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もしかしてその下痢、カンピロバクター食中毒では?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

近年、食中毒といえばノロウイルスばかり注目されるが、ノロウイルスは主として冬場の食中毒。夏場の食中毒は、やはり細菌性のものが多い。ここ数年、夏場の食中毒のトップはカンピロバクター。

鶏肉を生食することがその主たる原因。“ささ身のたたき”を好む人も多いが、止めたほうがよさそうだ。

■夏の代表的な食中毒=カンピロバクター

「食肉が原因の食中毒」として、最初に頭に浮かぶのはなんといってもBSE(ウシ海綿状脳症)だろう。

もう20年以上も前の話になるが、ウシからヒトに感染し、致死率100%という不治の病。

ウシが暴れたあげくに突然バッタリと倒れこみ、苦しみながら死んでいく様子から狂牛病と表現された、あの映像は忘れられない。

BSEは、エサの管理と特定危険部位の除去によって、感染の心配はほとんどなくなった。

次に大きな衝撃を与えたのは腸管出血性大腸菌のO-157。

子どもから高齢者まで、多くの犠牲者を出した。

これは今でも大きな問題となっており、ほぼ毎年、犠牲者が出る。

予防法としては食肉を充分に加熱してから食べること。

牛肉の生食は厳禁!(ウシの生肉を提供することは、実質上、法律で禁止されている)

ブタの肉やレバーなどの内臓は、E型肝炎ウイルス感染の危険があるし、サルモネラやカンピロバクターなどの細菌による食中毒も多いので、昔から生食は避けるようにいわれている。

ブタに関しては、一般市民にも比較的よく知られているといえよう。

ブタの肉や内臓を生食用として販売することは法律で禁止されている。

「何を食べているか」がわからない野生のイノシシやシカを生食することは、豚肉や牛肉よりもさらに食中毒のリスクが高いことは、いうまでもなかろう。

■生食用の鶏肉はほとんど流通してない、と考えよう

最後に(?)残るのが鶏肉である。

豚肉や牛肉に比べて、そのリスクが知られていないせいか、生で食べられることが少なくない。

そのために、食中毒が減らない傾向にある。

しかし、鶏肉の生食はカンピロバクター食中毒のリスクがかなり高いのだ。

2017年に発生したカンピロバクター食中毒の原因食品としては次のようなものが推定されている。【※1】

鶏レバーやささ身の串焼き

焼き鳥を含む食事

ささ身のカルパッチョ☆

鶏刺し盛り合わせ☆

鶏の生ハム・スモークチキン

鶏のお造り盛り合わせ(コース)☆

鶏胸肉のカルパッチョ(コース)☆

鶏レバー焼き 等々

(☆印は「生」で提供されたと思われる食品)

つまり、カンピロバクターによる食中毒はそのほとんどが「鶏料理」で発生している。

そしてその多くは飲食店での発生だ。

もっとも、「家庭での食中毒の発生は、よほど症状がひどくなければ届けが出されない」からということもあるのだが・・・・。

ある調査【※2】で、カンピロバクター食中毒事例における鶏肉の提供状況を見ると、約9割の事例で「生または加熱不充分な鶏肉」が提供されていたことが判明した。

さらに問題なことに、その約半分のケースで「仕入れ品(鶏肉)に『加熱用』という表示があるにもかかわらず、飲食店が加熱をしないで提供していた」ということも判明した。

客として食べる消費者は、まさか「加熱用」の鶏肉を「生」あるいは「たたき」状態で提供してあるとは思わないので、これは防ぎようがない。

しかし、現実的には、日本で流通している鶏肉で「生食用」というのはきわめて少ない。

なので、飲食店で提供される鶏肉の多くは「加熱用」だと理解するほうがよい。

つまり、加熱不充分な「ささ身のたたき」などを食べてはいけない(いけないことはないのだが、カンピロバクター食中毒のリスクが相当に高いといわざるを得ない)。

■「鮮度がいいから生食しても安全」というわけではない

なぜ、鶏肉はそれほどまでにカンピロバクター汚染率が高いのだろうか?

汚染されていることがそれほどはっきりしているのなら、消費者の手に届く前にナントカできるのではないだろうか?

ところがこれがかなり難しい。

日本の食用鶏の多くは、何万羽・何十万羽という大規模養鶏場で飼育されている。

ひな鶏は、ほぼ完璧に消毒された養鶏場に運ばれてくる。

最初のひなはカンピロバクターに感染していることはない。

養鶏場は、外部環境から完全に遮断されているわけではないので、飼育されてるうちに、おそらくは虫や水や野鳥などの影響を受けて、カンピロバクター保菌鶏となる。

ただし、鶏はカンピロバクターに感染しても、見た目や体調の変化などがないために、保菌鶏かどうかがまったくわからない。

カンピロバクターに感染してない鶏(陰性鶏)を生産するためには、膨大な経費がかかるが、それをしても経済的なメリットにつながらない(陰性鶏のほうが高い価格で取引されるということはない)ために、養鶏場から出荷される段階では、相当数の鶏がカンピロバクターに感染しているという状態になる。

さらに、カンピロバクターは、通常は鶏の腸内にいるのだが、鶏肉への加工過程(とさつ・脱羽・洗浄・カット等々)で、機械が汚染されるなどして、内臓や鶏肉へと移ると考えられる。

そのため、出荷される鶏肉のほとんどは(保菌数の多い・少ないはあるにしても)カンピロバクターに汚染されていると考えるほうがよい。

この段階ですでに汚染されてるので、食中毒のリスクと「鮮度」とは関係がない。

ときどき「うちの鶏は鮮度がいいので生で食べても大丈夫」などと宣伝する店もあるようだが、そういうわけではない。

逆に、カンピロバクターは空気(酸素)に触れると死んでいくので、鮮度のいい鶏肉ほど菌数は多いといえる(ただし、時間が経過すると、サルモネラなどが増えてくるので、鮮度の悪いほうが安全だとはいえない)。

つまり、鶏肉も豚肉や牛肉と同様に「充分に加熱して食べる」ことが、最も有効な食中毒予防法となる。

食中毒予防の観点からは、“ささ身のたたき”は食べないほうがいい。

☆このレポートは2018年7月9日に開催された報道関係者との意見交換会(主催:食品安全委員会)での取材を元に執筆した。

☆カンピロバクターに関する詳細は食品安全委員会が2018年5月8日に更新した食品健康影響評価のためのリスクプロファイルを参照のこと。

【※1】平成29年食中毒発生事例(厚生労働省)

【※2】平成30年3月薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会資料

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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