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イスラエルのヤド・ヴァシェム、国際ホロコースト記念日に向けて犠牲者追悼「IRemember」

佐藤仁学術研究員・著述家
IRemember Wall(ヤド・ヴァシェム提供)

480万人のホロコースト犠牲者を追悼できる「IRemember Wall」

第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館がある。ヤド・ヴァシェムでは毎年ホロコーストの犠牲者を追悼したイベントを1月27日の国際ホロコースト記念日に開催している。1月27日は旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日であり、国際ホロコースト記念日に制定されている。

ヤド・ヴァシェムでは、国際ホロコースト記念日に「IRemember Wall」と呼ばれるバーチャルウォールを提供している。アウシュビッツ絶滅収容所解放78年目を迎える今年も提供する。バーチャルウォールとは、ヤド・ヴァシェムの特設サイトを訪問すると、ホロコーストの犠牲になったユダヤ人の方々480万人の写真と名前があり、ランダムに犠牲になったユダヤ人が表示されるようになっているものだ。そのランダムに表示されたホロコースト犠牲者の写真、名前、職業、家族構成、その人がどのような人生を送ったのかといったパーソナルストーリーを閲覧することができる。

またホロコーストで犠牲になった方々とランダムなマッチングも行っている。そのホロコースト犠牲者の情報を自身のTwitterやFacebookでシェアすることもできる。SNSを閲覧している友人や知人にもホロコースト犠牲者のことを知ってもらい、ホロコーストの歴史を振り返ってもらうことが狙いである。

ヤド・ヴァシェムでは約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。このデータベース構築もホロコーストの記憶のデジタル化の取り組みの1つである。現在、ヤド・ヴァシェムだけでなく世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。

ホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。ヤド・ヴァシェムにある480万人のデータベースのうち、写真もありパーソナルヒストリーもある犠牲者は少ない。「IRemember Wall」に掲載されている犠牲者もほとんどが名前と生年月日だけだ。ナチスドイツは欧州からのユダヤ人の殲滅を政策として掲げていた。特に「労働を通じた絶滅」を推進していたので支配した地域でのユダヤ人の名簿作成と死亡者の管理はしっかり行っていたため、名前と生年月日、死亡日と場所などはきちんと残っている。だが家族や親せきが全員殺害されてしまい写真が1枚もない人はとても多い。また写真だけ残っていても誰だかわからないケースもある。

IRemember Wall

▼様々なデジタルツールでアウシュビッツ絶滅収容所での様子を知ることができることを訴求するヤド・ヴァシェムの公式SNS

▼「IRemember Wall」を訴求するヤド・ヴァシェム

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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