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アウシュビッツ X(ツイッター)フォロワー160万突破「バーチャルなコミュニティはとても重要」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「バーチャルなコミュニティは、世界的な規模で多くの人が歴史と記憶を後世に伝えていくためにもとても重要」

アウシュビッツ絶滅収容所博物館の公式X(ツイッター)が、2024年1月3日にフォロワーが160万人突破した。アウシュビッツ絶滅収容所博物館では「アウシュビッツでは何十年も前に反ユダヤ主義によって多くの人が殺害された場所です。アウシュビッツで起きた歴史を未来にも語り継いでいく責任があります。私たちのミッションはナチスドイツが作った絶滅収容所の記憶と歴史的な場所を後世に残していくことです。犠牲者を追悼し、人間の悲惨な歴史を教育していくことです。私たちは歴史修正主義やホロコースト否定論と戦っていきます。私たちはオンラインでも様々なプログラムを提供しています。このバーチャルなコミュニティは、世界的な規模で多くの人が歴史と記憶を後世に伝えていくためにもとても重要です。皆さんがこのバーチャルなコミュニティに積極的に参加してくれることがアウシュビッツで起きた悲惨な歴史を後世に伝えていくことになります」とコメントしていた。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館では、2019年8月に「解放75年を迎える2020年1月までに、X(ツイッター)のフォロワーを75万人まで目指す」と掲げていた。当時は55万人程度のフォロワーだったが、2019年末には75万まで到達し、目標はクリアした。その後、アウシュビッツ絶滅収容所博物館では「フォロワーを2020年1月27日(国際ホロコースト記念日)までに100万人」と目標を上方修正し、この目標もクリアされ、2022年末までにフォロワー数150万の目標を掲げてクリアした。そして2023年1月に160万を突破した。

コロナ前からオンラインで様々なプログラムも提供

ポーランドに設置されたアウシュビッツ絶滅収容所では約110万人が殺害された。ホロコーストで殺害された約5人に1人がアウシュビッツで命を落とした。アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも博物館としてホロコーストの悲惨さを伝えており、世界中から観光客が訪問している。2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており訪問者数は52万人程度だった。2021年もまだ世界的なパンデミックの影響で56万人程度だった。2022年はコロナから回復して118万人の観光客が訪問している。現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。

今回、アウシュビッツ絶滅収容所博物館は「オンラインでも様々なプログラムを提供している」と伝えていたが、アウシュビッツ絶滅収容所博物館では新型コロナ感染拡大前からオンラインやバーチャルでの展示に注力していた。仮想現実(VR)技術で紹介したり、オンラインで展示をしてホロコースト教育の教材を提供したり、パノラマで展示をしたりしている。最近ではポッドキャストでの配信にも注力しており、世界中のどこにいてもアウシュビッツ絶滅収容所のオンライン見学ができる。そのため、コロナ禍でアウシュビッツ絶滅収容所に直接訪問できなかった時には、世界中の多くの人が利用していた。特に欧米ではホロコースト教育が多くの学校で行われているため、このようなオンラインでのプログラムは多く活用されている。

▼X(ツイッター)のフォロワーが160万を突破したことを報告

犠牲者の誕生日だけでなくデジタル化された歴史的なコンテンツも配信

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではX(ツイッター)で毎日情報発信を行っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館のX(ツイッター)では、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかを投稿している。110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所なので、毎日誰かしらの誕生日である。ナチスドイツではヨーロッパ中のユダヤ人を絶滅することを政策として掲げていたので、支配した地域でもユダヤ人をリスト化していた。そしてどの地域で何人のユダヤ人をどこの収容所に送るという"ノルマ達成"を官僚主義的に行っていたが、その際にもきちんとユダヤ人の情報をリスト化していた。そのようなナチスドイツによるユダヤ人の徹底的な管理に向けた"まめな記録"が現在ではデータベース化されており、アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではその日が誰の誕生日かがわかる。

写真が残っていない犠牲者の場合は文字だけで犠牲者の情報を投稿している。ユダヤ人にとっては家族や友人らとの幸せだった時代の写真は貴重なものでアウシュビッツまで持ってきたが、ナチスドイツにとっては全く価値のないものだった。そのためすぐにナチスドイツによって焼却されてしまったので、平和な時代の写真が残っているのはとても貴重である。だがアウシュビッツでは強制労働に適していると判断された囚人らは3方向から写真撮影されていた。それらの写真がデジタル化されて保存されており、3枚の写真が犠牲者の誕生日に掲載されることが多い。多い日には1日に10人くらいの犠牲者がポストされることもある。

さらにアウシュビッツ絶滅収容所博物館では、大量にある犠牲者の写真の他にも文書、遺品などをデジタル化して保管しており、それら貴重な歴史的コンテンツを毎日X(ツイッター)で世界中に発信している。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではフォローの呼びかけを積極的に行っていたのでフォローはしたものの、アウシュビッツ絶滅収容所での犠牲者の写真、小さな子供の写真、生々しい死体焼却や残虐な写真などが毎日多数ポストされているので、見ているのが辛くなったり気分が悪くなったりしてしまいフォローを外してしまう人も多い。確かに見ているだけでしんどい気持ちになり、ホロコーストを研究している欧米やイスラエルの研究者でも、それらの写真を見て辛い気持ちになってしまう人は多い。毎日このようなポストが多数流れてくると気分が滅入ってしまいフォローを外してしまう人が多いのも頷ける。

アウシュビッツ絶滅収容所の博物館のX(ツイッター)ではホロコースト関連のニュースや犠牲者の情報、生存者の体験など決して明るいニュースや情報ではなく、目を覆いたくなるような写真や生々しい情報も多い。2023年10月に武装集団ハマスがイスラエルを攻撃してからは、様々な反ユダヤ主義に関する情報や陰謀論がSNSで多く拡散されているが、アウシュビッツ絶滅収容所のX(ツイッター)ではホロコースト時代の様子やニュースだけでなく、現代社会のヘイトスピーチや民族憎悪、欧米では根強く残っている反ユダヤ主義に対しても警鐘を鳴らしている。

▼アウシュビッツ絶滅収容所博物館のX(ツイッター)では、毎日囚人の誕生日に囚人の情報と写真を投稿

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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