ホロコースト時代に働かされた未婚女性だった生存者らが初めて記憶を語る映画「忘れられた少女たち」
2024年1月にアメリカのフロリダ州で開催されるマイアミユダヤ映画祭でホロコーストの生存者の証言を元に制作されたドキュメンタリー映画「999: The Forgotten Girls of the Holocaust」が公開される。
第2次大戦時にナチスドイツが約600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯、同性愛者などを殺害した、いわゆるホロコースト。当時未婚のユダヤ人女性がドイツ軍のために靴工場などで働かされたが、当時少女だった生存者たち5人が、当時の記憶や経験を初めて証言する貴重な映画である。
タイトルの「999: The Forgotten Girls of the Holocaust」にあるように「ホロコースト時代の忘れられた少女たち」であり、ホロコースト史の中でもあまり登場してこなかった未婚ユダヤ人女性らの貴重な証言を元に制作している。
▼「999: The Forgotten Girls of the Holocaust」オフィシャルトレーラー
90歳以上の生存者が初めて語る貴重なホロコーストの記憶のデジタル化
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
ホロコースト生存者の体験と実話を元にしているドキュメンタリー映画『999: The Forgotten Girls of the Holocaust』も明らかにこちらである。映画では90歳以上のホロコースト生存者の証言動画だけでなく、ホロコースト時代の収容所の動画や、代表的な映画(シンドラーのリストなど)のワンシーンも挿入されている。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約20万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。
しかも今回上映される「999: The Forgotten Girls of the Holocaust」は90歳以上のホロコースト生存者ら5人が初めて、当時の労働条件やアウシュビッツ絶滅収容所での経験を初めて語っているので、とても貴重な記憶のデジタル化を具現化した作品である。
そして世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。