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武豊騎手のジャパン回避は残念だが、凱旋門賞の有力馬を改めて紹介しよう

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
昨年の凱旋門賞はヴァルトガイスト(右)がエネイブルの3連覇を阻んで優勝した

激震!武豊のジャパンらオブライエン勢が取り消し

 第99回凱旋門賞(フランス、G1、パリロンシャン 競馬場、芝2400メートル)が日本時間の今晩、スタートを切る。

 コロナ禍で競走馬や関係者の国をまたいでの往来がままならない中、イギリスからは3勝目を目指すエネイブル、また日本馬ながらイギリスに長期滞在中のディアドラ(牝6歳、栗東・橋田満厩舎)も挑戦。これによりJRAでも勝ち馬投票券が発売される。よって、普段から外国馬の競馬ぶりもチェックしている身として、参考になれば、と簡単にではあるが、有力馬達の個人的な見解を記させていただこう。

昨年は残念ながら2着に終わったエネイブル。改めて史上初の3勝目を目指す
昨年は残念ながら2着に終わったエネイブル。改めて史上初の3勝目を目指す

 まず驚かされたのがアイルランドのA・オブライエン厩舎の馬が全て取り消しになった事。イギリスのレーシングポスト紙によると、同厩舎で使っていた飼料会社の飼料に禁止薬物が混入。これが検体に残れば失格となってしまうため、アイルランドの伯楽は出走予定馬全てを取り消さざるをえなくなった。これにより武豊騎手騎乗だったジャパンやダービー馬サーペンタイン、パリ大賞典を強い競馬で勝っていたモーグルといった有力馬がいなくなってしまった。帰国後の2週間の自主検疫も覚悟の上、渡仏した武豊騎手の気持ちを思うとやり切れない。

昨年はソフトライトで参戦した武豊。帰国後2週間の自主検疫も覚悟の上で渡仏したが、残念な結果となってしまった
昨年はソフトライトで参戦した武豊。帰国後2週間の自主検疫も覚悟の上で渡仏したが、残念な結果となってしまった

女王エネイブルの不安材料は?

 先述の件で4頭が回避となり、11頭の出走馬となった今年の大一番。いの一番に取り上げなくてはいけないのがエネイブル(牝6歳、英国J・ゴスデン厩舎)だろう。この馬が3年前と一昨年に凱旋門賞を連覇し、昨年も2着だった事はほとんどの競馬ファンの皆様が知っているだろう。なので改めて詳しくは記さないが、今年のここまでの臨戦過程のみ、振り返っておこう。

 昨年の凱旋門賞以来の出走となったエクリプスS(G1)はガイヤースの2着。実績から当然1番人気に推されていたが、距離やガイヤースとの臨戦過程の差などを考慮すれば、この敗戦は何ら不思議な負けではなかった。手前味噌で申し訳ないが、私も新聞紙上で◎ガイヤース、◯エネイブル、▲ジャパン、△マジックワンド、他は無印とパーフェクトな予想が出来た。そのくらい予想可能な敗戦だったわけだ。

エクリプスSは2着に敗れたエネイブルだが、久々でもあり予想出来る範疇だった。1番上段が筆者の予想
エクリプスSは2着に敗れたエネイブルだが、久々でもあり予想出来る範疇だった。1番上段が筆者の予想

 ここを叩かれたエネイブルは続いてキングジョージ6世&グリーンエリザベスS(G1)に出走。ここはソヴリンとジャパン(共に牡4歳、愛国A・オブライエン厩舎)との3頭立てという事もあり、危なげなく勝利した。

 ここで凱旋門賞前にもう1戦、当初は昨年も優勝したヨークシャーオークス(G1)に出走する見込みが大と発表された。しかし、ここにオークスを好時計で勝ったラブ(牝3歳、愛国A・オブライエン厩舎)の挑戦が決定すると、陣営は「本番前にあまり負担のかかるレースはさせたくない」と、回避を発表。新たなプレップレースとして、一昨年同様セプテンバーS(G3)を使う事になった。オールウェザーのこのレースは、オールウェザーで実績のあるプリンスオブアランこそ出走したものの、正直、相手関係はかなり楽。十両の取り組みに横綱が1人混ざったような格の差で、余裕残しの勝利。前哨戦としては正に陣営の思惑通りのレースとなった。今回、予想される道悪も実績があるだけに大きく崩れる事はなさそうだ。

 もっともパドックでは少々気の乗り過ぎる素振りを見せ、スタートも立ち遅れるなど、全く不安要素がなかったわけではない。このあたりについて、管理するJ・ゴスデン調教師が「年齢を重ねて逆に難しい面が出て来てしまった」と語っている。今回の凱旋門賞で不安があるとすればこのあたり。それと、実績に劣る6歳馬という点だろうか。

一昨年はシーオブクラス(手前、黄の勝負服)を退け連覇を達成したエネイブル
一昨年はシーオブクラス(手前、黄の勝負服)を退け連覇を達成したエネイブル

層の厚い有力馬たち

 オブライエン勢がいなくなった事で、俄然、注目したいのがラービアー。凱旋門賞と同じ舞台で行われるヴェルメイユ賞(G1)では2着。通算5戦3勝の同馬だが、負けた2戦はいずれもG1で折り合いを欠く形。とくにディアヌ賞(G1)は勝ったファンシーブルーが直後にナッソーS(G1)を勝利、コロネーションS(G1)の勝ち馬でもある2着アルパインスターは直後にジャックルマロワ賞(G1)でも2着。そして愛1000ギニー(G1)馬の3着ピースフルは続くマトロンS(G1)でファンシーブルーに先着の2着。先述したように掛かりながらもこれら3頭と馬体を並べ、勝ち馬から半馬身差でフィニッシュしたラービアーは評価出来る。スピードの乗り辛い道悪で折り合えば一発があるかもしれない。

 ストラディバリウスは長距離戦なら中心視しなくてはいけない馬。問題は実績的には2400メートルでも短いと思える点。前哨戦のフォア賞(G2)こそ勝ち馬に迫る2着と好走したが、勝ったアンソニーヴァンダイクは昨年のダービー以来、勝ち鞍のなかった馬。正直ここで負けているようでは?という気もするが、道悪でタフさの要求される競馬になれば、この馬の無尽蔵なスタミナがモノを言うかもしれない。

昨年のアスコットゴールドC(G1)を勝った直後のストラディバリウス
昨年のアスコットゴールドC(G1)を勝った直後のストラディバリウス

 昨年3着だったソットサスも軽視は禁物。フランスを代表するJ・C・ルジェ調教師の管理馬という意味では先に紹介したラービアーと同じ。同馬の主戦でもあるC・デムーロ騎手が、こちらに乗ってくる点からも注意が必要か。

ディアドラら一発を狙うダークホースたち

 他で一発大穴があるとすればペルシアンキングとゴールドトリップか。

 ペルシアンキングはG1を3勝しているがそのうち2つがマイル。2400メートルは出走自体が初めてで、普通に考えれば苦戦必至。しかし、ハイレベルなメンバー構成だった前走を着差以上の強さで勝った事と、凱旋門賞最多勝を誇るA・ファーブル調教師が送り込んで来たという点では不気味な存在だ。

 また、ゴールドトリップはスタートがあまり上手でないくせに掛かる面もあるため、なかなか勝ち切れない。実際、ジョケクラブ賞(G1)は大きく出遅れたのに道中は先頭に立とうかというシーンを演出。最後は失速したがあの競馬ぶりでは仕方ない。前走のパリ大賞典(G1)は発馬こそ決めたがやはり早目に仕掛ける形。結果、控えていた2頭に漁夫の利をさらわれる格好で3着になったが内容は決して悪くなかった。最後の最後にかわしたドイツダービー馬インスウープが今回、ある程度売れそうだが、内容的にはゴールドトリップの方が上という走りであり、実際、三走前には完勝している。それにしてはオッズ差がつきそうなので、狙うならこちらだろう。

 最後に日本馬のディアドラ。牝馬同士のナッソーS(G1)でシンガリ7着に敗れた後の参戦という事で、正直かなり厳しい状況と言わざるをえない。新コンビのJ・スペンサー騎手や、初出走となるパリロンシャン競馬場の馬場がマッチして世界の競馬ファンをアッと言わせる走りを披露してもらいたいものだ。

 大一番は日本時間今晩23時5分にゲートが開く。道悪が大きく影響しそうだが、いずれにしても好勝負が繰り広げられる事を願いたい。

昨年のナッソーS(G1)を勝った際のディアドラ。あの歓喜をこの大一番でまた見せてもらいたいものだ
昨年のナッソーS(G1)を勝った際のディアドラ。あの歓喜をこの大一番でまた見せてもらいたいものだ

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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