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「健康な食事」とはコンビニ弁当のことだったの?--「健康な食事」が再検討になったのはなぜ?(下)--

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■いつからか「認証マーク」の会議になっていった

「私たちが健康で長生きするためにはどのような食生活をすればいいのか」を議論する「日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方検討会」(厚生労働省管轄)が、2013年(平成25年)6月から約1年かけてていねいに行われ、「健康な食事とは状態である」という、かつてない画期的な定義が提案されたことは、前回述べた。http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150409-00044673/

しかし、そのわずか2ヶ月後に開催された第8回の会議で、いきなり流れが変わった(と私には思えた)。事務局から「認証マーク」が提案された。簡単にいうと、内容的に健康な食事と認められる食べ物(基本的には弁当)には「健康な食事認証マーク」をつけることができるようにしよう、という提案である。

正直、飛び上がるほど驚いた。「健康な食事とは状態」だと言った口の先から弁当にマークをつけるとは! 委員の中には私と同様の意見を持つ人もあったであろうが、この場では表立った反対意見は出なかった。逆に流通業界の代表者たちは満足げであった(と私には感ぜられた)。

そのあとの会議は、この「認証マーク」の議論一本槍で行われたといってよい。その後のスムーズな会議の進行具合をみていると、この検討会は「最初から認証マークありき」だったのではないかと疑えるほどだ。比較的栄養バランスのとれた弁当に「健康な食事マーク」をつけることが最終目的の会議なのではなかったか・・・といぶかしがったのは私だけではあるまい。

だとしたら、当初の「健康な食事の定義」は何だったのか?!

百歩譲ると、「健康な食事」を「広く社会に定着」させるために認証マークが役に立つという論理を理解できないわけではない。しかしこの会議の具体的成果が「コンビニ弁当に健康マークをつける」になったことは、大問題だといわざるを得ないだろう。

もちろん、全委員が「認証マークありき」を前提に議論していたわけではないので、委員の中には「結果(認証マーク)だけを強調するのではなく、経過の議論を大事にしてもらいたい」という発言をした人もある(議事録には残っているだろう)。また、認証マークを付けることが決定的になった会議でも「健康な食事のマークなので、認証マークの運営は健康的に行ってもらいたい」という強烈な皮肉(私にはそう聞こえた)を放った一幕もあった。

■「結果オーライ」だからといって理不尽な方法を容認するわけにはいかない

このような経過を追いかけてきた(傍聴してきた)私としては、この検討会は「スタートは素晴らしかったが、ゴールがひどかった」と言わざるを得ない。私はコンビニの弁当に、あたかも「これさえ食べていれば健康になれます」というようなマークをつけることには反対だ。

しかしだからといって、この段階で4月からスタートするはずだったこの制度の導入が延期されたことには賛成できない。報道によると、どうやら自民党の農林族あたりから「国産農産物(露骨にいえば米だろう)の消費に悪影響が出る」と横やりが入ったらしいのだ。もちろんそれだけでは筋の通る話にはならないので、「性別、年齢、体格などが考慮されてない」「乳製品や果実の扱いが適正ではない」「健康な食事を栄養の観点からしかとらえてない」等々の意見を沿え、「議論が不足している」とダメ出しをした。

これを受け入れた本当の理由は私にはわからないが、厚生労働省は4月からの導入をとりやめて「再検討」することになった。

農水サイドからの指摘はもっとものようにも見えるが、そうとばかりはいえない。この検討会はほぼ2年前から真剣な議論を重ねてきている。もちろんそのつど情報を公開している。最終的にはパブリックコメントも募集し、それを受けて4月からの導入に踏み切ったという経過がある。

今回横やりを入れた人たちは、これまで何をしていたのか? 異議を唱えたり、資料を提出したりする機会は何度もあったはずである。それをせずに、この段階になって「差し戻し」、そして会議をやり直すことのは、税金の無駄づかいとしかいいようがない。

この制度に反対する人たちの中には(私も反対なのだが)「事情はどうあれ、再検討になったのだからヨシとしよう」と喜んでいる御仁もあるかもしれない。だが、「結果がよければ経過はどうでもよい」というわけにはいかない。これを容認すると、いずれは「結果も経過も最悪」という事態を容認せざるを得なくなるだろう。

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食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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