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高市早苗氏 安全保障の重要性訴える「サイバー攻撃を受けたらやり返す。日本はもっと情報収集力の強化を」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

自由民主党の高市早苗政調会長が2021年12月にテレビ大阪ニュースの「高市早苗政調会長 【独占インタビュー】まかしといて!日本再生 ~命と暮らしを守る~」に出演し、幅広いテーマについて語っていた。動画も公開されている。

高市氏はその中で安全保障について以下のように力強く明確に自身の見解を語っていた。

リアルだけでなくサイバーでも守るべきものが多くなってきましたが、法的整備が追い付いていません。政府の動きもスピードが遅いです。自衛隊や防衛省がサイバ―攻撃を受けた場合に徹底的に防御するチームがあり防衛することはできます。しかし電力会社がサイバー攻撃を受けて大停電が起きてしまう、または医療機関がサイバー攻撃を受けて手術中に全く医療データが使用できなくなってしまうという命に関わる問題、また自動車がサイバー攻撃を受けて遠隔からハンドルやブレーキを操作されてしまうことは既に証明されています。また航空機も衛星からハッキングできることも明らかになっています。航空機、鉄道、自動車、船舶を安全に運行できるのか。このような命に関わる分野でのサイバーセキュリティ対策の強化は個別の企業に任せっぱなしではなくて、もっと国がリードしていかないといけません。

サイバー攻撃を受けたら、各企業だけで対応していくのではなく、同じようなサイバー攻撃は他の企業に対しても行われる可能性があります。すぐにどのような攻撃だったのか情報共有をして対策が必要になります。

「サイバーアクティブディフェンス」やられたらやり返す。サイバー空間上の反撃は諸外国では既に行っております。日本はサイバーアクティブディフェンス(やられたらやり返せる)の根拠法がありません。それ以前にサイバー攻撃を受けて、相手がわかった場合は、金融資産の凍結などの経済制裁や政治的制裁を行っていきます。徹底的にサイバーセキュリティを強化しないといけません。これは企業だけでなく個人も含めてみんなが対策しないといけない分野です。

経営者によっては意識が低いです。「サイバーセキュリティ対策に金がかかるじゃないか」と言います。実際に対策にはコストはかかります。しかしいったんサイバー攻撃を受けて業務が停止してしまったり、継続できない、データ漏えいなどで取引先にも迷惑をかけた方がコストはもっとかかります。

リスクの最小化のためのコストは惜しむべきではありません。これは個人、企業、国の全部に当てはまります。危機管理投資です。でも危機管理投資は成長投資にもなります。セキュリティの高い製品やサービスは海外にも展開できます。(中略)

国防戦略については、敵基地を先制攻撃するのではなく、相手国領域内で弾道ミサイルを阻止する能力を持つということを自民党の公約を作る時に表現しました。まず相手の動きがわからない限り対応はできません。今の日本の弱みは情報収集力が弱いことです。アメリカに依存しすぎです。

日本はもっと情報収集力を強化する必要があります。日本独自でミサイル発射の兆候を感知できないと何の作戦も立てられません。いきなり相手国の領域に日本からミサイルを撃ち込むのではなく、相手が精確にミサイルを発射させる能力を無力化することはいろいろと考えられます。ミサイル発射は衛星に依存しますので、衛星を無力化します。アメリカは衛星を無力化させる技術を持っています。衛星を破壊すると宇宙ゴミになってしまいますので、宇宙ゴミにしないで敵国の衛星を無力化したり、捕獲したり、向きを変える、敵国の衛星からの位置補正情報もジャミングして精確性を無くすなど様々な対応策があります。日米で協力しながら敵国の衛星に対応をしていく必要があります。

国の究極の使命は国民の皆様の生命と財産、領土、領海、領空、そして国家の主権と名誉を守り抜くことです。これが最大の目標で、そのために必要なことはなんでもします。

サイバースペースにおける安全保障の重要性

高市氏は2021年の自民党総裁選の出馬会見の中でも安全保障の観点からのサイバーセキュリティ対策、極超音速兵器対策、海外に最先端技術が流出してしまうことを回避するための経済安全保障の重要性を訴えていた。高市氏は総裁選出馬前から明確な国家観をもってサイバーセキュリティや経済安全保障の必要性と重要性を常に訴えていた。

国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。サイバー攻撃による情報窃取は経済の安全保障において危機であり、重要インフラへの攻撃によるブラックアウトや原発事故などが発生した場合は国家の安全保障においても非常に危険である。

そしてサイバー攻撃では、攻撃側が圧倒的に優位で強い。サイバー攻撃は相手のシステムの脆弱性を見つけて、そこから攻撃を仕掛ける。相手を攻撃をしている時に、自分のシステムにも同様の脆弱性を見つけて、修正することもできる。サイバー防衛にとってもサイバー攻撃は効果があり、サイバースペースでは「攻撃は最大の防御」である。

さらにサイバー攻撃を受けた際に、リアルな経済や金融制裁などで反撃を行うことは、抑止になる。まさに高市氏が指摘していたサイバーディフェンスが重要になってくる。「対話」と「抑止」は国際政治と安全保障の基本であり、特に大国間同士では重要である。抑止の前に対話が必要だ。サイバーセキュリティがイシューとして国家間でテーブルに上がって対話が行われているうちはまだよい。お互いが相手側からのサイバー攻撃を意識していることであり、牽制を目的として対話している。そこには抑止効果もある。だが、例えば米中間では、もはやサイバーセキュリティをめぐる対話や、中国人容疑者の起訴などによる抑止では止まることなく、2020年7月には中国政府はヒューストンの中国総領事館を閉鎖してしまった。そして米国政府は対抗措置として四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖してしまい一触即発の危機になったこともある。

またサイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけではできない。サイバー攻撃はどこから侵入してくるかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。

同じ価値観を共有し、同等の能力を保有している国同士でのサイバー同盟は非常に重要である。サイバーセキュリティの能力の高い国家間でのサイバー同盟は潜在的な敵対国や集団からのサイバー攻撃に対する防衛と抑止能力を強化することにつながる。防衛同盟において重要なのは、リアルでもサイバーでも対外的脅威に対する安全保障だ。そしてサイバ―スペースも領土、領空、領海と同じように国家の安全保障において守るべき重要な空間であり、敵国からの侵入、妨害、機密情報の窃取を絶対に許してはいけない。

そのため多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、サイバー攻撃対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。マルウェア情報やサイバー攻撃対策の情報交換だけでなく、平時においてもパブリックでの議論を行うことも信頼醸成に繋がるので重要である。

2021年9月27日に首相官邸でサイバーセキュリティ戦略本部の会合が開催された。今後3年間の「次期サイバーセキュリティ戦略」を決定し、「サイバーセキュリティ 2021(2020 年度年次報告・2021 年度年次計画)」を発表した。そのなかでアメリカ、インド、オーストラリア、東南アジア諸国とのサイバーセキュリティにおける連携強化も訴えていた。また日本へサイバー攻撃を行っている脅威ある国として中国、ロシア、北朝鮮の3ヶ国を初めて名指しして警戒感を示した。日本はこれら3国とは同じ価値観を共有していない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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