ホロコースト前の東欧ユダヤ人の生活を伝える貴重な写真がデジタル化・ドキュメンタリー映画にも
1897年にロシアで生まれた写真家のローマン・ビシュニアクの生涯と撮影した写真を元にしたドキュメンタリー映画「Vishniac」が2023年に制作された。2024年1月からアメリカで公開されている。
ビシュニアクは様々な写真を撮影してきたが、代表的な作品は第二次世界大戦前の1935年から1938年にかけてポーランド、ルーマニア、チェコスロバキア、リトアニアを旅して撮影したユダヤ人らの生活の写真である。ビシュニアクが撮影したユダヤ人の多くがナチスドイツの侵攻でのユダヤ人虐殺、いわゆるホロコーストで殺害されてしまった。町やユダヤの文化も破壊されたため、ビシュニアクが撮影した写真は当時のユダヤ人の生活を伝える貴重な作品である。映画のオフィシャルトレーラーも公開されている。
▼「Vishniac」オフィシャルトレ―ラー
デジタル化され後世に伝えられるホロコースト前のユダヤ人の生活をとらえた貴重な写真
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画やテレビドラマはホロコーストの記憶を後世に伝える「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つだ。
ドキュメンタリー映画「Vishniac」の中でも、彼が撮影した当時のユダヤ人の日常生活をとらえた貴重な写真がデジタル化されて伝えられている。80年以上前の当時は現在のようにスマホで誰もが簡単に写真を撮影してすぐにネットにアップして誰にでも共有するようなことはできなかった。カメラを持っているのはほとんどがプロの写真家で、個人でカメラを所有している人もほとんどいなかった。撮影されるのも結婚式など家族が集まった時や記念日、学校での集合写真などがほとんどで、日常の風景などを撮影した写真はほとんど残っていない。特に戦前のユダヤ人らの写真はほとんどがナチスドイツによって焼却されてしまったので残っているのは非常に少ない。強制収容所に移送されたユダヤ人の多くが思い出として家族や友人らとの幸せな時代の写真を強制収容所まで持って行ったが、ナチスにとっては一番不要なものなので、多くが焼却されてしまった。ビシュニアクが撮影した戦前のホロコースト前のユダヤ人の生活を伝える貴重な写真はデジタル化されて現在でも世界中から閲覧することができる。当時の写真も「ホロコーストの記憶のデジタル化」の重要なツールの1つだ。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのはデジタル化された映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって映画やドラマだけでなく当時の写真の果たす役割は大きい。
ビシュニアクが撮影した当時のユダヤ人の生活の写真はスピルバーグの映画「シンドラーのリスト」でも参考にされて作品の中に取り入れられている。
▼映画を伝えるアメリカの報道
© 2024 Katahdin Productions and Bialystok & Bloom Films, LLC. All Photos © Gift of Mara Vishniac Kohn, The Magnes Collection of Jewish Art and Life, University of California, Berkeley