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SNSでの「ホロコースト否定・嘘情報」テレグラムは半数、ツイッターとTikTok約2割:ユネスコ発表

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

国連教育科学文化機関(ユネスコ)は世界ユダヤ人会議(The World Jewish Congress:WJC)と協力して2022年7月に「History under attack: Holocaust denial and distortion on social media」(攻撃の歴史:ソーシャルメディアにおけるホロコースト否定)というレポートを発表した。

ユネスコの調査によると、ソーシャルメディアでホロコースト否定が多く拡散されているが、特にテレグラムではホロコーストに関する投稿のうち半数の49%が「ホロコースト否定」か「ホロコーストに関する嘘の情報」だった。またツイッターではホロコーストに関する投稿のうち19%が「ホロコースト否定」か「ホロコーストに関する嘘の情報」で、TikTokでは17%、Faceboookでは8%、インスタグラムでは3%だった。日本人にはほとんど馴染みのないテレグラムだが、ロシアではウクライナに侵攻してからツイッターやFacebookなどが使用できなくなり、テレグラムで多くの情報が発信されている。

SNSには大量の反ユダヤ主義の隠語による投稿

世界的にもまだ根強い反ユダヤ主義でホロコースト否定や反ユダヤ主義に関するSNSへの投稿は多い。第二次世界大戦時にナチスドイツによって、ユダヤ人やロマ、政治犯など約600万人が殺害された、いわゆるホロコーストだが、特に欧米では反ユダヤ主義が根強いため、ホロコースト否定論も多い。近い将来、ホロコースト生存者らがいなくなってしまったら、本当はホロコーストはなかったというホロコースト否定主義が正しい歴史になってしまう、いわゆる歴史修正主義が広まってしまうことを多くのユダヤ人が懸念している。

世界ユダヤ人会議とユネスコは「AboutHolocaust.org」というサイトを立ち上げてTikTokやFacebookなどSNSでホロコーストが検索されたら、そのサイトに誘導されるようにもしている。名前の通り「ホロコーストについて」であり、ホロコーストの歴史やデジタル化されたホロコースト生存者の証言などをオンラインで公開している。

またFacebookやツイッターなどはホロコースト否定や民族憎悪に関する投稿は禁止されており、投稿が発覚すると削除される。露骨にホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する内容であれば、すぐに削除もできる。だが、そのようなわかりやすい投稿はすぐに削除されるので、隠語や仲間内でしかわからないような言葉、新しい表現などで投稿されることも多く、全てのホロコースト否定の投稿を削除することは容易ではない。例えば「あんなことはなかった」といった文脈からでしか推測できないような表現が多く、そのような投稿をSNSから削除していくことは至難の業である。

ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した。そして例えば「6MWE」とSNSに投稿されているが、これは「6 Million Was not Enough」の略称で、反ユダヤ主義者からは「600万人では足りなかった」ということで、つまりもっと多くのユダヤ人が殺害されていればよかったということをSNSで表現している。

また、「88」というのを反ユダヤ主義の投稿で見かけるが、これはナチスドイツの総統だったヒトラーを称える「ハイル・ヒトラー」のことである。「Heil Hitler」(ハイル・ヒトラー)の頭文字「H」がアルファベットで8番目であることから、「88」で「ハイル・ヒトラー(Heil Hitler)」を表している。説明されないと何のことか、理解しがたいかもしれないが、ネオナチの隠語で、反ユダヤ主義の強い欧米では、ユダヤ団体のSNSなどに「88!」が書き込まれており、すぐに削除されている。日本ではSNSなどで「888888・・」と書いて拍手(拍手のパチパチの擬音語)を表現することがあるが、欧米では「ハイル・ヒトラー」の連呼の隠語である。このようなホロコースト否定や反ユダヤ主義の隠語が次から次に考え出されてはSNSで投稿され、拡散されている。

「歴史修正主義」に記憶のデジタル化で対抗

戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいる。ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ホロコースト生存者のユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話ができたりデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。

世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。

▼世界ユダヤ人会議ではショート動画も制作してアピールしている

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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