、なんか嬉しいじゃないですか?

(3)残念な人とは推理ゲームで対応する

新人教師や2年目の先生で、先生を辞めたいとか、メンタルが悪くなったりするケースが多々あります。ケースバイケースでいろいろな事情があります(保護者対応に苦慮したり、学級内でいじめ問題が深刻だったり)が、ひとつの背景として、指導教員や校長などから、新人が「つぶされる」ケースがかなりあります。

夢をふくらませて、教壇に立とうとするみなさんに冷や水を浴びせるようですが、これは深刻な問題であり、かつ、教育委員会や学校外の人間からは見えづらいので、よけいやっかいです。

学校は、権威主義的といいますか、立場や年齢をかなり気にする文化があるように、外部専門家のぼくのような立場からは見えます。すべての学校や校長等がそうだとは言いませんが、教育委員会やどこそこ大学の教授とかにはかなり腰が低いのに、新人には厳しい、パワハラを平気でするといった人もいます。

正直、運の要素も大きい。日本には、とてもいい校長や指導教員も非常に多いのですが、そうではない一部の人もいるのは事実です。

あなたが運悪くというケースの場合、ぜひ一人で悩まず、だれか信頼のできる人がいれば、話をしてみてください。養護教諭(保健室の先生)や学校事務職員などのなかで、真摯に悩みを聞いてくれる人もいます。多少元気なうちであれば、週末等も忙しいかもしれませんが、教員の自主サークルや勉強会に出かけると、友達や先輩(それも熱心でいい人たち)ができます。いまはネットでそういう集まりもすぐに見つかりますから便利です。

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Twitterは仮名でできますので、つぶやいてみるのもいいでしょう。それで問題が解決するわけではないのですが、あなたの悩みや困難に共感してくれる人もいるということは感じてもらえると思います。もちろん、ぼくにメッセージなどいただくのも歓迎です。

相当メンタルダウンしたときは使えない技ですが、比較的初期ならば、使えるテクニックをお教えしましょう。それは、指導教員や校長などで、困った人と接しているとき、

○広い世の中、こういう残念な人、困ったちゃんもいるんやなあ。

○どうしてこの人はこうなったんだろうな。

と心の中で考えてみることです。いいですか、心の中で、ですよ~。

ぼく自身、以前、頻繁に怒鳴り散らす上司に仕えたことがあり、相当きつかったです(楽観的なぼくでも相当メンタルやばかったですね)。そのとき、「この上司はなんでこう怒るんだろう?そうか、この職場では王様だけど、組織全体で見ると中間管理職的な部分もあるから、苦労が多いんだろうな。」とか「最近、奥さんと仲悪くてストレスたまってんのかな」などと勝手に推測することにしました。

これは、邪推や勝手な想像でいいのです。ゲームみたいなもので、推理ゲームをはじめると、ちょっとは気が楽になると思います。

ただし、こういう困った上司でも、その人に10の性格、性質があれば、8つ以上悪い点ばっかりだというのは、かなり稀ではないでしょうか。つまり、2つや3つはいいところがあるものです。特に学校の先生であれば、子どもたちと接するなかで、いろいろな修羅場をこえているわけで、何かいいところや魅力、みなさんが学べるところもあると思います。

善人、悪人と分かりやすいハリウッド映画みたいに捉える必要はないと思います。

なお、こういう残念な校長や指導教員の問題は、運、不運だけで片付けてはいけない、システムや制度の問題(校長への登用、評価のあり方など)も大きいと思いますが、これは別の機会に議論したいと思います。

どうでしょうか。少しでも参考になれば、嬉しいです。こういうことは、大学の教員養成の授業では習っているのでしょうか?

ぼくとしては、「(4)タイムイズショート。優先順位を考えて行動しよう」も紹介したいのですが、これは次回にします。読者のなかにも、同じ新人さんや後輩等向けに、なにかヒントやアドバイスがあれば、職場や研修の場でも話をし、ぼくあてにアイデアをお寄せください。ぜひ「主体的で対話的に」学び合う職員室をつくってほしいと思います。

妹尾昌俊 senoom879あっとgmail.com (あっとは@に)

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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