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卒業式マジックに気をつけろ

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

■“卒業式マジック”!?

いまの時期は、全国各地の学校で卒業式が行われている。多くの児童生徒にとっても、教師にとっても、1年で最も感慨深い1日だ。その感動に水を差すわけではないけれど、今日は”卒業式マジック”に気をつけろ、という話をする。

”卒業式マジック”とは、ある中学校の先生が教えてくれた言葉だ(市民権を得た言葉ではなく、造語のようなものだけど)。

1年間いろいろな苦労をして、さまざまな課題や改善するべきことが見えてきたとしても、お涙頂戴な卒業式を迎えると、「教師をやってきて本当によかったな」、「この1年、よかったよね~」と思える。

ある別の教師(何人も)は、「卒業式の感動があるから教師を頑張れる」、「卒業式は教師冥利につきる日」と話してくれた。

そうした感動は実にすばらしいものだ。わたしも否定しない。しかし、問題はそのあとだ。

写真素材AC photo(以下、注釈がないかぎり同じ)
写真素材AC photo(以下、注釈がないかぎり同じ)

3月には成績処理(保護者等にはほとんど知られていないが、通知表とは別に指導要録という文書に残す必要がある)があったり、様々な報告書類などもある。4月には新学年、新学期が始まり、人事異動もある。3月4月は学校がもっともバタバタする時期だ。

そのうちに卒業式以前に感じていたことの大方が、卒業式の感動と相まって、まあよかったかなと思えてきて、魔法のようにリセットされてしまう。これが”卒業式マジック”だ。

すべてがすべてこうではなく、一部には改善されていくものや引き継がれていくものもある。また、どこかで一度気持ちのリセットをすることは、疲れやストレスを引きずらないという意味ではプラスもあると思う。

しかし、学校の活動、取組として、年度ごとに多くがリセットされ、組織的な学習があまり蓄積されないというのは、実にもったいないことだ。結局、「これはなんとかならないかな」などとは思いつつ、例年通りに事の多くは進んでしまう。そして、昨年やおととし気づいていたような問題がまた起きたりする。

日本の学校でも、もう10年以上前から「PDCA(Plan Do Check Adjust)」は重要だとは言われてきた。しかし、PDCAがうまく回っているという実感は、多くの教職員がもっていないのではないか?年度ごとのリセットが大きいので、PD、PD、PD・・・またはPD、D、D・・・となっているのが実感に近いのではないだろうか?

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■近接誤差

人事評価でも、「近接誤差」に気をつけろ、ということはよく言われる。近接誤差とは、評価時点により近い期間の行動や成果のほうが、それ以前の行動や成果より印象に残り、近くに起きたことや目にしたことをより強く評価してしまう傾向を指す。

だれもが経験したことがあると思うが、人事評価面談が半年に1回あって、半年前のことはお互いにあまり覚えておらず、ついこの1、2ヶ月のことが過大評価されてしまうことがある。

学校で言うと、同じ理屈で、卒業式は特に気をつけないといけない。

■ではどうするか?

3つ提案する。

1つは、この3月のうちに、つまり、人事異動や校内の分担が4月になって変わる前に、1~2枚でいいので、自分の担当の仕事の反省点、要改善点などをメモして残しておくことだ。それを校内で情報共有して多くの人が知るところに格納しておく。

2つ目は、超忙しいこの3月4月に反省会や企画会議をじっくりやるというのはあまり現実的ではないと思う(時間をとれるならしたほうがよいが)。やはり、都度都度反省を残す、活かすということをもっと学校は大事にしたほうがよい。

たとえば、運動会などの行事であればそれが終わるたびに、振り返りをして記録を残しておく。時間がなければ、いったん手書きの書きなぐりでもよい。教科指導や進路指導であれば、夏季休業中や冬季休業中に現在進行形のところでよいので、振り返りの場をもつ。

校内研修を個々の授業研究一辺倒にせず、ここ2~3ヶ月の行事や教育活動の振り返りの場にするのもよいだろう。

都度都度反省の例は、次の写真だ。これはある小学校で、修繕してほしいものや改善してほしいアイデアを思い付いたときに付箋紙に貼ってもらっている。限られた予算を有効活用するために、多くの人のアイデアや気づきを活かそうとするちょっとした取組だ。

※もちろん、アナログな方法でなく、電子ファイルでの共有や校務支援システムなどを使う手はあるだろうが。ただ、案外、学校の先生はこういうアナログな方法のほうが書いてくれたりもする。

ある小学校の事例(筆者撮影)
ある小学校の事例(筆者撮影)

3つ目は、前例踏襲ばかりを良しとせず、何かの活動を企画、計画するたびに、次のような問い直しをしていくことだ。

●その活動(学校での各種行事や取組、ルール等を含む)はなんのためでしたっけ?なにを目指して行うものでしたっけ?

 (目的、目標、ねらいを確認する)

●その目的、目標に、その活動はつながっていますか?もっと別の活動のほうが効果的だったり、その活動はいまでは必要性が低くなっていたりはしませんか?

 (目的、目標と活動との間のつながりを確認する)

●去年、実施していて、その活動にはどんな反省点がありましたか?よいところで今年も続けるべきこと、改善が必要なことなど、何がありますか?

 (過去の反省と蓄積を確認する)

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こういう問いを検討していくと、かなりの活動が前例のそのままでは十分ではないことに気づくと思う。また、昨今話題になることが多い、働き方改革や業務改善も、こうした問い直しが第一歩となる。

卒業式当日は魔法にかかったままでもいい。しかし、いつまでもシンデレラでいないでほしい。時計の針を意識して、ちょっとした工夫と記録を残すことで、来年度はもっといい1年にしようではないか?そうすると、卒業式も一層、感無量になることだろう。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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