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ホロコースト国際記念日にイスラエル大使館「反ユダヤ主義はデジタル空間でも増大」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

SNSで拡散されている反ユダヤ主義

第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。1945年1月27日は旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日であり、国際ホロコースト記念日に制定されている。毎年ホロコーストの犠牲者を追悼したイベントが世界中のホロコースト博物館や収容所跡地などで1月27日の国際ホロコースト記念日に開催されている。

日本のイスラエル大使館が国際ホロコースト記念日の2024年1月27日にホロコースト犠牲者を追悼してX(旧ツイッター)に投稿していた。その中で2023年10月の武装集団ハマスのイスラエル侵略に触れて、以下のように述べていた。

10月7日は、私たちを一瞬あの暗い時代、ユダヤ人に対する殴打、殺害、標的化が常態化し、さらには容認されていた時代に引き戻しました。
テロ組織ハマスが自宅で生きたまま家族全員を焼き殺したとき、ユダヤ人女性に対する性暴力が起こったとき、私たちの苦しみに対する無関心は、79年前に世界が目をそむけたのと同じ無関心でした。
近年、反ユダヤ主義は言論や行動、デジタル空間でも増大しています。過去のホロコーストが伝える重要なメッセージの一つは、そのような行為がどれほど深刻な結果をもたらすかということです。(イスラエル大使館Xより)

ホロコーストも最初は言葉によるユダヤ人の差別から

イスラエル大使館が伝えているように現在でも、X(ツイッター)やインスタグラム、TikTok、Facebook、YouTubeといったSNS、いわゆる「デジタル空間」では反ユダヤ主義の投稿が非常に多い。日本にはユダヤ人が多くないので、日本語での反ユダヤ主義の投稿を目にすることはあまりない。だが欧米や中東諸国などでは反ユダヤ主義の投稿がデジタル空間には溢れている。そしてSNSでは、あっという間に情報が拡散されるし、エコーチェンバーの影響で、反ユダヤ主義的な投稿をするフォロワーがいて、投稿を見た人には反ユダヤ主義の投稿がタイムラインに流れやすくなっている。過激で刺激的な偽情報やフェイクニュース、反ユダヤ主義のような特定民族を侮蔑するような内容ほどSNSでは、多くの人が事実確認もしないで、面白がって興味本位と他人に伝えたいという欲求で拡散してしまう。そのような反ユダヤ主義の投稿を自身のSNSのタイムラインで次々と目にすると、いつの間にか「イスラエルが一方的に悪い」といった反ユダヤ主義的な思想になってしまうこともある。

イスラエル大使館がSNSでホロコースト時代のことを例に出して武装集団ハマスによるユダヤ人への暴虐と、それに対する世界の無関心を危惧していた。それでもホロコーストが起きた1930年代から1940年代に比べると現在ではSNSであっという間に情報が世界中に拡散されるので、訴え続ければ関心を引き付けることはできる。だが、それ以上にフェイクニュースや誤情報も多く、何が正しいのか判断することも難しい情報も多い。

イスラエル大使館は「過去のホロコーストが伝える重要なメッセージの一つは、そのような行為がどれほど深刻な結果をもたらすかということです」と伝えているが、ホロコーストにおいても最初から600万人のユダヤ人を殺害するという計画ではなかった。最初は言葉によるユダヤ人の差別から始まった。当時はインターネットもテレビもなかったので、誤情報やフェイクニュースが拡散されるのは今のように速くなかった。それでも「ユダヤ人が世界を牛耳っている」といった根拠のないデマなどが歴史的に反ユダヤ主義があった欧州では拡散されやすかった。ナチスドイツによってユダヤ人差別と迫害が政策になった。ユダヤ人は学校や職場から追放され、映画館や公園に入ることも禁止され、自宅から追い出されてゲットーに収容され、ナチスによる「労働を通じた絶滅」のために強制労働を命じられ、労働力に適さないユダヤ人はガス室で殺害されていった。

ナチスドイツによって約600万人のユダヤ人やロマ、同性愛者らが殺害されたホロコーストも日本人にはあまり馴染みが少ないかもしれない。反ユダヤ主義を掲げる多くの人は、「ホロコーストなんてなかった」、「ホロコーストはユダヤ人が作った作り話だ」、「そんなに多くの人が殺されたはずがない」といったホロコースト否定論を支持する傾向が高く、反ユダヤ主義的なコメントとともにホロコースト否定論がSNSなどで世界中に拡散されている。

現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義である。

多くのSNSではホロコースト否定や民族憎悪に関する投稿は禁止されており、投稿が発覚すると削除される。だが、反ユダヤ主義やホロコースト否定の投稿は機械的には発覚しにくいような隠語や仲間内でしかわからない言葉で書かれていることがほとんどで、発覚しにくく削除されないものも多い。

▼ホロコースト記念日のイスラエル大使館の投稿

▼ホロコースト記念日のドイツ大使館の投稿

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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