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野菜は洗えば洗うほど安全になるの?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■農薬の安全性は2つの法律で確保されている

 新型コロナの影響で、これまでは家にいなかった人(主として男性)が在宅して家事をする機会が増えたようだ。調理をしたことのない人にとっては「料理はヤヤコシイ」らしく、新たな問題も生じてきている。

 知人から次のような質問が届いた(筆者が要約)。

「夫(40歳代後半)が調理を始めました。レタスが好きで、毎回レタスのサラダを作ります。それはいいのですが、『たびたび食べると農薬が気になる』といって、国産レタスを購入し、何度も何度も洗って生野菜サラダにします。ていねいに洗わないと農薬は落ちないのでしょうか?」

 野菜や果物の農薬に関する安全性は2つの法律で守られている。1つは「作る段階での安全性」を確保するための農薬取締法。もう1つは「売る段階での安全性を確保する」ための残留農薬基準

 前者は「安全のために使ってもいい『農薬の種類と量と使用方法(使用時期等)』を、農作物ごとに定めてある」法律。この法律を守って作られた農作物は安全である。農家はこの法律を守って農作物を生産している(はず)。しかし、すべての農作物が、この法律を完全に守って作られているとは限らない。法律を熟知していない農家もあるかもしれないし、間違って理解しているケースがあるかもしれない(法律は複雑なので)。また、遠くの畑から「使ってはいけない農薬が飛来して付着する」ことがあるかもしれない。

 そういうことがあっても、食べる人の口に「安全を損なう量の農薬が入らない」ように定めてあるのが残留農薬基準。生産者がどんな作り方をしているかにかかわらず、すべての農産物に対して「どんな農薬がどのくらい残っていてもいいか」の限界値を定めてある。この基準をオーバーした農産物は、生産方法や生産地区(国)、生産者にかかわらず販売することはできない。

 逆にいうと、市販されている農産物は(生産国等にかかわらず)この両方をクリアしてあるので「毎日・一生食べ続けても(農薬に関していえば)安全」である。

■「食べる前に洗う」という習慣を身に付けよう

 前項で書いた残留農薬基準の検査に当たっては、市販される状態の農産物を細かく砕いて、農薬の種類と量を調べる(実際はもっと複雑)。検査をするとその農産物は食べられなくなるので、当然のことながら、「全農産物を検査する」わけにはいかない。必然的に抜き取り検査(サンプリング検査)になる。

 また、検査に当たっては、試料となる農産物を洗ったりはしない。皮を剥いたりもしない。つまり、残留農薬基準をクリアした農産物は、「洗う前」「皮を剥く前」の状態で、すでに安全である。冒頭の質問の答えになるが(農薬の安全性という意味では)野菜を洗う必要はないし、皮を剥く必要もない。

 逆にいうと、農薬に関しては「洗えば洗うほど安全性が高まる」ということはない。同様に「皮を剥くほうが安全性が高まる」ということもない(ジャガイモのように皮に毒を含む場合は別)。

 だからといって「調理時に農産物を洗わなくていい」ということをいっているのではない。農産物には、農薬以外に泥も付いているだろうし、微生物や細菌類が付いていることもあるので、洗うほうがいい。葉菜類などでは、細菌類は外側の葉だけではなく、内側の葉にも付着していることがあるので、1枚1枚剥がして洗うほうがいい。

 また、「食べ物を食べる前に洗う」ことは、子供への食教育としても、常識として習慣づけるべきだ。

■肉類は洗わないこと

 逆に「調理時にできるだけ洗わないほうがいい」食材もある。それは肉類。獣肉類の表面にはO-157等の食中毒菌が付着している可能性がある。これらの細菌のほとんどは「加熱で死滅する」ので、肉そのものは加熱調理することによって安全になる。ということは「肉類を生で食べてはいけない!」ということでもある。

 しかし、調理時に肉類を水洗いすると水しぶきと一緒に飛んだ細菌類が、周囲の野菜やまな板や包丁や人の手に付着する。その細菌類が、生野菜サラダなど「加熱しない料理」に付着して、食べる人の口に入ってしまい、重大な食中毒を引き起こす原因となる。

 そのため、肉類は水洗いをしないのが原則だ。肉の汁(ドロップ)や汚れが気になる場合でも、流水で洗うのではなく、キッチンペーパーなどで拭き取る。そして、そのペーパーはすぐに捨てる。生肉の危険性(安全性)については厚生労働省提供の情報を参考にしたい。

 魚には、肉類で見られるO-157などの大腸菌類が付いていることはないが、魚の内臓にはアニサキスなどの寄生虫がいることがある。そのため、内臓がある魚に関しては、できるだけ早くに内臓を除去し、流水で洗うことが必要。

 アニサキスは魚種(サバやイカ等)によっては、内臓だけではなく筋肉(食する部分)に潜んでいることがある。アニサキスは注意深く見ると肉眼で見えるので、よく観察すればいい。それが不安だったり、イヤだったりする場合には、加熱調理することを勧める。

 刺身用のサクになっているものや、加熱用の切り身になっているものは、洗う必要はない。ただし、上に書いたアニサキスの心配がゼロではないことを知っておこう。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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