一石三鳥?エコフィードは日本の養豚を変えるのか

(このブタはエコフィードで飼育したブタではありません)(写真:アフロ)

■いわゆる「残飯養豚」とは違う

 エコフィードという言葉を聞いたことがあるだろうか? ecological(環境にやさしい)やeconomical(節約する)等を意味するecoと、家畜の飼料を意味するフィード(feed)を併せた造語だ。今年(2019年)5月に食品ロス削減推進法が成立したことで急激に脚光を浴びた感じがあるが、人間が食べなかった物を豚に食べさせて飼育するという養豚法は1960年代くらいまでは日本各地で行なわれていた。いわゆる「残飯養豚」と呼ばれていた飼育法である。

 エコフィードと聞くとこの残飯養豚を思い浮かべる人が少なくないかもしれない。実際にこのイメージに近い養豚法が行なわれている現状もある。現代の残飯養豚としては、コンビニ等で売れ残った弁当類や集団給食で食べ残された食品残渣を利用する飼育法がある。

「そういう養豚法もあるのですが、食品残渣は養豚飼料としては必ずしも適切であるとは限りません」というのは、エコフィードの開発・製造・販売を積極的に推進している高橋慶氏。「たとえばコンビニ弁当の売れ残り回収品などは、小さな調味料袋などを取り除く仕分け作業などにコストがかかるし、また、季節によって内容が変わるので安定した材料とはなりにくいなどの理由で、私は使いません」という。

 一時期「コンビニ弁当の売れ残りを豚に与えたら奇形の子豚が生まれた。食品添加物などの悪影響ではないか」という新聞報道があったが、そういう理由ではない。母豚は出産時期には体重をきちんとコントロールしてやらなければならない。人間用の弁当は油脂類が多い。そのため、母豚がカロリー過多になり、肥満してしまったことが原因で正常ではない子豚が生まれたのではないかと高橋さんは考えている。

 家畜用の豚には、繁殖用(子供を産ませる母豚)と肥育用(大きく育てて食用にする子豚)の2種類がある。高橋さんがエコフィードを与えるのは肥育用の子豚で、繁殖用の母豚にはエコフィードは与えないのだという。BSE以来、家畜のエサの安全性は厳しく制限されていて、高橋さんも細心の注意を払っている。

 胃が4つあるウシとは違って、胃が1つのブタの食性は割合にヒトに近く、肥育用のエサとしては、人間用の食べ物も豚のエサも基本的にはよく似ているようだ。「人間が好きな物は豚も好きだし、人間にとって安全であれば豚にとっても安全だと考えています」と高橋さん。

■こんな食品までもが豚のエサに?!

 高橋氏がエコフィードとして使うのは、主として、食品産業廃棄物。たとえば最近のエコフィードとしては次のような物がある。

・酒粕:高タンパク食であり、ウシもブタも好んで食べる。漬物(奈良漬けなど)業者の利用が減少したために余り気味。扱いが悪いとアルコール発酵の原因となるので注意が必要。

・ビール粕:高栄養で、しかも扱いやすい。

・モヤシ:昔からある定番エコフィード。豆類なので栄養価が高い。常に安定的に供給される。

・ソラマメの皮:菓子製造時の脱皮処理で発生。高食物繊維飼料としてウシ向き。

・アズキの皮:こしあん製造時に発生。消化性のいい食物繊維。

・野菜くず:惣菜類の製造時にいろいろな種類の野菜くずが発生する。粉砕してブタ用飼料に。

・ニンジンジュース粕:ジュース工場で大量に発生。

・パイナップル粕:パイナップルは通年食用にされ、かつ食べられない部分が多い果物。甘いのでブタが好む。

・カットフルーツやカット野菜のくず:日本人の生活の変化により、カット食品が増加した。それによって野菜や果物の切れ端が台所の「三角コーナー」ではなく食品工場の廃棄場所に溜まるようになった。

 まだまだたくさんあるが、ここまでは食品製造過程で半ば「必然的」に発生する食品廃棄物。ここから先は高橋さんが「心苦しくも利用させていただいている」というフードロス材料。

・グミ:そう、あの特有の食感のお菓子。均一に作るのが意外に難しく、少し大きかったり小さかったりすると「商品として嫌われる」という理由で廃棄される。カロリーが高く、ブタの出荷前に太らせるために使うと効果的。上品な(?)甘さと特有の食感がブタに好まれる。

・あめ玉:形がきれいにできなかったあめ玉が廃棄される。溶かしてリキッドフィード(液体のエサ)として飼料となる。

・バームクーヘン:この焼き菓子は両端の焦げている部分は切り捨てられる。安定的にかなりの量が食品廃棄として提供される。ただし相当に油脂類が多いので、飼料として使う場合は成分調整が必要。

・きんぴら用のニンジン:一定の長さにカッティングされなかったニンジンが廃棄される。「きんぴらのニンジンの長さを気にしている消費者がいるとは思えないのですが・・・・」とは高橋さんの弁。

・安全性検査の結果で捨てられる様々な食品:食品工場では一日に何度も「従業員の服装チェック」をするところが多い。そのときもし誰かのビニール手袋に破れが見つかったら(その破片が食品に紛れ込んでるかもしれないので)前のチェックから今のチェックまでの間に製造された食品をすべて廃棄する、ことが多い。それらがエコフィードの原料となる。

 こちらもまだまだたくさんある。

 前半で紹介した食品廃棄物は「仕方がない」といえば仕方ない。必然的に発生する食品廃棄物なので、捨てたり焼却処分したりするくらいであれば、家畜の飼料として使うほうがはるかによい。問題は後半に紹介した食品廃棄物(?)である。

 高橋さんは「エコフィードとして利用させてもらっている私がいうのもナンですが」と前置きし、「これらは消費者がもう少し寛容になれば、また、事業者が勇気を持って判断すれば『廃棄物』ではなく『食べ物』として立派に通用する物です。家畜のエサとするのではなく、人間の食べ物として利用することを考えるべきではないでしょうか。こんなことをしていては人間の食べる物がますます減ってしまう」と警鐘を鳴らす。

■エコフィードは食料自給率をも改善する可能性

 いまエコフィードは各業界から熱いまなざしをもって迎えられている。食品事業者からは「これまではお金を払って処分していた廃棄物」がタダで処分できたり、逆に多少の収入を伴って処分することができる、と大歓迎されている。

 畜産業者にとっては、事業費の3~6割を占めている飼料代が節約できれば大きなメリットだ。たとえば、年間に1億円規模の費用がかかっている事業者(中規模事業者)があり、その半分の5000万円がエサ代だとする。そのエサ代がエコフィードにすることによって半分になれば(現実的な数値だという)2500万円の利益が出る。これはもちろん小さな数字ではない。

 現在、日本の食料自給率(カロリーベース)は40%を割っている。この1つの要因として家畜の飼料(トウモロコシ等)を輸入に頼っていることが指摘されている。エコフィードの普及によって輸入飼料が減少すれば、多少なりとも食料自給率が上がることになる。農林水産省がエコフィードに力を入れるのはこれが要因だと考えられる。

 さらには、養豚の場合、食品工場から発生するエコフィードは飼料の栄養バランスやカロリー量を設計しやすいのだという。安定した量が確保できるし、中身がはっきりしているので、飼料としての加工段階で調整することが可能になる。これが食品残渣等を原料にしたエコフィードと違うメリット。

 高橋さんは、自分が考えたエコフィードが実際の養豚に役に立つかどうかを知るため、また、安全性に問題がないかどうかを確かめるため、そして何より「自分好みのおいしい豚肉」を得るために、自ら養豚業をも始めた。エサの栄養バランスを変えることによって、豚肉の味がはっきりと違うことが自分の舌で確認できたのだという。

 高橋さんは、自分の農場で自分の会社で生産したエコフィードを使って育てたブタを独自のブランドで販売を開始した。まだ量的に少なく、いくつかの飲食店に提供するまでにしか至ってないが、評判はいいという。

 そのままでは無駄になる食品を利用し、安くて安定的な飼料を確保でき、食料自給率の改善にも貢献し、おいしい豚肉の生産にも役立つ・・・・こんな一石三鳥にも四鳥にもなる可能性を秘めているエコフィード。注目していきたい。

●この原稿は2019年7月29日、東京・港区で開催された食生活ジャーナリストの会の勉強会での高橋慶氏(有限会社環境テクシス代表取締役)の講演内容を元に執筆した。