明るく元気で世界中で大人気の98歳のTikTok

第2次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人、政治犯、ロマなどを殺害した、いわゆるホロコースト。ホロコーストの象徴のような施設が、ポーランドに設立されたアウシュビッツ絶滅収容所で、アウシュビッツでは約110万人が殺害された。ナチスドイツの収容所政策は「労働を通じた絶滅」だったので、死ぬまで働かされ、働けない子供や老人は収容所に到着直後に選別されてガス室で殺害された。

そのアウシュビッツ絶滅収容所から奇跡的に生還し現在、英国に住んでいるリリー・エベルト氏はTikTokで視聴者からのホロコースト時代の質問に回答したり、ホロコースト時代の経験を語っている。17歳の曾孫のドヴ・フォルマン氏も登場している。そして2021年12月29日にリリー氏は98歳の誕生日を迎えた。

リリー氏のTikTokのフォロワー数が2021年6月に100万人を超えた。そして2021年11月には140万人、12月には150万人を突破、2022年5月には190万人を突破している。ホロコーストの生存者で、内容も重たいことも多いが、そのような辛い過去の歴史を語る時でも明るく元気な98歳のおばあちゃんのキュートな表情やパフォーマンスが人気だ。

そして2022年5月にリリー氏はサイモン・ウィーゼンタール・センターからホロコースト教育への貢献が顕著だったことから「サイモン・ウィーゼンタール賞」を受賞した。同センターは、ホロコースト生存者のサイモン・ウィーゼンタール氏が1977年にアメリカに設立した。欧米でもナチスハンターと反ユダヤ主義ファイターの代名詞になっている組織でもあり、2021年7月に東京オリンピックでショーディレクターを務める予定だった日本人が過去にホロコーストを揶揄していたことから世界中に怒りを表明した。2016年10月に日本のアイドル欅坂46がナチス風の衣装を着てコンサートを行った際にもプロデューサー秋元康氏とソニー・ミュージックに対して強い怒りを露わにし、謝罪を要求したこともある。最近ではホロコーストの歴史を後世に伝えるための記憶のデジタル化にも注力しており、ドキュメンタリーの制作なども行っている。

2021年11月には英国のボリス・ジョンソン首相から、歴史を変えたりコミュニティに大きな影響を与えた人らに贈られる「Points of Light awards(ポインツ オブ ライト アワード)」が17歳のドヴ・フォルマン氏とリリー・エベルト氏に授与されたこともある。

リリー氏は1923年12月21日にハンガリー生まれのユダヤ人で、何も罪もなかったがユダヤ人ということでナチスドイツに占領されてから14歳の時に母と弟、3人の姉妹とともにアウシュビッツ絶滅収容所に移送された。リリー氏も「私たちは何世代にもわたってハンガリーに住んでいました。だからハンガリー人以上にハンガリー人という意識でした」と語っていた。そしてアウシュビッツに到着すると彼女の母のニナ、弟のベラ、妹のベルタはガス室に送られてしまった。TikTokでリリー氏が語っているのはこのような当時の辛い経験だが、それでも笑顔で伝えている。

欧米でもTikTokは若年層に人気があり、リリー氏は若年層にホロコースト時代の経験をTikTokで伝えている。ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰えており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコーストの記憶や経験を後世に伝えようとして、またホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化も積極的に進められている。デジタル化された動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても多く活用されている。だがそれらの動画は教育用に作られているため、学校の授業での視聴に使うことから長時間で、写真なども残虐なものも多くあり内容も重たいことが多い。だが、リリー氏のTikTokのように音楽に合わせて短時間であれば、若い人にとっても見やすいし、ホロコーストを知るきっかけにもなりやすい。ホロコースト教育への貢献が大きいのもうなずける。

ユダヤ人のTikTokの動画は「jewtok」(ユダヤ人のJewとTikTokの造語)と言われて、「#jewtok」と付けて発信すると、世界中のユダヤ人がチェックしやすいので視聴者も増えやすい。

リリー氏は「ドヴと一緒に動画撮影するのはとても楽しいです。ホロコーストの体験を次世代に伝えていくことはとても重要で、このような動画配信ができることを誇りに思います。私のホロコースト時代の体験の証言は決して忘れてはならないことです。時が経って、多くの生存者が他界しているので、当時の証言を伝えて共有していくことは私たちの責任です」と語っていた。さらに「私はもう若くないです。このようなホロコーストの歴史を伝えていけるのは私たちが最後だと思っていました。でもこのようなソーシャルメディアを通じて次世代に伝えていくことができるのがとても幸せです」と語っていた。