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ルメールが語るアリストテレスが3冠馬コントレイルに挑戦するための課題とは?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
AJC杯のゴール前。ゼッケン9がルメールにいざなわれ抜け出したアリストテレス

重馬場適性の問われるレースに

 1月24日、中山競馬場で行われたアメリカジョッキークラブC(G2)を制したのはアリストテレス(牡4歳、栗東・音無秀孝厩舎)だった。

 前日から降り続いた雨こそ止んだものの、たっぷりと水分を含んだ馬場は不良の発表。1番人気馬アリストテレスの手綱を取るクリストフ・ルメールは感じた。

 「今日は重い馬場への適性が大事。これがないといくら能力があってもその力を発揮出来なくなります」

 その点、パートナーにとっては「むしろ良いのでは?」とも思ったと続ける。

 「アリストテレスは菊花賞で2着しているようにスタミナの豊富な馬。乗っている限り道悪は大丈夫そうだし、中距離であまりスピード任せの競馬になるよりも時計のかかってくれる馬場は良いと思います」

 リーディングジョッキーが言うように3000メートルの菊花賞(G1)で2着。このレースで無敗の3冠馬となったコントレイルにクビ差まで迫ってみせた。今回はそれ以来の実戦ではあったが、3歳最強牡馬を苦しめた実績を買われ、1番人気に推されていた。仕上がりに関し、ルメールは言う。

 「朝の調教では少し眠い感じ(笑)。サッとすぐには動いてくれません」

 つまり仕上がり手前なのか?と思いきや、それを逆手に取るようにして乗ったと続ける。

 「レースでも速いスピードでついていく事はありませんでした。道中、耳を動かして真剣に走っていないんです。でも、手応えは良かったので、途中で動かして行きました」

「耳を動かして真剣に走っていなかった」と語る道中の様子
「耳を動かして真剣に走っていなかった」と語る道中の様子

 するとやはりスッと進出する事はなかったが、4コーナーではしっかりと前を射程圏に捉える位置でカーブした。

 「この時点で勝つ自信はありました」

 最後の直線では内でハナに立とうかというシーンを演出したステイフーリッシュをかわし先頭に躍り出た。大外を上がってきた2番人気のサトノフラッグがマクり切れずに失速し、後退するのとは対照的にヴェルトライゼンデが末脚を伸ばす。しかし、同馬はノメり気味だったのが影響したか手前が変わらない。その隙を突くようにラストドラフトも差を詰めて来たが時すでに遅し。2200メートルで2分17秒9という時計を要した1戦はアリストテレスが1番人気に応えて決着した。

AJC杯を制したのはアリストテレス。2着がヴェルトライゼンデ(ゼッケン4番)で3着がその内にいるラストドラフト(青帽)
AJC杯を制したのはアリストテレス。2着がヴェルトライゼンデ(ゼッケン4番)で3着がその内にいるラストドラフト(青帽)

コントレイルに挑戦するための課題とは?

 「有馬記念を自重して間が開いていたし、馬場も悪かったので自信はなかったけど、地力で勝ってくれました。この馬はステイヤーなので今後は春の天皇賞を目標に進めて行きたいです」

 指揮官である音無がそう言えば、ルメールは勝って兜の緒を締めよとばかりに今後の課題を交えて次のように語った。

 「この馬場状態なので直線が長く感じたけど良く頑張ってくれました。反応が少し遅い分、距離が必要という感じの馬です。今後はもうワンテンポ速い反応が出来るようになればもっと良いけど、前走を見るまでもなくG1で好勝負出来る馬なので、期待をしています」

 6レースに騎乗した今年の自身初日が未勝利に終わった際「クリストフは正月に勝てない」などと外野から声が上がったが、そんな野次を封印する3週連続の重賞勝ち。これで今年の勝ち鞍を16として早くもリーディングのトップに立ったルメールとアリストテレスが改めてコントレイルに挑戦状を叩きつけるのか……。今後の動向に刮目したい。

AJC杯パドックでのアリストテレス。馬の後ろにいるマスク姿が音無調教師
AJC杯パドックでのアリストテレス。馬の後ろにいるマスク姿が音無調教師

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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