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英GⅠ・サセックスSに挑んだバスラットレオンの戦いを伯楽と鞍上が振り返る

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
レース直後のバスラットレオン。右が矢作調教師で中央が坂井騎手

ドバイ以来も好仕上がり

 現地時間27日、イギリスのグッドウッド競馬場でサセックスS(GⅠ、芝1マイル)が行われた。

 距離は1マイルだが、国際基準である1600メートルではなく、実寸の1609メートル。ただし、主催者側によると“約”1609メートルだそうだ。

 いかにも海外らしいアバウトさだが、過去の勝ち馬はここ10年だけを見てもフランケルやソロウ、トゥーダンホットなど名馬の名が並ぶ。そして、今年もその傾向に変わりはなく、フランス2000ギニー(GⅠ)やブリーダーズCジュベナイルターフ(GⅠ)の勝ち馬モダンゲームス、前走のジュライC(GⅠ)や昨年のサセックスS(GⅠ)などGⅠ4勝のアルコールフリー、そして、デビュー以来8戦全勝、現在GⅠを4連勝中のバーイードと、7頭立てながら素晴らしいメンバーが揃った。

 そんな強豪を相手に挑んだのが日本のバスラットレオン(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)だ。

サセックスS当日のバスラットレオン
サセックスS当日のバスラットレオン

 前走はドバイのゴドルフィンマイル(GⅡ)。逃走劇で世界中を驚かせた勝利から間は開いていたが、7月9日に行われたジュライC(7月9日)に出走したキングエルメスと共にニューマーケット入り。じっくり仕上げられて来た。

 レース2日前に現地入りした矢作は、中間の様子を生では見ていないが、次のように語った。

 「調教の動画を毎日のように送ってもらいました。1週前にはオイシン・マーフィーを乗せて気合いを入れてもらったし、良い仕上がりになっていると思います」

 レース前日には同馬も競馬場入り。当日は矢作の愛弟子の1人である坂井瑠星を背に実戦に挑んだ。坂井は言う。

 「現地にも上手な騎手が沢山いて、乗り替わりになっても不思議でない中、引き続き乗せていただける事になりました。オーナーや矢作先生には感謝しかないし、その期待に応えるためにも好結果を出すしかないと考えています」

坂井(左)と矢作の師弟コンビ
坂井(左)と矢作の師弟コンビ

 たとえバーイード相手でも「自分の競馬をするだけ」と旗幟鮮明に語ったが、レース前に馬場を歩くとそんな強い想いが一瞬グラつきそうになった。

 「アップダウンもあって厳しい馬場というのは覚悟していたけど、想像していた以上に激しい馬場です」

 しかし、パドックでバスラットレオンに跨ると、そんな不安を少し跳ね除けてくれる雰囲気を鞍下から感じた。

 「落ち着いて歩いてくれていました。馬場へ向かう馬道も細くて長いので、少しカリカリするかと思ったけど、終始リラックスしてくれていました」

当日のレース前に馬場を歩いてチェックした坂井
当日のレース前に馬場を歩いてチェックした坂井

スタートで躓くも果敢にハナへ

 こうしてスタートを迎えた。すると、スタート直後にいきなり躓いて大きくバランスを崩した。しかし、鞍上は冷静だった。

 「落馬した事もあるように、スタートで躓く癖のある馬だし、まして今回は下り坂でのスタートだったので、そうなる可能性は充分に頭に入れていました。だからすぐに立て直せました」

 すると、作戦通りハナを奪った。

 「道中の手応えは終始良かったです」

 直線はラチが大きく内へ切れ込むオープンストレッチコースだが、坂井はこの時点でパートナーを内へいざない、一旦、後続との差を広げにかかった。

 「馬場を歩いて内の方が綺麗だったので、そこへ持っていきました。レース前に矢作先生と話し合い、バーイードの瞬発力は凄いから負かすなら早めに一気に突き放しておこうと意見が一致したので、早目に仕掛けました」

 スタンドがざわめく見せ場を作った。

逃げて一度は後続を突き放したバスラットレオン(1番左)
逃げて一度は後続を突き放したバスラットレオン(1番左)

善戦。そして次なる野望へ

 しかし、次の刹那、現役最強マイラーのエンジンに火が点ると、ここまで隠していたギアが入り、一気に加速。瞬く間にバスラットレオンをかわし先頭に躍り出た。その後、モダンゲームスが2番手に上がり、ゴール寸前ではアルコールフリーにも差され、バスラットレオンは4着に敗れた。矢作は言う。

 「バーイードは強かったです。でも、2、3着とはそう差はありませんでした」

 大善戦にも、悔しそうな表情を隠す事なく、坂井は述懐する。

 「ほぼ考えていた通りに乗れました。バーイードは確かに強かったけど、3着に残せなかったのは自分の未熟さです。バスラットレオンは一所懸命に走ってくれたし、申し訳ない気持ちです」

勝ったバーイード(1番左)と4着のバスラットレオン(左から2頭目)
勝ったバーイード(1番左)と4着のバスラットレオン(左から2頭目)

 1600メートル通過時点では3番手だったが、1609メートルのゴール地点では3着馬に僅か短頭差だけ先着を許した。その3着が欧州でGⅠを4勝もしているアルコールフリーである事を考慮すれば、十二分に立派な走りではあるが、それでも坂井は唇を噛んでみせた。

 今後のバスラットレオンについて、矢作は続ける。

 「予定通り次はフランスへ渡ってジャックルマロワ賞(GⅠ)へ向かいます。叩かれて平坦コースになるのは条件的に今回よりずっと良い。期待しています」

 過去にはタイキシャトルも制した(1998年)フランス伝統のマイルの1戦は、矢作の言うようにドーヴィル競馬場の直線1600メートル、平坦馬場が舞台となる。現時点で登録馬はバスラットレオンを含めて17頭。今回先着を許したモダンゲームスの他にも錚々たるGⅠ馬がエントリーしており、やはり簡単な1戦にはなりそうにない。しかし、伯楽が語るようにバスラットレオン自身にとって条件が好転するのは間違いない。世界中でアッと言わせてきた矢作だけに、次なる1戦も期待して、応援しよう。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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