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「血液中のコレステロール値は食事では変わらない」という見解を学会が発表した。気をつけなくてもいいの?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■ヒトは植物性成分からコレステロールを作る能力を獲得した

コレステロールという言葉を聞いたことのない大人はほとんどいないだろう。しかし、正確に知っている人となると、きわめて少ないかもしれない。私も4月4日のこのコラムで一度とり上げたが、なかなか難しい概念である。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150404-00044528/

生活習慣病(とりわけ脂質異常症)の原因となるため、あまり摂取しないほうがいい「悪者」として取り上げられることが多いコレステロールだが、ここへきて少し風向きが変わってきたようだ。これまで「食べすぎないようにしましょう」といってきた日本動脈硬化学会が「健常人については食事中のコレステロールはあまり気にしなくていい」と発表したからだ。

http://www.j-athero.org/outline/cholesterol_150501.html

ここで、コレステロールについて少しおさらいをしてみよう。

コレステロールというのは(主として動物の)細胞を構成するきわめて重要な脂質成分だ。悪者どころか、コレステロールがなければ私たちは生きてゆけない。しかし、ヒト(という生物)は、つい最近まで、動物性食品をそんなに潤沢に食べることはできなかった。そのため、ヒトは、比較的手に入りやすい植物性の成分、たとえば炭水化物などを材料にして、自分の肝臓でコレステロールを作り出す能力を身につけた。

ヒトはコレステロールを含む食品を食べなくても肝臓でコレステロールを作り、血液を通じて自分の細胞に配ることができる。もちろん食品中のコレステロールも、その材料にはなるが、あまりアテにはできない(定期的に体内に入ってくるわけではないので)。

血液中のコレステロールの量が、食品として入ってくるコレステロールの量に大きく依存していたら、ヒトは細胞の材料が不十分であることが原因で、とうの昔に絶滅していたのではあるまいか。

つまり、そもそも「私たちの血液中のコレステロール量は、食品に含まれるコレステロールの量とはあまり関係がない」と考えていいだろう。この「もっともな理屈」が、今回確認され、日本動脈硬化学会もそれを認めたということになるのではないか。

■過食は血液中のコレステロール値を異常なまでに上げてしまう

ではなぜ、こんな「もっともな理屈」が、もっと早くに認められなかったのだろうか。それは私たち素人には知るよしもないが、「日本人よりもはるかに大量のコレステロールを摂取し、動脈硬化が多発していたアメリカ人」の栄養学に、日本の学会が影響を受けたというのが、その理由だろうと推察する。

ところが、最近になって(2013年)、アメリカの心臓病関係の学会が「食品中のコレステロールの摂取量を減らしても、血液中のコレステロールの低下には結びつかない(結びつくという証拠が見つからない)」ことを発表した。日本にはかなり以前から「日本人はアメリカ人とは食事内容が明らかに違う(動物性脂肪の摂取量が少ない)ので、アメリカ人のように食品中のコレステロール含量を気にする必要はない」と主張する専門家もいたのだが、日本動脈硬化学会等はその主張を「よし」とはしなかった。

しかし、ここにきて、大きな方向転換を図ったようだ。

ただし、このこと(食品中のコレステロール量を気にする必要はないこと)は、健常人にのみ当てはまるので、脂質異常症などに罹患している人は今までどおり「食品中のコレステロール量にも留意すべきだ」という食事治療方針を変えてはいない。この点を間違えないようにしなければならない。

それともう一つ、健常人も気をつけなければならないことがある。それは「血液中のコレステロール量と食事内容とは関係がない」のではない、つまり「この両者は深く関係する」ということだ。でも「食品中に含まれるコレステロール量はそれほど影響しない」のだとすると、私たちは何に気をつけるべきなのだろうか。

それは「総摂取エネルギー量(カロリー量)」である。つまり、食べすぎ! 冒頭に書いたように、ヒトは(コレステロールなどの)脂質が手に入らない状態でも、他の成分(炭水化物など)を材料にして、肝臓でコレステロールを作り出す能力に磨きをかけてきた。

しかも、コレステロールは「体にとってきわめて重要な成分」である。材料が豊富にあれば、大量にコレステロールを作り出すシステムを構築してきた。過食は、血液中のコレステロールを過剰にし、動脈硬化を促進し、心臓病や脳卒中などの致命的な疾病を招くことには変わりがないらしいのだ。

「動脈硬化を防ぐために食品中のコレステロールの摂取を控えなくてもいいらしい」という健康情報を入手したからといって、それを「何をどれだけ食べても大丈夫!」などと、自分の都合のいいように拡大解釈してはならない。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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