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ホロコースト時代の実話を元にした小説「アウシュヴィッツのタトゥー係」テレビドラマ化

佐藤仁学術研究員・著述家
(Peacock提供)

2024年5月からホロコースト時代の実話を元にした小説「アウシュヴィッツのタトゥー係」(原題は「The Tattooist of Auschwitz」)が英国やオーストラリアなどでテレビドラマとして放映される。

アウシュヴィッツのタトゥー係」(ヘザー・モリス著、金原瑞人・笹山裕子訳、双葉社、2019年)は日本でも出版されている。日本での放映の予定はない。

同著はタイトルの通り、第2次世界大戦時にナチスドイツが支配したポーランドに設置されたアウシュビッツ絶滅収容所でアウシュビッツに到着したばかりのユダヤ人やロマ(ジプシー)らで労働力として収容所で働けることができると判定された人たちに、囚人番号の入れ墨(タトゥー)を腕にしていたユダヤ人らを描いた実話に基づいた小説である。同著の主人公であるスロバキア出身のユダヤ人のラリとギタはホロコーストを生き抜いて戦後2000年代まで生きている。戦後の彼らの平和な時代の写真も同著の最後の方に掲載されている。

▼「The Tattooist of Auschwitz」オフィシャルトレ―ラー

ホロコーストの記憶のデジタル化としての貴重な作品のドラマ化

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画やテレビドラマはホロコーストの記憶を後世に伝える「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つだ。

デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画やドラマの視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画やドラマをよく観るという大人も多い。また小説や本として読むのは大変だが映画やドラマなら見てみようという人も多い。

「The Tattooist of Auschwitz」は実際のタトゥー係だったユダヤ人の証言を元に小説化したもので、テレビドラマ化される同作品も「ホロコーストの記憶のデジタル化」としてアウシュビッツ絶滅収容所に到着した囚人らの様子を描いた貴重なドラマ作品である。

ホロコースト映画は1回で約2時間で映画館に入ってしまったら基本的には最後まで見ないといけない。またネットで見ていても時間内に完結する。だがテレビドラマは1回で終わらないので2回目、3回目と続いていく。人によっては嫌になってもう途中で見なくなってしまう人も多いので最終回まで視聴してもらうための工夫が必要である。「The Tattooist of Auschwitz」も全6回放送である。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのはデジタル化された映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって映画やドラマの果たす役割は大きい。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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