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有馬記念にファン投票1位で選出されたレイデオロの藤沢和雄、C・ルメール、それぞれの想い

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
レイデオロで有馬記念に臨むC・ルメール騎手(左)と藤沢和雄調教師

有馬記念1週前追い切りの手応えは?

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 「僕はレイデプラスチックだけど、馬はレイデオロです!!」

 そう言って笑みをみせたのはクリストフ・ルメールだ。

 レイデオロの“オロ”とはスペイン語の“Oro”。黄金のことだ。つまり、「僕はプラスチックみたいなものだけど、馬は黄金です!!」と、パートナーであるレイデオロのことを褒め称えたのだ。

 12月9日に香港で騎乗したルメール。帰国した足で美浦トレーニングセンターに入ると、12日の早朝、レイデオロ(牡4歳、美浦・藤沢和雄厩舎)に跨った。今週末の有馬記念に出走を予定しているダービー馬の1週前追い切りに乗ったのだ。

 天皇賞前の調教をウッドチップコースで行ったところ、脚を滑らせたため追い切りを中止。以来、ポリトラックを中心に調教をしてきたが、この日は久しぶりにウッドチップに入れて追い切った。

 「ファンタスティックコンディションです。今までで1番良い。まだもう1週あるので楽しみです!!」

 雨に濡らした顔に満面の笑みを浮かべてそう語るルメールに「本当か?!」と声をかけたのは藤沢和雄だ。

 久々にウッドチップコースに入れた理由を「本来、全天候型であるはずのポリが、雨だと今一つ良くなく感じるからね」と語る伯楽はルメールに向かい、続け様に言う。

 「リップサービスじゃないのかい? アーモンドアイより良いかい?」

 もちろんその表情にはジョッキー同様、笑みがこぼれている。

1週前追い切りを終えて上がってきたレイデオロの鞍上・ルメールに声をかける藤沢和雄
1週前追い切りを終えて上がってきたレイデオロの鞍上・ルメールに声をかける藤沢和雄

昨年のダービー馬がこの秋、復活出来た理由とは……

 この秋はオールカマーから始動した。昨年のダービー馬は今春2戦をいずれもとりこぼしていた。騎乗停止中だったため主戦が乗れずダリオ・バルジューの乗った京都記念は3着。そして海を越えて走ったドバイシーマクラシックでは4着に敗れていた。それだけにオールカマーは真価を問う1戦だった。

 「でも状態は100パーセントではありませんでした。休み明けだし、目標はまだ先。だから半信半疑な部分もありました」

 当時を述懐するルメールはそう語る。

 序盤は12秒台のラップが続き1000メートルの通過タイムは60秒5。速くない。前が有利なこの流れを、レイデオロは後方から追走した。

 4コーナーでは皐月賞馬アルアインが一歩早目に抜け出して勝つ態勢をかためにかかった。しかし、インに潜り込んだダービー馬は、ゴール前でこれをパス。万全な状態ではなく、しかも不利な態勢からの優勝は、すなわち秋の盾への約束手形。続く天皇賞を磐石の構えで制し、2つ目のG1勝利。ダービー馬は完全復活を果たした。

 「1度使われて確実に良くなっていました。スタートだけ少し不安のある馬だけど、それを決めた時点で大丈夫だと思いました。さすがフジサワ先生です」

 当時、ルメールはそう言い、藤沢は次のように返している。

 「クリストフはレースに勝った負けたというだけでなく、その後につながるように乗ってくれる。それが天皇賞制覇につながったのも間違いありません」

 布石はドバイで打たれていた。

 ドバイシーマクラシックを走ったレイデオロは道中、引っ掛かる素振りをみせたため、ルメールは後方でジッと控えさせた。序盤に関しては優勝した日本ダービーと変わらぬ位置取り。しかし、一気に先団に進出したダービーと違い、中東ではそのまま後ろで我慢させた。結果、ダービーのように勝利に導くことは出来なかったのだが、ルメールは言う。

 「ダービーはリラックスして走っていたけど、ドバイでは道中、力んだままでした。だから前へ進出することは出来ませんでした。もしダービーみたいに動かして行けばそのままアウトオブコントロール。操縦不能になって最後はバタバタになったと思います」

ドバイシーマクラシックでは4着に敗れたレイデオロ
ドバイシーマクラシックでは4着に敗れたレイデオロ

 そして、そういうレースをしてしまえばそれが後々まで響いたことだろうと続ける。

 「オールカマーも天皇賞も上手に走ってくれました。それはドバイで行きたがった時にしっかり我慢させたからだと思います。もしあの時、馬の気に任せて行っていたら、その後も行きたがる馬になってしまったと思います」

2人のホースマンに共通している姿勢

 ここで再び藤沢の言葉。

 「だからといってクリストフから『掛かるから教育してくれ』などといった注文を出されたことはありません。これはレイデオロに限ったことではない。彼の口から泣き言は出ません。それだけに、彼に乗ってもらう時は恥ずかしくない状態でバトンを渡さなければいけないと考えています」

 これを受けてルメールも返す。

 「フジサワ先生はヨーロッパの調教師よりも馬をよく知っています。厩舎のスタッフもフジサワ先生の持っているしっかりした信念、哲学を理解しているので、全て任せていて大丈夫。僕はレースで自分の仕事をするまでです!!」

互いに指示や注文は出さないと言う2人だが、トレセンでも競馬場でもディスカッションする光景はよく見られる
互いに指示や注文は出さないと言う2人だが、トレセンでも競馬場でもディスカッションする光景はよく見られる

 最後にもう1度、藤沢に現在の心境を語っていただいた。

 「シンボリクリスエス(02、03年有馬記念連覇)やゼンノロブロイ(04年有馬記念優勝)と比べてどうかって? その2頭は使いながら本当に強くなっていったけど、共にダービーは勝てなかった。それに対してレイデオロはダービーを勝っているし、クリストフに助けてもらい、この秋はダービー馬らしい走りをしてくれているからね。当然、期待は大きいですよ。あの時のオリビエ(先述3頭で有馬記念を3連覇したペリエ騎手)のように、クリストフが仕事をしてくれることでしょう」

 立場も歴史も歩んできた道や国籍も全く違う2人だが、話していて感じるのは「馬のためにはどうするのが良いか?!」を常に考えて行動している姿勢に関しては“同じ”ということ。有馬記念のファン投票で、レイデオロに投じられたのは110,293票。唯一11万を超す支持で平成最後のファン投票1位に推された昨年のダービー馬を、2人のホースマンはどうやってレースに挑ませるのか。レイデオロの走りに注目したい!

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(文中敬称略、写真提供=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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