イスラエルのヤド・バシェム、ハマスとの紛争直後に世界中で拡散される反ユダヤ主義に対抗し動画で訴え
SNSで世界中で拡散される反ユダヤ主義
2023年10月7日に武装集団ハマスがイスラエルに攻撃をしてから、多くの国で親パレスチナ派の人々が反ユダヤ主義的な発言や行動やデモをしている。そのようななかで、反ユダヤ主義的な発言もインターネットの書き込み、SNSなどでも拡散されている。欧米やアラブ諸国では今でも反ユダヤ主義が根強いため、そのような反ユダヤ主義的な投稿はあっという間に拡散されやすい。
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・バシェムという博物館がある。
ヤド・バシェムでは2023年12月に入ってから反ユダヤ主義の歴史や、世界中での反ユダヤ主義の状況と正しい歴史を理解してもらうことを目的に、公式YouTubeで反ユダヤ主義に関する動画を配信している。
ヤド・バシェムではオンラインで「反ユダヤ主義学(Anti- Semitism Studies)」の講義も無償で提供しており、その講義の動画から編集して、あまり学術的な内容にならずにコンパクトに誰にでもわかりやすくまとめた動画である。
ホロコースト否定論に対抗する記憶のデジタル化
ヤド・バシェムには約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。
ヤド・バシェムでは、ホロコースト当時の写真のデジタル化とオンラインでの展示も進めている。現在のようにスマホで誰もが簡単に撮影できる時代ではなかった。カメラも貴重なものだった。1枚1枚の写真に全てのユダヤ人の思い出が詰まっている。さらにヤド・バシェムではホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。また写真だけは辛うじて残っているが、それが誰の写真なのか全くわからないものも多い。
戦後約80年が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約20万人いる。現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。
そのようなことをヤド・バシェム、ホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。
そして反ユダヤ主義の掲げる多くの人は、「ホロコーストなんてなかった」、「ホロコーストはユダヤ人が作った作り話だ」、「そんなに多くの人が殺されたはずがない」といったホロコースト否定論を支持する傾向が高く、反ユダヤ主義的なコメントとともにホロコースト否定論をSNSなどで世界中に拡散されている。
ヤド・バシェムが公開している反ユダヤ主義に関する動画
▼現代にも残る反ユダヤ主義
▼イスラム諸国での反ユダヤ主義の台頭
▼イランでの反ユダヤ主義
▼イスラム諸国におけるホロコースト否定論と反ユダヤ主義
▼ムスリムの歴史と現在の反ユダヤ主義