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専門家と消費者とでは「ガンの原因」がこんなにも異なる・・・という調査を食品安全委員会が発表

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■食品のリスク評価では最も信頼できるのが食品安全委員会

「◯◯という農薬の安全性は確認されているのか?」「牛肉の生食は本当にそんなに危険なの?」「健康のためにはトランス型脂肪酸と飽和脂肪酸はどちらに気をつけるほうがいいのか?」など、「食の安全性」について知りたいことが出てきたとき、どこに聞けばいいのだろうか? 中身の異なる情報に出くわしたとき、どの情報を信頼すればいいのだろうか?

というような疑問を持ったことはないだろうか? そんなときあなたならどうする? 私は、こと日本人の食の安全に関することであれば、まずは食品安全委員会(のホームページ=下記)にあたる。

http://www.fsc.go.jp/

昨年(平成26年度)は農薬、化学物質、微生物、遺伝子組換え食品等々、267点を「評価」した。年間を通じて一日1点以上の「評価」を発表している計算になる(休日を除くと)。いずれも簡単な事案は1つもないので、多忙を極めているに違いない。

ときどき「食品安全委員会は国の組織だから、政府や大企業に甘い」というような批判をする人もあるが、私は「それは的外れ」だと思う。内閣府直轄の組織で、大勢の専門家が、あくまでも科学的な視点と手法で「食の安全性(危険性)」を審査している。

少なくとも、「たとえ立派な施設を持ち、大きな予算を投入してはいても、ある食品企業の研究所」であったり、「消費者のような名前を冠してはいても、流通業者の研究所」であったりするところよりも、ずっと信頼がおける、と私は理解している。

■この調査は食品安全委員会がやるべきことなの?

その食品安全委員会が1週間ほど前(5月13日)、「食品に係るリスク認識アンケート調査結果について」なるものを発表した(下記)。

http://www.fsc.go.jp/osirase/risk_questionnaire.data/risk_questionnaire_20150513.pdf

見てもらえればわかるとおり、「健康への影響に気を付けるべきと考える項目」と「ガンの原因になると考える項目」の2つについて、一般消費者と食品安全の専門家とでは、どのような差が出るか、をアンケート調査で調べたものだ。

結果はとても興味深い。「健康への影響に気を付けるべきと考える項目」は、一般消費者が「病原性微生物」「農薬の残留」「食品添加物」「カビ毒」「食品容器からの溶出化学物質」「ダイオキシン類」等々を上位にあげ、食品安全の専門家のほうは「タバコ」「病原性微生物」「偏食や過食」「アレルギー」「飲酒」「輸入食品」等々を上位にあげた。大きな違いのあることがわかった。

また「ガンの原因になると考える項目」では、一般消費者が上位にあげたのは「タバコ」「食品添加物」「大気汚染・公害」「加齢」「偏食や過食」「飲酒」等々であり、食品安全の専門家のほうは「タバコ」「加齢」「飲酒」「偏食や過食」「病原性微生物」「カビ毒」等々であった。やはり大きな違いのあることが鮮明になった。

なるほど・・・といったんは感心したのだが、チョット待てよ。この結果から「健康への影響に気を付けるべきことは何か」がわかるわけではない(専門家の「答え」のほうがそれに近いのだろうが)。同様に「ガンの原因になることは何か」がわかるわけでもない(専門家の「答え」のほうがそれに近いのだろうが)。

このアンケート調査でわかることはたった1つ。それは「素人と専門家とでは違う」ということだけである。

この調査の目的に「食品に関するリスクコミュニケーションは、国民の食品安全に関する認識を踏まえて行うことが重要であることから・・・・」とある。気持ちは理解できなくもない。しかし、これは食品安全委員会がやるべき「調査」なのだろうか? 添加物や農薬の業界団体が実施し、「素人と専門家はこんなに違うんですよ。ちゃんと考えましょうね」というのならわかる(あまり品のいい調査ではないが)

食品安全委員会には、山積している「リスク評価」を淡々と科学的に実施していただきたい。その積み重ねこそが、消費者の信頼を得ることにつながり、ひいては国民の健康に寄与することになるのだ、と私は信じている。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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