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いよいよ今晩に迫った今年の凱旋門賞。現地フランスからの最終情報は……

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
シャンティイ競馬場で行われた昨年の凱旋門賞はデットーリ騎乗のエネイブルが優勝

果たして日本馬クリンチャーは……

 いよいよ今年も凱旋門賞が今晩に迫った。現地16時5分、日本時間23時5分に発走予定のヨーロッパ最大の一番は、2年間の改装工事を終えたパリロンシャン競馬場で行われる。

 芝2400メートルのこの1戦は今年、日本馬を含む計19頭で争われる。前哨戦は勿論、5度にわたり現地入りし、この本番前も1週間、かの地で過ごす平松さとしが最後の現地情報をお伝えしよう。

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 レース4日前の10月3日、水曜に最終追い切りを行ったのが日本からの遠征馬クリンチャー(牡4歳、栗東・宮本博厩舎)だ。

 ダートコースで長谷川万人調教師を背に単走での追い切り。見守った武豊騎手は「前哨戦は意識的に少し余裕残しだったから、今回の方がシャープに動いてくれたように見えました」と時おり笑みを見せて語った。

 凱旋門賞直前としては珍しいダートでの追い切りを敢行した理由を指揮官の宮本博は次のように言った。

 「前走は自分としては良い感じで仕上げたつもりでしたが、終わってみたら太いと言われても仕方のない結果でした。それを真摯に受け止めて、今回はぬかりのないように仕上げました。ダートで追い切ったのも出来る限り負荷をかけたかったからです」

 ジョッキー同様、陣営は誰もが「前走より良い」と語る。実際、その言葉に偽りはないだろう。もっとも、フォワ賞で大きく負けた馬が本番で巻き返した例はここしばらく出ていない。となるとクリンチャーも苦戦は必至。後は当日の予報で雨となっている天候が実際、どうなるか。予報通り雨が降ってくれて得意の道悪になる事を祈ろう。

 ちなみに前日の馬場は時計もそれなりに出ていたが、後半になるとキックバックも目立つ緩めの状態だった。とは言え凱旋門賞当日は仮柵が外されるのでよほどの雨にならない限り、極端に悪い馬場にはなりそうにない。

10月3日、最終追い切りを終えたクリンチャーに駆け寄る武豊騎手(中央)と宮本博調教師
10月3日、最終追い切りを終えたクリンチャーに駆け寄る武豊騎手(中央)と宮本博調教師

トレヴを育てた女性名トレーナーが選んだ3強は……

 「今年は上位の何頭かに平等にチャンスのある面白いレースになりそうね」

 見解を伺うと、そう口を開いたのはマダム・クリスティアーヌ・ヘッド氏。女傑トレヴで凱旋門賞2連覇を果たした事もある元調教師は、更に続けて言った。

 「エネイブルの連覇も期待出来るし、シーオブクラスが世代交代を申し渡すかもしれないわね。後はM・スタウト勢(ポエッツワードとクリスタルオーシャン)が面白いと思っていたけど、どちらも使わなくなったので、ならば地元フランス勢からアンドレ(ファーブル調教師)のヴァルトガイストかしら」

トレヴで凱旋門賞連覇を果たすなどした元調教師のマダム・クリスティアーヌ・ヘッド氏
トレヴで凱旋門賞連覇を果たすなどした元調教師のマダム・クリスティアーヌ・ヘッド氏

 エネイブル(牝4歳、英国ゴスデン厩舎)は昨年、シャンティイで行われた凱旋門賞の覇者。今春は膝を痛めて全休。大一番前にケンプトンパーク競馬場のオールウェザーで勝利してここに駒を進めてきた。

 その前走ではクリスタルオーシャンにしぶとく粘られたが最後は振り切った点をどうみるかがカギになるだろう。クリスタルオーシャンはキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでポエッツワードのクビ差2着。これを破ったのだから立派といえば立派だが、あえて重箱の隅を楊枝でほじくれば、ポエッツワードとて必ずしも絶対王者とは言えない存在。加えてゴスデン厩舎では過去にジャックホブスが休み明けのオールウェザーを勝利しながらも続く英チャンピオンSで3着に敗れた例もある。昨年勝っているのだから強い馬なのは疑いようがなく、連覇の可能性も充分。しかし、予想される圧倒的1番人気でのオッズを考えると妙味はなさそうで、倍率次第ではあえて他の馬を狙うのも手かもしれない。

昨年は見事に優勝したエネイブル。今年は異なる競馬場での凱旋門賞連覇を狙う
昨年は見事に優勝したエネイブル。今年は異なる競馬場での凱旋門賞連覇を狙う

 シーオブクラス(牝3歳、英国ハガス厩舎)は凱旋門賞馬シーザスターズの子供。現在2つのG1を含む4連勝中。3歳牝馬は55キロで出走出来る(4歳以上牡馬は59・5キロ)点は目に見えて有利。追い込み一手という脚質のため多頭数を捌けるかがポイントだが、騎乗するJ・ドイル騎手はハッキリ次のように言った。

 「追ってからの伸びは半端ではありません。斤量差もあるので追い込みに苦労する事はないと信じています」

 ちなみに同騎手は高身長のため55キロに乗る事自体、決して楽ではない。苦しい減量を乗り越えて……となる条件がどう出るだろうか。

シーオブクラスで凱旋門賞制覇を狙うJ・ドイル騎手。減量は大丈夫か?!
シーオブクラスで凱旋門賞制覇を狙うJ・ドイル騎手。減量は大丈夫か?!

 地元の雄ヴァルトガイスト(牡4歳、仏ファーブル厩舎)は毎朝のようにP・ブドー騎手が調教をつけている。前走はクリンチャーも出走したフォワ賞。本番と同じパリロンシャン競馬場の芝2400メートルに挑戦すると、道中後方から追われると一気に加速。上がり3ハロン33秒台の切れる脚で昨年のブリーダーズCターフを制したタリスマニック(牡5歳)や同凱旋門賞2着のクロスオブスターズ(牡5歳)らを置き去りにした。その2頭はそれぞれ2、3着でファーブル調教師が上位を独占してみせた。

 「元来2歳でG1を勝ったように素質は高い馬。ここに来て本格化しているし、調教の感触も引き続き良さそうです。だから今回も当然、チャンスがあると信じています」

毎朝のようにブドー騎手が跨って調教されるヴァルトガイスト
毎朝のようにブドー騎手が跨って調教されるヴァルトガイスト

伏兵勢も虎視眈々

 そのほか人気になりそうにない馬の中にも昨年のメルボルンCで見せ場充分だったティベリアン(牡6歳、仏クエティル厩舎)、同じく昨年の愛ダービーでは後にG1を勝ちまくるクラックスマンを寄せ付けなかったカプリ(牡4歳、愛オブライエン厩舎)、セントレジャーの覇者キューガーデンズ(牡4歳、愛オブライエン厩舎)ら大駆けがありそうなメンバーがいるが、最後にもう1頭、上位に食い込む可能性がありそうなのがヌフボスク(牡3歳、仏ブラント厩舎)だ。前走のニエル賞は流れが遅かったため時計も遅かったが、いわゆる“行った行った”で残った前の2頭と違い、1頭だけ後方から伸びていた。前々走のパリ大賞でもキューガーデンズとマッチレースを演じており、キューガーデンズがそこそこ穴人気になりそうならあえてこちらを狙うのも面白い。今年のフランスの3歳勢は小粒だが、覚醒して一発大穴をあける馬がいるとすればこの馬か。

クリスチャン・デムーロ騎乗の3歳馬ヌフボスク。大穴ならこの馬か……
クリスチャン・デムーロ騎乗の3歳馬ヌフボスク。大穴ならこの馬か……

 「前走は流れが向かなかったけど、今回はもっと速く流れるだろうから上位に来られるかもよ……」

 日本でもお馴染みのC・デムーロ騎手はそう言ってニヤリと笑った。

 新装なったパリロンシャン競馬場で、果たして今年はどんな名勝負が見られるのか。スタートは間もなくだ!!

2年間の工事期間を終え、黄金のスタンドへ変貌を遂げたパリロンシャン競馬場が新たな凱旋門賞の舞台となる。名勝負を期待しよう!!
2年間の工事期間を終え、黄金のスタンドへ変貌を遂げたパリロンシャン競馬場が新たな凱旋門賞の舞台となる。名勝負を期待しよう!!

(文中敬称略、写真提供=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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