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ホロコースト国際記念日に国連事務総長「ネット上で反ユダヤ主義が周縁から主流のコンテンツに」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。1945年1月27日は旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日であり、国際ホロコースト記念日に制定されている。

国際ホロコースト記念日に際して、国連のアントニオ・グテーレス国連事務総長が動画メッセージで犠牲者を追悼していた。その中で国連事務総長は、近年のインターネット上での反ユダヤ主義や民族憎悪の拡散について、「私たちは国際ホロコースト記念日の追悼にあたって、現代でも恐ろしい反ユダヤ主義への共感が起きています。ホロコーストを後押しした反ユダヤ主義的なユダヤ人憎悪は、ナチスから始まったものでもなく、ナチスの敗北によって終わっていません。現代でも反ユダヤ主義と民族憎悪は、憂慮すべき速度で拡散されています。特にオンライン上では、反ユダヤ主義や民族憎悪は、周縁から主流になっています。このことを忘れてはいけません」と訴えていた。

国連事務総長が語っていたようにSNSやオンラインでは反ユダヤ主義が一部の人だけが発信している「周縁的なコンテンツ」ではなくて、多くの人に拡散されている「主流なコンテンツ」になっている。特に2023年10月7日にテロリスト集団ハマスがイスラエルを襲撃したことにイスラエルが反撃してから、反ユダヤ主義やホロコースト否定、民族憎悪がSNSやYouTubeで大量に拡散されている。

日本にはユダヤ人が多くないので、日本語での反ユダヤ主義の投稿を目にすることはあまりない。だが欧米や中東諸国などでは反ユダヤ主義、ホロコースト否定に関する書き込みや発信がSNSなどで多く見られる。さらにSNSでは、あっという間に情報が拡散されるし、エコーチェンバーの影響で、反ユダヤ主義的な投稿をするフォロワーがいて、投稿を見た人には反ユダヤ主義の投稿がタイムラインに流れやすくなっている。

インプレッション・再生回数増を狙った反ユダヤ主義情報の発信

過激で刺激的な偽情報やフェイクニュース、反ユダヤ主義のような特定民族を侮蔑するような内容ほどSNSでは、多くの人が事実確認もしないで、面白がって興味本位と他人に伝えたいという欲求で拡散してしまう。そのような反ユダヤ主義やヘイトの投稿を自身のSNSのタイムラインで次々と目にすると、いつの間にか「イスラエルが一方的に悪い」といった反ユダヤ主義的な思想になってしまうこともある。

過激で刺激的な偽情報、陰謀論、フェイクニュースは拡散されやすいため、インプレッション数が上がったり、再生回数が増えたりするので発信者の収益につながる。つまり、ネット上で反ユダヤ主義の発言を積極的にしている人の中には、実は反ユダヤ主義的な思想を持っていなかったとしても、反ユダヤ主義やホロコースト否定に関する過激な内容の発信が収入につながるのでやめられないという人もいる。

そのため国連事務総長が懸念するように反ユダヤ主義や民族憎悪のコンテンツがSNSなどオンライン上で周縁から主流になってきている。多くのSNSではホロコースト否定や民族憎悪に関する投稿は禁止されており、投稿が発覚すると削除されたり、特定のワードを使用して配信すると収益化の対象から外される。だが、反ユダヤ主義や民族憎悪、ホロコースト否定の投稿や配信は機械的には発覚しにくいような隠語や仲間内でしかわからない言葉で書かれたり、発信されるものが多く、発覚しにくく削除されないものも多い。

▼ホロコースト記念日でのアントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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